#093:能面かっ(あるいは、プラッシーボ/未達の戦い)
実況に言われた通り、「右親指と右小指」を合わせる。これがDEP開始の合図……って、何か中途半端だな! 「いくつ?」と問われ「3さい」と答える時に出す手のかたちみたい……いやDEPに集中……えーい貫けっ!!
「……『付き合ってた男にぃぃぃぃぃ、君って虎の威をかった上に猫かぶってるねって言われたぁぁぁぁぁっ、どんだけ猫科ぁぁぁぁぁっぁぁっ』!!」
やっぱあかんわ、今の私ってどんだけ薄っぺらいのやら。
結局「素状態」の私で行くことに決めた私は、追い詰められーの、苦し紛れーのでそんなしょっぱいDEPを撃ち放ったのだけれど。
10名がとこ、決して広くはない五角の「対局場」でそれぞれ同時にわやくちゃやってるからか、観客たちの反応も割と薄く感じている。いや、単に私のDEPがしょうもないからかも知れないけど。
<ミズクボ→イブクロ:35,555pt>
思った通り(いやそれ未満か)、100点満点中、35点の出来だ。ま、まあいいわ。とりあえず「時間差」、みたいな幅のある攻撃を取り入れたかっただけだもんね!
本戦のDEPは、直で「打撃衝撃」とやらに変換され、即時で指名した相手に遠隔で食らわせることが出来ると言ってた。っていうのはすなわち、ファンタジーで言うところの「魔法」的な側面を有していると、私は理解している。そしてそれを使用して、「格闘」視点で見た時の、相手の出鼻をくじく効果が絶大であろうことも。
「……!!」
評点が表示されたと同じくらいに、イブクロの左脇腹付近の藍色プロテクターが赤く円く光ると、その体を「くの字」へと折り曲げさせていく。それが、「打撃衝撃」とやらね。可視化されると分かりやすくていいわ。
そんな思考を食い気味で追い越すかのように、私の体は真正面向けて突進を始めている。
慌てて体勢を戻すイブクロの眼前まで滑り込むように踏み込んだ私は、その勢いも足して、先制の「打撃衝撃」で、その優等生的な構えに綻びができていたところを的確に狙い撃っていく。
もちろん、相手の左膝への、右ローだっ。
だらり下げていた右腕を、急制動で自分の背中側に引き絞る。顔と上半身は対する相手と正対させたままで、体全体に「捻りの溜め」を発生させていく。
次の瞬間、腕と同じく後方へと引きつけ振りかぶっていた右脚を、円を描くように……蹴り出しは力強く素早く、円軌道に乗ってからは、ほんの少し力を抜いて遠心力に爪先を委ねるように……
バランスがわずかに崩れた相手の、体重が乗ってしまってる気味の左膝蓋を目掛けて……っ!!
「!!」
完全に決まったと確信した。その私の体が次の瞬間、大きく右方向へスライドするかのようにぶれる。同時に感じる、左肩をどつかれたような衝撃。
……DEP衝撃。
空を切り、不発に終わったローから体を立て直すけど、今のはイブクロのDEPじゃあない。ふっふっと視点を素早く左右に振る。イブクロのさらに後方、紫のプロテクターと、ヘッドギアに押し込まれながらも、ボリューミーに波打つソバージュが目に入る。
「元年」、シギか。両手を前に出し、両人差し指を左右にワイパーのように振る、謎のゼスチャーをしてるけど。
やはり乱戦……そううまくは立ち回らせてくれないか。私はシギが見せているわざとらしい満面の笑みに負けないように、目と口を見開いた小面、のような未知なる笑顔でそれに対抗していこうとする。
その異次元なる様に、シギと、その手前にいるイブクロも少しのけぞった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます