#091:老成かっ(あるいは、ものすごくカニバっていて、ありえないほどの挟み撃ち)

 ふ、と意識を自分に返したら、藍色のプロテクター、金髪のロングをツインにしたこれまた少女系の佇まいのイブクロが、もう間近に迫っていた。私の狂気の形相に一瞬、たたらを踏んでくれたようだけど。結果オーライと……言えなくもないか。


 開幕と同時に炸裂した大佐×塗魚トザカナの「頂上対決」に一瞬目を奪われていた私だったが、いやいや、傍観者になってる場合じゃない。


 やっとのことで押し込めた「BET100」ボタン。瞬間、体の拘束が解除され、浮き上がるほどの身体の軽さを実感しつつも、慌てて後方に一歩、二歩、と後ずさる私。


 吹き上がって来る風で、五角形の「リング」の外周部分が迫っていることを背中で感じている。転落防止の柵とかロープやらが設置されているわけではないから、あっさり場外、みたいなことは避けたいし、気をつけなければいけない。真後ろを振り返って確認するほどの余裕は無いので左右に視線を振っての目測だが、私の後ろにはあと1mも無いはず。


 不利な立ち位置だけど、それはしょうがないと割り切るしかない。


 右手方向にはイブクロがいるけど、左にも敵さんはいるわけで。ちらと視線をやって確認すると、チギラクサはそのうすらでかい体躯を、これまたえらい明るめの黄色のプロテクターに包んで立ち尽くしているだけだった。あれ、戦意は見られず。


 何で? と、イブクロへの注意を切らさないように、瞬間目線をチギラクサ方面に送る私。


 と、その縦長の巨体のさらに後ろには、腰を割った立ち合い蹲踞姿勢のままで、これまた静観の構えのセンコがいた。こちらは縦横が関取級のド迫力さだけど、その周囲に流れる空気は何というか凪いでいる。落ち着いたオレンジのプロテクターのせいで、重機感もただならなくあるけど。


 なるほど、この二人はどちらも「正統元老」派だ。序盤は個人プレーに走るわけでなく、互いの利のため、共闘するのが正に理にかなってるってそういうわけか。


「造反元老」イブクロ側のさらに向こうも、同じく造反組のシギ(元年ソバージュ)であって、こちらも共闘態勢っぽい。つまり私は左右を同じ派閥の二人組にそれぞれ囲まれているわけであって、こぉっふぉっふぉ、こりゃぁまためっぽう不利じゃわい……。


 あまりの追い詰められさかげんに、未来の「テーベLXXXⅥエイリィセクス)(85)が現出しかける私だったが、その場所取りを見て、イブクロの方は逆にリング中央部に近い方へと立ち位置を調整していく。その背後の中心付近では、大佐と塗魚の「格闘」が始まってるわけで、逆にそこは気にしないでいいってことか。てことは位置的なアドバンテージはまず向こうが1ポイントリードってとこね。


 だが、それだけで優位に立ったと思うなよ。


 私はひとまず真正面のイブクロに意識のほとんどを傾けると、「100BET」ボタンをトトトトトトト、くらいに連打しておく。温存とかは、やっぱし甘い考えだった。初っ端から飛ばすしかない!!

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