5畳半に世界を眺める窓

@jabberwock257

第1話 綺麗で何でもできた歯車仕掛けの泥人形

その人形は手先が器用だった。

その人形は耳が少し良かった。

その人形は少し人の気持ちの動きに敏感だった。

その人形は自分のことを作り変えることすらできた。


いつの頃だったか、人形は手と耳を生かして物を作るのを生業にしていた。

その頃からだったか、人の気持ちを読み取って誰に対しても理想の相手として接した。


作ることに関しては他のものよりも早く正確に完ぺきにできた。

自分という確かなものは持っていなかったので前もって予想できる理想の「俺」のお面を泥でいくつも作り、付け替えることで完ぺきな人形を演じた。


「俺」は最初から自分なんてものを持っていなかったし、求められた事を求められたとおりに作り出した。


そこに立っていたのは、いや、あったものは歯車仕掛けの泥人形だった。

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