千年

エリー.ファー

千年

 君と初めて会ったとき。

 君は僕に言いましたね。

 世界を救います。と。

 思い出しますね。

 そもそも、世界は別に英雄を求めていなかったし、誰も困っていないのに、自分から探しに行こうとするそのスタンスがとても素晴らしいと思いました。

 はい、もちろん、皮肉ですよ。

 君は特に勉強もできなかったですし、ましてや運動神経など壊滅的。

 何を誇って、何を特徴にして、何を武器にして英雄を名乗るのかなど、全く、見当もつきませんでした。

 それが、君でした。

 そういう人間なのだ。と理解するまでに時間がかかった理由も、やはり、僕が会って来た人たちの中に君のような人がいなかったためだ、と言えます。

 そして。

 それは僕にだけ感じられるものではなかったようにも思います。

 分かりますか。

 君の存在は、君以外の全ての人にとって予想外だったのです。

 良くも悪くも。

 いや。

 良くも、ね。

 多くの人が君を見て学んだのだと思いますよ。このままではいけないと、このままここに居続けるのは問題があるとね。状況に満足しようと思える人間が少なくなっていったのは事実です。

 君はそうやって焚きつけて回っていたということでしょう。

 英雄になりたいという君の言葉はね、結局、周りの人間も英雄にならずとも何かを成し遂げたいと思う、その心を作りだしたのです。

 そんなことをしているうちに、世界は少しずつ変化しましたね。

 君は、やはり英雄、つまりはヒーローということですが、それになるための機会として逃すまいと行動をし始めました。

 世界が今となっては地球人の手から離れてしまったのは、厄介以外のなにものでもありません。それは間違いのないことでしょう。

 ですが、それでも地球が今の形を成していて、自治権がある程度認められているのは君の行動があってこそではないでしょうか。

 違いますか。

 いえ、君が否定しても、僕が肯定します。

 君は間違いなく、この地球を地球のまま残すために動き、そして成功したのです。

 これが全てです。

 君は英雄なのですよ。

 世界が救われた訳ではありません。第四次、第五次、第六次、そしてレジスタンスとの戦闘、それらが始まっては終わり、始まっては終わり、完全に決着をした訳でもない。

 それは分かります。

 しかし。

 君の存在は間違いなく多くの人の命を救いました。

 僕でさえそうです。

 本来であれば空爆で、僕は亡くなるはずでした。しかし、僕は君のおかげでそこから逃げのびることができたし、地球の戦力の向上のために今や、兵器の設計に携わることができています。こんなにも嬉しいことはありません。

 だから。

 だからこそ。

 君がこれからも英雄として存在し続けることに価値があるのです。

 君が、ここで声高らかに叫べばすべての兵器が動き出すのです。

 だから。

 だから。

 この場で。

 このステージの上で、そうやって。

 銃口を自分の米神に当てないでください。

 お願いします。

 何をしたいのですか。

 君の夢はしっかりと叶い、僕らは君のことを本当に英雄だと思っています。

 何をお望みなのですか。

 大丈夫です。僕らは君のことをどんな名称でも呼びますし、そしてどんな願いでも叶えましょう。

 お願いします、英雄。

 いえ。

 神よ。

 神様。どうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千年 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ