第16-3話 チュパカブラ大作戦(3)

 しばらくの間、視聴覚室にひなたちは身を隠していた。怪物にバレる可能性があるため、電機はつけていない。真っ暗な部屋の中で、護が窓にかかったブラインドを捲る。グラウンドではうじゃうじゃとチュパカブラ達が蠢いていた。

「しばらく身を隠しておいた方がいいな」

 出入り口に張った机や椅子のバリケードを確認した後、護は紺乃の手当てをし始めた。

「可愛そうにこんなにボロボロになって。なんて狂暴な生き物なんだ」

「違うよ……獰猛に見えて凄く可愛くて素敵なんだよ……」

「なんでフォローが入るんだ!?」

 護は目を瞬かせた。その後ろでひなたはイヤホンに耳を澄ませていた。

『えー、不慮の事故によって作戦は失敗しましたが、まだチャンスはありますの。朝霧、別にいいポイントはありますか?』

『……三か所あります。一番近いのは高校棟図書館。司書が避難して人がいません』

『それは好都合。芽吹さん、今から誘導しますので移動をお願いできますか?』

「すぐにですか? 今は化け物がたくさんいて難しいと思いますよ」

『確かに……教室前のチュパカブラの排除が先ですね。では、紺乃さん。先行して突撃して教室前の集団をこちらまで連れてきて貰えませんか。わたくしと朝霧で掃除しますの』

「分かったんだよ」

『図書館へのチュパカブラの誘導は平崎さんに任せます。今度は桜咲さんもいないので先ほどのような危険性はありませんわ』

『面倒くさいけど……了解。入部後は優遇してよね』

『わたくしの財力を駆使して最高のもてなしをして差し上げますわ』

『そこまではしなくていい』

『誘導後は大体数匹程度まで間引いてください。数匹なら男手ひとつで何とか対処できます。その後は兄妹で好き勝手してくださいませ! ……それでは作戦開始ですの! 桜咲さん、教室前の連中をお願いします!』

 イヤホンの会話が終わると、紺乃はおもむろに立ち上がった。

「桜咲さん、どうしたんだ?」

「天が私を呼んでいるのだよ」

「はあ!?」

紺乃はつかつかと教室の扉の前にまで歩いて行く。

「いやいやいや、待て! 外に行くつもりか!? 今出るのは危険だぞ!」

「ジャ○プが読みたい」

「このタイミングで!?」

「今週号のジ○ンプが……あとサン○ーの声が私を呼んでいるんだよーッ!」

「ちょっと、こら!?」

 紺乃はバリケードを蹴り飛ばして、意気揚々と廊下へと飛び出していった。そのまま勢いよく走り去る紺乃を発見した化け物達がその後を全速力で追っていく。

「なんてことだ。捕まったら大変なことになるぞ!?」

「お兄ちゃん」

「分かってる! 桜咲さんを助けに行くんだよな!」

「天の声が聞こえてきます」

「お前もか!」

「本が読みたくなりました。図書館に行きましょう」

「この状況でか!?」

「にゃんこ特集が恋しいです」

「にゃんこ!?」

「わたしはお兄ちゃんだけのにゃんこでありたい」

「意味が分からない!」

 しかし、その間にすでに紺乃の足音は聞こえなくなっていた。

「くそ、見失ったか。だが、確かに書物を漁ればこの訳のわからない化け物の正体を突き止められるかもしれんな。一か八か、行ってみるか!」

 廊下から怪物がいなくなっていることを確認した護は、ひなたを連れて図書館に向かって走り出した。

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