第13話 予想外なことはよそう
ちわっす、あたいだよ。
突然さあ、大きな戦争に巻き込まれちゃったのよ。でも、本来だったらあたい自身が首謀者かつ総大将にならなくちゃいけない戦いだったの。でも、あたいはいろんな理由で、逃げ出しちゃたんだけど、代わりに総大将になった人が、極端な武闘派で、相手がたの不興というか、要はエキサイトさせちゃって、そのとばっちりみたいな目にあたいが遭ってしまったの。戦場に向かうあたいは極度の緊張や不安で、もう死にそうよ。手は震えて槍も刀も持てっこないし、騎乗するのもたいへんな有様。頭はフラフラしちゃって、戦う前に自分に負けそうだったわ。自業自得の典型例ね。配下の兵士の信用ガタ落ちだわ。
でもね、いざ合戦が始まったら、あたいは突然、変わったの。武力はさっき言った状況だから、全然ダメだったけど、脳みそと天性の勘だけは幸いにして、無事だったの。だから、戦略というか戦術、あるいは知略みたいなもので、結構大きな敵と戦うことにしたの。だって、敵は横浜市清掃局なの。要するに、電話応対の戦いね。大学入試の問題に出るかも。『令和元年五月 電話応対の戦い』とかね。「ココ試験に出るぞ!」って頭のおかしい先生が言うの。先生はあたいね。きっとさ。
詳しい状況は差し障りがあるんで省くわ。あたいはまず、敵の出方を観たの。いいえ、本当は聴いたの。そうしたら機械的だけど、優しい雰囲気だったから「こりゃ、行ける」と確信し、相手も驚く、予想外の大撤退、というか超下手に出るという秘技を使ったの。あたいはいまの状態になる前は接客応対をしてたから、相手によって、どういう態度を取ればいいかがすぐにわかるの。電話もそう。その当時のショップではあたいの接客応対がすごく評判よかったのよ。今はぶっきらぼう? 別に仕事じゃない時まにで、接客応対する必要ないでしょ?
次は、相手の言うことをしっかり聴いて、大げさなくらいの返事をするわけ。人間って、自分の言ったことが相手に通じないことに対して、かなりイラつくでしょ。その逆に、確実に伝わったとわかると、相手は安心する。もう、ここまで来たら、こっちのもの。あとは大仰にさあ、感謝の気持ちと謝意を述べれば、相手は気持ちよく、こちらの希望を受け付けてくれて、心地よく電話を切るの。そうすれば、あたいの「負けるが勝ち」になる。地方公務員なんてさ……揺り戻しがあるとけないから、これ以上は言わない。
でもねえ、あたいは接客応対が得意ではあったけど、往々にして、好きと得意は一致しないもの。あたいは接客も電話も本当は大っ嫌いだし、いまとなっては恐怖すら感じるのよ。そういう、病気だからね。その辺は横浜市清掃局も斟酌してくれていいと思うのよ。まさにお役所仕事ね。それはともかく、この精神戦で、あたいの心身は、相当なダメージを受けたわ。成功の代償が大きすぎた。しばらくは寝込むわ。
小唄のお稽古も休業ね。
ああ、そうね。小唄の師匠なんてやってると言うと、あたいに収入があるように思われるわね。
でも、あくまでも、ボランティアでやってるからね。しかも、具合のいいときだけね。あとは弟子まかせなの。心身が健康になれば、お足をいただいて、お教室をやりたいわね。でも、あたいの病気は一生完治しないって、インターネットに書いてあるから。まあ、治らないんでしょ。生きてる限り、病気と付き合って行くしかないのよ。残念ね。
はい、さようなら。
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