第15-1話 愛結の作戦

 校内は見事なまでのバイオハザードと化していた。突如現れた不気味な生物を前に、教師や生徒たちは悲鳴を挙げて逃げ回っている。多くの生徒は扉を閉めて教室に籠っているようで、教室の周りを伺うようにチュパカブラが徘徊していた。

「どうすんのよ、これ」

 モニターから観察される阿鼻叫喚の図を見て、千瀬が毒づいた。

「今うちの眷属が校長に対策手段を提供しに行っているところですの」

「……チュパカブラ対策マニュアルを持たせた。チュパカブラどもには緊急用の刷り込みシステムを仕込んであるのだ。特定の信号を与えることで強制的に言動をコントロールする、いわゆる令呪のようなものだと思って貰えばいい。最悪ソレを発動させればいい」

「上手く収めてくれるかな。あの校長だから少し心配なんだよ」

 紺乃は不安そうに表情を曇らせた。

「さて、当初の予定と異なりますが、幸いパニックが巻き起こってコケオドシな雰囲気も一掃しましたし。吊り橋効果にはちょうどいい塩梅ですの!」

 愛結は伊達メガネをかけて、仕切り直すようにそう声を張り上げた。

「作戦成功のポイントは二つですの! 一つは芽吹さんとお兄さんが二人っきりになる状況を作り出すこと。もう一つはその状態で恐怖を煽ること。この二つの条件をいかに満たすかが重要ですの!」

「……二人を巡り合わせる役割は私と愛結様がやる。モニターで各校舎の様子を確認して二人が孤立するよう、校舎内に仕掛けたトラップを発動させる」

「トラップって……公共物になんてことを……」

 千瀬がげんなりと項垂れた。

「となると、環境を整えるのが私と千瀬ちゃんの役目だね!」

「あたしは関わること自体嫌なんだけど……」

 難色を示す千瀬だったが、逃げようにも校内全体がこの有様である。さらに紺乃一人で行動させると襲われて無残に助けを求める様がありありと思い浮かんだ。

「……仕方ないか」

 千瀬はため息をついた。

「みなさん、ありがとうございます! わたし、絶対にお兄ちゃんといちゃらぶしてみせます!」

 ひなたは笑顔でダブルピースをした。

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