第6話 嘘つきは泥棒の始まりなんて嘘じゃないか

 ちわっす、あたいだよ。


 あたいはさあ、氷川丸の上で風に吹かれてたんだわ。連休が終わって空いてると思ったの。当たりだね。でもさ、


「げっ、寒い」


 なんだよ。また逆戻りか? 双六やってんじゃねえぞって、言いたくもなるわね。

 で、船上で黄砂に吹かれて……じゃなくて寒風に吹かれて、考えたのさ。急に食欲がなくなったのは……ええっ、氷川丸てなに? って、今じゃなくてさっき聞きなよ。氷川丸の詳しい経緯はよく知らんが、とにかく歴史的に重要な船だよ。横浜の山下公園にがっちり固定されていて絶対に沈まない船だよ。まさに不沈艦。ただし、津波がくればアウトだけどな。一発でさ。そういや、この辺には日本丸もがっちり固定されてたな。どこだっけ? さすが、港町ブルースだね。

 はい、問題。ここまでで、歌謡曲およびその断片はいくつ入っていたでしょう? わかってくんないと、ギャグが成立しないよ。


 ああ、食欲の件。たぶんね、新任のケースワーカーに対する戦闘態勢があたいの心身に出来ちゃって、交感神経上位になってると思うの。野生の動物が命のやりとりするときと同じで、交感神経上位になると、食欲、排泄欲、睡眠欲が減退して、ピリピリするの。痛みや痒みも軽減しちゃう。生命をかけているってこと。ケースワーカーとあたいの真剣勝負よ。連絡がさあ、ずっと来なければライザップと同様の効果があるかもね。


 なんて考えていたら、

「あんた、どこの生まれだい?」

 って、突然に後ろから聞かれたの。誰? なにごと? と思いつつ、

「東京」

 って答えた。嘘か誠かご存知ない?

「ほう、江戸っ子かい? 気風がいいね、寿司食いねえ」

 見知らぬ男(あんたがた、もう見当ついてるよね? もちろん、あたいだってわかってるけど、それじゃあ、面白くないでしょ?)が『泉平』のいなり寿司弁当を出して来たんで、思わず食べちゃった。これで、スイッチオンよ。

「江戸は、どこだい?」

 しつこい男。

「神田神保町、本の町だよ。うるせえ、てめえ。寿司全部よこせ!」

 あたいは折詰を奪うと、男を海に投げ込んだのさ。


 ああ、あたいの私見なんだけど、横浜三大弁当は、地名度順に、

 崎陽軒『シウマイ弁当』、勝烈庵『おこのみ弁当』、泉平『いなり寿司弁当』

 じゃないっすかね。異論反論オブジェクション! おおいに待ってるよ。横浜市民。昔は『いなり寿司弁当』、横浜スタジアムでも売ってたけど、いまはどうなのかね? とにかく、おあげさんが美味い。キツネになりたくなるね。


 さて、清水次郎長の子分たち。そのほとんどが、実在の人物なんだけど、あたいが海に突き落とした、一番人気の森の石松はフィクションなの。ただ、モデルが複数いたようよ。前にどこかで誰かが、喋ってた、講談師の三代目神田伯山の創作だろうね。わざわざ、次郎長の養子に話を聞きに行ったのに(次郎長には実子がなかった)、なんで嘘ついたんだろ。でも、なんにしても、石松が見物客の一番人気だった。「腕と度胸じゃ負けないが、人情絡めばすぐほろり」と『旅姿三人男』じゃないが、石松は日本人の気質に合う。さらに古馴染みに騙されて殺される不運もあるよ。ところでさ、さっきの氷川丸でのやりとり、「石松金比羅代参」のパロディーだってわかる? 知らなきゃ、全然、面白くなかったろ。残念だったな。飴玉をやろうか?


 予定では次郎長一家がウチに仕返しに来る予定だったが、もうやめた。ただねえ、竹脇無我の主演ドラマ『清水次郎長』はかっこいいし、いいメンバーが揃ってるから観られたら是非に。


 はあ、エッセイでフィクション書くな、ジャンル替えしろだと? おふざけじゃないよ。あたいは破天荒なエッセイを、いや雑文を書いてんのよ。


 エッセイの常識破り上機嫌たった五行で夜もぐっすり


 これなら、元ネタが日本史の教科書に載ってんたろ? わかったらさあ、笑っておくれよな。

 はい、さようなら。

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