第16-6話 チュパカブラ大作戦(6)
隔壁のシャッターを手に持った小型の遠隔装置で開きながら、三人は高校校舎の屋上にまでやってきた。建物の構造上、屋上にトラップは仕掛けられていない。何が起きるか分からない学校内で唯一の安全な場所だった。
「ここまでくればひとまず安全ですの」
「これは一体何が起こっているんだ……?」
グラウンドに視線をやった護は、目を疑うような光景に思わず呟いた。グラウンドの中央に巨大な建設物が造られていた。それは校舎ほどの高さの、石でできたピラミッドだった。上部がまだ未完成なのだろう。チュパカブラに監視されながら、男子生徒たちが米俵ほどの石を背負って登っていくのがみえた。女子生徒は捕えられているのか、グラウンドの隅の鉄檻の中で震えていた。
「チュパカブラの暴走ですの。わたくしも危うく捕まりかけたのですが……朝霧が体を張って逃がしてくれたのですの」
己の無力感を噛みしめるように、愛結は唇を噛んだ。
「お兄ちゃん、見てください!」
「あれは……悟か!?」
そのとき、チュパカブラに背負われて、一人の男がグラウンドに現れた。それは先ほど校舎ではぐれた護の親友。原山悟だった。
「まだ股間を押さえていますね」
「よっぽど痛かったんだろうな」
ピラミッドの麓で下ろされた悟は、石を運ぶようチュパカブラに命令されているようだった。股間の痛みを訴えて首を振る彼だったが……一匹のチュパカブラが女子の檻に触手を向けたのを見て、震える身体で石を背負い、ついに頂上に向かって歩き出した。
「くそ、悟……! かっこつけやがって……!」
護はフェンスにかぶりついたまま、悔しそうに俯いた。
「愛結さん! アレを見てください!」
ひなたは校庭台に黒いオーブを着た怪しげな人物がいることに気付いた。
「アイツは、わたくしたちの前に現れたヤツですの。おそらく悪の魔法使い!」
「魔法使いですか!?」
「黒洞院さん、みんなを助ける方法はないのか?」
「二つ考えられます。校庭のスピーカーから流れる音楽が聞えますか? これは、緊急時のためチュパカブラの神経に刷り込んでおいた統率用のパターンメロディですの。チュパカブラは人間の言葉を理解できません。そのため命令を音楽に込めて発信することで、脳に直接命令を送り込みますの。あの魔法使いの胸元にぶら下げられているのが、それを制御する自動音声変換機ですの」
愛結は魔法使いの胸元にぶら下がった、子機のようなものを指さした。
「ヤツがなぜあの機械を持っているのかは不明ですが……コントロール室から流れるこの音楽を切りさえすれば、チュパカブラを支配から解き放つことができますの。でも、放送室は隔壁によって閉ざされていますし、敵も特に厳戒に守っていることを考えますと……残る方法は一つ。あの黒幕を直接叩きのめすしかないですの」
「それこそ、周囲の怪物たちをなんとかしないと辿り着けそうにないですよ」
「策はあります。基本的にチュパカブラは女性に弱い。本能が理性を凌駕するためですの。女性の裸体を見せれば統制下でも引きつけることは十分可能です」
「それは男じゃだめなのか?」
「ダメです。あくまで女性限定ですの。しかし……これにも問題がありまして、実はチュパカブラにも個体差によって好みがあって、大きく巨乳派と貧乳派に分かれますの。わたくしと芽吹さんでは胸が大きすぎてよくて半分しか連れ去れません。最低、一人は貧乳がいないとダメですの」
「困りましたね……どこかにいませんか。この上なく胸の小さな人は……」
その時、がちゃりと屋上の扉が開いた。
「ありがとう、彼方さん。なんとか逃げ切ることができたわ」
「ふふ、友人を助けるのは当然のことだ。……って、ん? なんでお前たちがこんなところにいるのだ?」
現れたのは彼方と千瀬だった。二人の胸を見て、ひなたと愛結は目を見開いた。
「来ました! メインバスト来ました! これで勝てます!」
「なんというタイミング! 貧乳が二人も現れるなんて! 最高ですの!」
「おい……なんで開口一番ディスられなくてはならないのだ……?」
無邪気に喜ぶ二人に彼方は青筋を立てた。
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