【異世界世紀末!!魔法少女プリティ☆リボン】キャラメイクとリセマラに5日かけて転生したら、世界は滅亡していたんだが……。

穂村緋彩

プロローグ

 異世界暦999年、世界は竜の炎に包まれた。

 花は枯れ、地は裂け、海は干上がった。

 あらゆる生命体は、絶滅したかに思えた。

 しかし――。

 人類は死滅していなかった。

 暴力だけが支配する混沌とした異世界世紀末に、今ひとりの魔法少女が舞い降りる。


     ◇ ◇ ◇ 


 それは、ある大雪の日だった。

 東京は例年に無い積雪で、多くの交通機関は麻痺していた。

 それでも今日は『魔法少女プリティ☆リボン』のフィギュアの発売日。

 俺は行かねばならん。

 並ばなければ買えないから――。

 しかし、その選択が間違いだった。

 俺の人生を狂わせた。

 いや、終わらせた――。


 俺は、まだ朝日も昇らぬ早朝に家を出た。

 始発電車は遅れながらも動いていた。

 よかった……止まっていたら泣き寝入りだ。

 電車で揺れること一時間。

 アキバに到着した。

 こんな大雪の日でもショップは長蛇の列だった。

 そして、極寒の中で並ぶこと5時間――

 漸く手にすることができた『魔法少女プリティ☆リボン』のフィギュア。

「うおぉぉぉぉぉぉっ」

 俺は叫んだ。

 早く開けたかった。

 だから急いで家に帰ろうとして、雪道を駆けだした。

 地面は雪で凍結していて、俺は足を滑らせた。

 ツルッ――。

「危ないっ!」

 大切なフィギュアを守るため、袋をしっかりと両手で掴んだ。

 ゴンッ――。

 俺は頭から地面に叩きつけられた。

 その代わり、フィギュアは無事だった。

 よかった……。

 でも……俺は……無事じゃ無かった……。

 そのまま意識が薄れていく。


 ん? ここは?

 気が付くと暗闇に包まれていた。

 どこからともなく声が聞こえてくる。

『ここは死後の世界……あなたは死んだのです』

 そうか……死んだのか。

 別に悔いは無い。

 ろくに定職にも就かずに、気が付けば30才を過ぎていた。

 無職の太ったおっさんに恋人ができるわけもなく……バイトして、家に帰ってアニメを見るだけの堕落した生活だった。

 楽しみと言えばアニメくらいで、夢や希望などありはしなかった。

『あなたはこれから異世界に転生して、また新たな人生を歩むのです』

「なに? 異世界に転生できるのか?」

『はい。あなたがこれから行く世界は、モンスターがはびこる剣と魔法の世界」

 剣と魔法の世界――その言葉に胸を躍らせた。

 夢にまで見た異世界生活――。

 そこで、人生を一からやり直せるんだ!

『さぁ、職業を選びなさい』

 目の前に、各職業のホログラムが映し出される。

 選択できるのは、ソードマスター、クレリック、アサシン、メイジの四職業のようだ。

 今後の人生の選択肢だ――慎重に選ぼう。

 ホログラムの下に、それぞれの職業の説明が書いてあった。


【ソードマスター】

『唯一剣で戦う職業です。耐久力が高く最前線で戦うロールです』


 剣は魅力的なんだけど、タンクとして敵の攻撃を耐え続けるのも、脳筋な気がしてなんか嫌だなぁ。

 ダメージを受けたら、実際は痛いんだろうなぁ……。


【クレリック】

『回復魔法と補助魔法に優れ、後方から仲間をサポートするロールです』


 うーん……。おそらくソードマスターをひたすら回復することになるんだろうなぁ。

 できればモンスターをガンガン攻撃したいし、俺の性格には合わないな。


【アサシン】

『一撃の威力が高く、近距離はナイフ、遠距離は弓と、多様な戦い方ができます』


 なんか玄人職業っぽくて、少し魅力を感じた。

 もう一つを見てから決めよう。


【メイジ】

『強力な攻撃魔法を使い、複数の敵にダメージを与えることができます』


 うーん、やっぱり魔法を使いたいな……なにせロマンがある。

 後方から強力魔法で爽快感を得られるし、何せ前線に立たないから命の危険も少ない。

「メイジにする!」

『それでは、キャラメイクに入ります』

「おお! 自分で決められるのか? それは凄い」

 ホログラムの前で手を横に振ると、男と女キャラが切り替わった。

 性別は女にする……誰がおっさんキャラなど使うもんか。

 いろいろ着せ替えて楽しむんだ……デュフフ。

 体型……。

 むっちむちの豊満ボディもいいけど――魔法使いと言ったら、魔法少女だろう。

 幼女体型を選択と――デュフフフフ。

 楽しくなってきた。

 ホログラムは、顔のアップに切り替わった。

「顔のパーツも、一つ一つ自由に調整できるのか?」

『すべてのパーツを、自在に変更できます。ただし、一度作ったら変えられませんので慎重に』

 むむむ……これは一仕事だぞ。

 どんな風にしようか?

 そうだ、職業をメイジにしたことだし、魔法少女のリボンちゃんそっくりにしてみよう!

 髪型はツインテールで決まりと……色はピンクを選択。

 次は目の大きさだな。

 そして……。

 目の調整に10時間掛かった。

 そのあたりから、天の声は聞こえなくなった。

「おーい、どうしたー!? 寝てんのかー?」

 ……まぁいい。

 それから2日経った。

 最後に服装も決めて終わりだな!

 服装はピンク色のメイド風ゴスロリ、頭にはメイドカチューシャをつけてと、胸には大きめのリボンだな。

「できたー!」

 魔法少女のリボンちゃんそっくりにできた。

「おい、天の声! できたぞ、次はどうすればいい?」

「ふぁぁぁっ……初期武器を授けます」

 天の声に覇気がないな……というか、今あくびしてなかった?

 キラキラキラ――。

 まばゆい光と共に、天から真っ白なクリスタルが落ちてきた。

 そして、俺の目の前ではじけ飛ぶ。

 キーン――。

 中から出てきたのは、木でできた杖。


【樫の杖】

 レアリティ:コモン

 効果:魔法攻撃力+1


「弱そうだ……。本当に初期武器だな」

『引きなおしますか?』

「おぉ!? まじかリセマラできんのか?」

『納得いくまで、何度でも引きなおすことができます』

「おし、やるやる!」


 引きなおすと、天からブルーのクリスタルが落ちてきた。

「お、さっきと色が違う」


【流水のロッド】

 レアリティ:レア

 効果:水魔法ダメージ10%UP

 確率で敵に『ずぶ濡れ』の効果を与える


「おぉ、レアだ!」

『これにしますか?』

「いや、こんなんで満足してはだめだ! もっといい武器があるはずだ」

 それから何百回と引き直した。

 そして、1日経った頃だった。

 キュイーン……ドゴオォォォォォン!

 強烈な効果音と共に、天から金色に輝くクリスタルが落ちてきた。

「こ……これは期待できるぞ!」


【炎王イフリートの封杖】

 レアリティ:レジェンドレア

 効果:炎王イフリートを召喚し、敵全体に超絶炎攻撃

 さらに10ターンに渡り炎症ダメージを与える


「キターッ! つ、強い……これにしよう!」

『はい、じゃあ決定したところで……』

「いいや、まてまてまて! さらに上があるんじゃないか!?」

 俺は欲をだした。

 レジェンドレアの中でも、ランクの違いはあるはずだ!

 もっといい武器が有るかも知れない。

 俺はガチャを引き続けた。

 しかし……。

 それから1日経っても、レジェンドレアは出てこなかった。

「くそっ やっちまった……」

 後悔した……。

 あの時、『炎王イフリートの封杖』に決めておけば良かった……。

 さらに1日が経った。

 俺は精も根も尽き果てていた。

 キュイーン、キュイーン、キュイーン!

「な、なんだ!? パチンコの確定演出みたいなこの音は!」

 ドゴオォォォォォン!

 轟音と共に、天から虹色に輝くクリスタルが落ちてきた。

「こ、これは……」

 遂に奇跡が起きた!

 3日間粘ったかいがあった!


 杖の先端に星が付いていて、まるで魔法少女が持つ魔法のステッキが出てきた。


【マジカルステッキ】

 レアリティ:チートレア

 効果:倒したモンスターに変身し、その能力を使うことができる


「な、なんだ? チートレアって……これはレジェンドレアよりも上なのか下なのか? それよりも、モンスターに変身できる!?」

 一瞬、微妙と思った……。

 しかし、よく考えたらボスキャラを倒せば、それに変身できるってことだろう?

 後半、絶対に強いぞこれ!

「これにする!」

『こほん……ようやく決まりましたね』

 咳払いがわざとらしい……。

『最後に、課金で異世界ゴールドを購入できますが……事前購入すると10%お得です』

 課金!?

『あなたが、生前残した銀行口座から引き落とされます。遺族の為に残すのもよし、あなたの次の人生を歩むために使うのもよいでしょう』

 俺は、一切ためらわなかった。

 俺がバイトした金だし、自分のためにパーッと使うぞー!

「全額、異世界ゴールドに換金して下さい」

『わかりました。異世界での所持金は、8万7千ゴールドになります』

 それがどれだけの価値があるのか分からないが、先立つものは必要だ。

『すべての準備が調いました。それでは、あなたを異世界に転送します』

 いよいよだ……はじまるんだ、俺の異世界生活が!

『よい異世界生活を……』

 俺は光に包まれた――。

 キャラメイクとリセマラに5日掛かった。

 でも、魔法少女リボンちゃんそっくりに仕上がったし、チートらしい武器も手に入った。

 これから始まる異世界生活は、希望に満ちあふれていた。


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⇒ 次話につづく!

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