第二十節 国境の共同作戦

 俺たちは洋館で少女たちを発見し、殺人犯を倒した。

 ローズとリリィが兵士と共に、俺たちのいる洋館までやってきた。

「メグ、もう無茶しないでよ?」

 ローズは、マーガレットに話掛けた。

「ごめーん、緊急だと思ったから……」

「知り合いか?」

「幼馴染みよ」

「だいじにならなくてよかったわ」

 リリィは、少女たちの頭を撫でる。

 俺たちは、少女たちをパン屋に送り届けた。

「マーガレット様……ありがとうございます」

 母親は、子供たちを抱きしめ涙を零す。

 俺たちが城に向かうころには、すっかり暗くなっていた。

 マーガレットも一緒に城に向かっている。

「お前も城に住んでんのか?」

 俺はマーガレットに尋ねた。

「うーん……」

 マーガレットは困った表情を浮かべる。

「聖なる力を使っていたし、神官かなにかか?」

 護衛の男は立ち止まり、マーガレットの代わりに答えた。

「このお方は、フォレスティア王国の王女マーガレット様です」

「この城の……王女?」

「そうです、ご無礼の無いように……」

 護衛の男はそう言って、再び歩き始めた。

 お忍びであのパン屋を訪れていたのか?

「民とここまで触れ合う王族は珍しい……」

 俺の隣でミネルバが言った。

「王族は、民衆に慕われているのだろうな」

 ミネルバも王族に仕えていた身だ……。

 しかし、信頼していたのに裏切られて……。

 うらやましさとか、そういった気持ちもあるのかも知れない。


     ◇ ◇ ◇ 


 数日後――。

「ねぇあなたたち、モンスター討伐手伝ってくれない?」

 城から戻ったローズが俺たちに言った。

 俺とユリル、ミネルバは、ローズの話を聞く。

「国境付近にモンスターが出現したらしいのよ」

「今回は、国境ということもあって、隣の国との共同作戦になるわ」

 リリィが言う。


 城が用意した馬車で、俺たちは国境に向かった。

 馬車は全部で5台、それぞれに兵士と魔導師が総勢30名乗り込む。

 俺たちの乗った馬車は、農業で使う荷物用のものだった。

 荷台の部分に、俺とアヒル、ユリル、ミネルバとほかの魔導師が腰掛ける。

「待遇がひどいな……」

「まるで売られていくみたい……」

 ユリルが寂しそうに呟いた。

「下っ端の魔導師の扱いなんて、こんなものよ……」

 アヒルが口を開く。

「ところでローズの姿が見えないけど、別の馬車か?」

「そうじゃない?」

 アヒルは、興味なさそうにあくびをする。

 馬車は、西に向かって進んで行く。

 緑の平原が広がり、家畜を放牧している風景が見えた。

 そこを過ぎると、土と岩山の山岳地帯にさしかかる。

「みて、建物がある」

 俺は、ユリルが指差す方に目を向ける。

 岩山の山頂に、砦が立てられていた。

「まるで見張り台だな」

「あれが、この国の国境となるわ」

 馬車は山道をゆっくりと走り、その場所へ向かった。

 砦に到着する頃には、すっかり太陽が西に傾いていた。

 朝出発して、10時間近くは馬車に揺れていた。

 背中と腰が痛くなる。

 ユリルも自分のお尻を揉んでいた。

「やっと着いたかーっ」

 馬車から降りて、背を伸ばした。

 砦には10人ほどの兵士が駐在していた。

 砦の周りには町どころかほかの建物は一切無く、岩山しかない。

「こんな何も無いところに、駐在するなんてキツそうだな……」

「荒廃した世界よりはましでしょう?」

「まぁ、そうだろうな」

 砦からは四方がよく見渡せる。

 崖をくだり、もう一つ山を登ったところに、別の砦が見えた。

「あれより先が、隣国ヘルシャフトブルクよ」

 アヒルは、ミネルバに抱かれながら言った。

「今回は、その隣国さんと共同作戦か?」

「そのようね」

「ところでローズの姿が見えないけど」

 辺りを見るがどこにもいない。

 男の魔導師が一人、俺の元に歩いてきた。

「あの……ローズさんのことなんですが……」

 その魔導師は、手にメモのようなものを持っている。

 嫌な予感がする……。

 俺はそれを受け取って開いた。

 『気分じゃないから、今回はパス あとよろしく』

 殴り書きで、そう書かれていた。

 アヒルとユリル、ミネルバもそのメモを覗き込んだ。

 アヒルの目は据わっていた。

「あのやろう!」

 俺は、メモをくしゃくしゃに丸めて投げ捨てた。

「どういうことだ!?」

 俺はアヒルに問いただす。

「なんで私に言うのよ?」

「お前だろうが!?」

 水を飲んで一息ついていると、集合が掛かった。

「お互いの砦間の国境で落ち合うことになっています」

 隊長を名乗る兵士が皆を集めてそう言った。

 俺たちは、隊長に付いて斜面を下って行った。

 ヘルシャフトブルク側の砦からも、2~30人程の兵士が山道を下っているのが見えた。

 山を下った平地で、互いの国の兵士が落ち合った。

 ヘルシャフトブルク側は、全員剣と鎧に身を包んでいる。

 魔導師はいないようだ。

 先頭に立つ男が口を開く。

「我が名は、ヴァイスハイト――」

 その名を聞いて、俺たちと一緒にきた兵士と魔導師がざわめく。

「ヘルシャフトブルクの王子だ……」

 そんな言葉が聞こえてくる。

「なんでまた、王子がわざわざモンスター討伐に?」

「自分の力をフォレスティア側に誇示したいだけでしょう?」

 アヒルは、ヴァイスハイトを睨み付けていた。

「どうした? 怖い顔して」

「いけ好かないだけよ……」

「これより、モンスター掃討作戦を開始する!」

 ヴァイスハイトを先頭に、連合部隊は目的地まで進んで行く。

 陽もすっかり暮れて、星が夜空を彩る。

 俺たちは松明を手に進んで行った。

「いったいどんなモンスターなんだ?」

 俺は隣を歩く魔導師に問い掛ける。

「詳しくは聞かされていません……ただ……」

「ただ?」

「この世の者ではないとだけ……」

「キャーッ」

 ユリルが叫んだ。

「どうした?」

 見ると、しゃがみ込み、耳を閉じて震えている。

 今の話しが聞こえていて、ビビったのか……。

「大丈夫だって……」

 俺はユリルの肩に手を置いた。

 ユリルは、顔を上げずに指を指す。

 俺はその方向を見た。

 骸骨だ――。

 無数の骸骨が、宙に浮いている――。

 いや、歩いてきている。

 これが、討伐対象のモンスターか!?

 骸骨はそれぞれ手に剣や斧を持っている。

「なんで、骸骨が動いているんだ?」

 ミネルバが俺に問い掛ける。

「確かに……よくよく考えると不思議だな? それよりも剣を構えろ、くるぞ!」

 骸骨の大群は、連合部隊に向かってきた。

 ガキン――。

 先頭にいたヘルシャフトブルクの兵士が接敵する。

 骨に対抗できるようなモンスターに変身したいな。

 俺は腰に手を当てて、マジカルステッキを天高く付きだした。

「へん――、しん――」

 俺の体は、光に包まれ宙に浮いた。

 魔法使いプリティ☆リボンこと吉野克也は、ステッキのスイッチを入れることで、モンスターに変身するのだった。

 着ていた服は消え裸になる。

「おぉっ」

 魔導師と兵士たちから声があがる。

 骸骨も嫌らしい目で俺を見ている。

 骨だけかと思ったら、目もあるんだな……どういう仕組みだ?

 それにしても、恥ずかしい……。

 そして、煙に包まれた。

 ぼわん――。

 今回は、何のモンスターに変身したのだろうか?

 手足が多い……確実に虫だな。

 背中にはカメの甲羅ようなものが付いている。

「この姿は……ダンゴムシ?」

 俺は体を丸めて、ボールのようになった。

 そして、地面を転がる。

 ゴロゴロゴロゴロ――。

 そのまま、骸骨の群れに突っ込んだ。

 ドーン――。

 まるでボウリングのピンのように、骸骨たちは吹っ飛んでいった。

「どうだ!」

 しかし、次々と骸骨は押し寄せてくる。

 俺は何度も、ボーリングで骸骨の群れに突っ込んだ。

 ほかの兵士は剣で、魔導師は炎や土魔法を使い骸骨を迎撃していた。

 数が多い――。

「くそ、倒しても倒してもきりがねぇ――」

「違うわ、みてカツヤ」

 アヒルが指を指す。

 地面に倒れている骸骨が起き上がり、再び向かってくる。

「そんな……不死身かよ!?」

「これが、アンデッドモンスターの真の恐ろしさよ」

「どうすりゃいい?」

「聖なる力があれば……」

 神官は今回の部隊には編成されていなかった。

 事前に情報があれば、編成されていたはずなのに、聞かされていなかったのだろうか?

 カンカンカンカン――。

 みな疲弊し始めた頃、一人で一度に何体もの骸骨を相手にしている者がいた。

 ヴァイスハイトだ――。

 疲れることを知らないのか? 息一つ乱れていない。

 その剣は、ひと太刀で、何体もの骸骨をなぎ倒している。

 ヒュン――。

 ヴァイスハイトは、目の前の敵を倒すと、瞬時に次の標的の場所まで移動した。

「なんだ今!? ヴァイスハイトが移動しているのが見えなかったぞ?」

 まるで瞬間移動をしているように見える。

瞬間地点移動ブリンクというスキルよ」

 アヒルが言った。

「あのように、一瞬で間合いを詰めたり、敵の攻撃をかわしたり……剣士のスキルでは最上位に位置するわ」

「すごい……」

 ミネルバは感心していた。

「まさに剣豪と呼ぶに相応しい……」

 隣で見とれていた兵士が呟いた。

「あいつ、有名なのか?」

「はい、世界の剣士の中でも一、二を争う強さと言われています」

 ヴァイスハイトが善戦するが、骸骨の数は一向に減らない。

「日の光を浴びれば、やつらは動かなくなるわ……」

 アヒルは言った。

「むちゃ言うなよ……朝まであと何時間もあるぞ?」

 だんだん目の前の視界が悪くなってきた。

 霧か!?

 その霧は紫の色をしていて、背筋に悪寒が走るほどのいやな感覚を覚えた。

「これは……? みんな伏せて、この霧を吸ってはだめ!」

 アヒルが叫んだ。

 俺は、言われた通りに地面に伏せた。

 目の前でバタバタと兵士が倒れていく。

 なにが起きた!?

「これは、死の霧……」

「まさか、これを吸うと死ぬのか?」

 アヒルは首を横に振る。

「もっと恐ろしいことが起きるわ……」

 倒れていた兵士が立ち上がった。

「おい、危険だ! 伏せろ」

 俺は、兵士に向かって叫んだ。

 兵士は俺を振り返る。

 その目は充血し、口からは唾液を垂れ流している。

「なんか……様子が変だぞ?」

 目の焦点が合っていない。

 兵士は、俺に向かって剣を振り下ろした。

「うわぁっ」

 俺の目の前にミネルバが駆け込んだ。

 カキン――。

 ミネルバが、レイピアで剣を防いだ。

「いったい……どうしたというのだ?」

「操られているのよ……この霧に」

 アヒルは言う。

 何人もの兵士と魔導師が起き上がり、こちらに向かってくる。

 くそっ……。

 兵士を傷付けるわけにも行かないし……。

 逃げようにも、霧が濃くて周りが何も見えねぇ。

 どうすれば……。

「下がっていろ」

 ヴァイスハイトが俺たちの前に立った。

「何か策があるのか?」

 ヴァイスハイトは黙って剣を構える。

 そして、瞬間地点移動ブリンクを使って間合いを詰めた。

 一瞬で、操られている兵士の目の前まで移動した。

 兵士は、突然のことで剣を構えることもできていない。

 ズバッ――。

 ヴァイスハイトは、兵士の腹を横から切り裂くように剣を振った。

「ぐわっ」

 兵士は、その場に倒れ込んだ。

「おい! お前の仲間だろう?」

 俺は、ヴァイスハイトに向かって叫んだ。

「彼らもこの作戦に参加した時から、死ぬ覚悟はできているはずだ」

 ヴァイスハイトは俺を振り返り、そう答える。

「いや、そうでなければならぬ……キミもこうならないように気をつけたまえ」

 その表情は冷たく、まるで人間の感情を捨てた機械のように見えた。

 ズバッ、ズバッ、ズバッ――。

 ヴァイスハイトは、操られた兵士を次々に切り倒していく。

「もう、やめろ!」

 くそ、このままじゃ、全滅する――。

「カツヤ聞いて、この霧は自然に発生したものではないわ……」

「何者かの仕業ってことか?」

 そいつを叩けば……。

 しかし、霧が濃くて敵の居場所なんてわからないし……。

 立ち上がったら、霧を吸い込んでしまう。

 霧さえ何とかできれば……。

 ユリルは怯えて使い物にならないし。

 俺の魔法でかき消すことができるだろうか?

 例えば風魔法……。

「なぁアヒル、ローズがオークを倒した時にやった風魔法……俺にもできるか?」

「コツさえ掴めば、カツヤならできるわよ」

 アヒルは真剣な面持ちで答えた。

「カツヤは、普段魔法を使う時に、無意識にマナを放出しているわ」

「あぁ……マナが何かよくわかってないから、気にせず詠唱しているな」

「魔法が得意な人、そうでない人の違いは、どれだけマナを意識しているか――なのよ」

 マナ……か。

「マナは言わば生命エネルギーよ……コントロールできない人だと、感情の起伏――怒りや悲しみ、恐怖などで放出されるマナの量が変化するわ」

「生命エネルギー……感情……難しそうだな」

「よくわからなかったら、怒りを爆発させてみて? 魔法の発動タイミングに合わせれば、瞬間的に大量のマナが放出されるわ」

 怒り……怒り……怒り……何に対して怒るか……。

「アホドリ、俺のパン食ってんじゃねー! グリモワールⅠの章・大気魔法気圧制御『雄風』ストロングブリーズ

「私に怒りをぶつけてんじゃないわよ!」

 俺は地面に向けて空気の渦を投げつけた。

 ダン――。

 大きな破裂音と共に、強風が俺の周りから外側に向けて吹き付ける。

 ヒューッ――。

 風が流れると共に紫色の霧は押し流されていった。

 霧だけでは無く、強風により骸骨や兵士、魔導師も大きく吹っ飛んだ。

「うわぁっ」

 強風で飛ばされただけなので、大した怪我はしないだろう。

 よし……これで霧は晴れた……あとは、この霧を操っていた奴を探すだけだが……。

 辺りは暗く、人の数も多くて、どこにいるかわからない。

 何かに変身して探すしか無い!

 俺は腰に手を当てて、マジカルステッキを天高く付きだした。

「へん――、しん――」

 俺の体は、光に包まれ宙に浮いた。

 魔法使いプリティ☆リボンこと吉野克也は、ステッキのスイッチを入れることで、モンスターに変身するのだった。

 着ていた着ぐるみは消え裸になる。

「おぉっ」

 魔導師と兵士たちから声があがる。

 骸骨も嫌らしい目で俺を見ている。

 やっぱり、恥ずかしい……。

 そして、煙に包まれた。

 ぼわん――。

 今回は、何のモンスターに変身したのだろうか?

 手足は六本……背中に大きな羽が四枚ある。

 額にはゴーグルのようなものが付けられている。

 ゴーグルを目に当てると、視界が広く上下左右を見ることができた。

 この姿は……トンボ?

 俺は背中に付いた大きな四枚の羽を羽ばたかせる。

 これで、上空から見つけ出す。

 すごい……視界が広い……空も地面も真横も同時に見える。

 普段は、前方の一部の角度しか見えていないのがよくわかった。

 地上を見ると、骸骨に混ざってローブ姿をした者が見える。

 あの格好……フォレスティアの魔導師では無いな……。

 すると、骸骨を操っていたやつか!?

 俺は、そいつの元に急降下した。

 そして、両足を揃えて蹴りを顔面に叩きつけた。

 ドーン――。

 ローブ姿をした者は、俺の蹴りをくらい吹っ飛んでいった。


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⇒ 次話につづく!

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