第10話 ウチ④
簾内くんにスケジュールを確認した日の放課後、二階の職員室の隣にある大会議室に向かった。頼まれていた文化祭参加の書類を出すためだ。
「失礼しまーす」
ノックして会議室のドアを開けると、中にいた人たちが一斉にこちらを見る。その中にはいつか噂になっていた火宮くんもいて……って、あれ、
「簾内くん?簾内くんって、実行委員だったの?」
火宮くんと話していたらしい簾内くんは、ウチを見ると驚いたように目を丸くしていた。
「そうだけど。見目さんは、どうしたの?」
「部活の出店申請書類を出しにきたんだけど、どこに出せばいい?」
「ああ、それなら……」
簾内くんは部屋を見回してドアに一番近い机を見た。机には『申請受付』の札が立っていて、でも人はいない。
「……じゃあ、代わりに僕が見るよ」
簾内くんはそう言って、ウチから書類を受け取ると空いた椅子に腰掛けた。
ここじゃ完全にアウェーみたいだし、同じクラスの簾内くんがやってくれるのは助かる。手近なところにあったパイプ椅子を借りてウチも座った。
「それにしても、簾内くんが実行委員もやってるなんて知らなかった。両方掛け持ちしてるの?」
「うん、本当は片方だけのはずだったんだけど、やりたい人がいないらしくって、頼まれてさ」
「へぇー……でもいくら頼まれたからって、ここまでやるなんて凄いね」
簾内くんは話しながらも書類に目を通して、なにやら書き込んだりしている。そういう仕事の人かと思うくらい手際がいい。クラスでのことといい、こんなに色々できるなんて凄いと思う。
そう言うと、簾内くんは一瞬手を止めて、誤魔化すように笑った。
「まあ、昔から僕はこういうことしかしてこなかったから」
と、向こうから誰かが簾内くんを呼ぶ声がした。見ると、二年生らしき人がプリントを手にこちらを見ている。簾内くんが頷いてみせると、その人はそのプリントを机に置いて、自分の席に戻っていった。
「……そう言えば、簾内くんはなんの仕事してるの?これは担当じゃないんでしょ?」
「僕?僕は会計。掛かる費用の計算とかしてるんだよ」
「会計かぁ。予算管理とかするんだ」
そう言えば、年度末の生徒総会で配られたプリントに文化祭予算と収支も書いてあった。ああいうのをやってるんだろう。
本当に、人目につかないことばっかりだ。
そして、こんな話をしている間にも簾内くんの書類を捲る手は止まらず、いつのまにかもう最後の一枚まできていた。
「それにしても、もうこんなに決めてるなんて、バスケ部は準備が早いね」
「え、そう?」
ウチなんて副部長とチームメイトにほとんど丸投げで、渡されたのを持ってきただけだから早いのか遅いのかさっぱり分からない。正直、文化祭でなにをするかにはあんまり興味もなかったし。
でも言われてみれば、さっきから他の部活が申請に来る様子はないし、受付の人が席を外せるくらい暇なのはまだどの部も申請に来ないからなのかもしれない。
「十分早いよ。友の美術部なんか、いっつも期限ギリギリだし」
「友……?ああ、
竹馬さんは美術部の副部長だ。
「そう言えば簾内くん、竹馬さんと仲いいよね。いつも話してるみたいだし」
最近見ていて分かった。休み時間になるたび竹馬さんは簾内くんに話しかけにいって、簾内くんは作業しながらのときもあればそうじゃないときも楽しそうに笑って答える。他の人たちのお喋りとは違う、割って入りにくい二人だけの世界が出来ているようだった。
「幼馴染だからね。幼稚園の頃からの付き合いなんだよ。幼稚園、小学校、中学校と一緒だった」
「へぇ……」
やっぱり、相当昔からの付き合いなんだ。幼稚園から高校まで一緒っていうのはかなり珍しいし、ならあの仲の良さも納得だ。 ……どうにも簾内くんは、竹馬さんが親しげなもう一つの大事な理由には気づいてないみたいだけど。
見終わったらしい簾内くんはボールペンを仕舞って、代わりに印鑑を取り出すと書類に押印した。
「じゃあ、不備も特になかったし、この書類は預かるよ」
「そう?よかった」
書類が机の横に置かれた籠に入れられるのを見届けて立ち上がる。
「代わりに見てくれてありがとう。実行委員、頑張ってね」
「うん、見目さんも」
お礼を言ってドアに向かうと、簾内くんも自分の席に戻っていく。
ドアを閉めるときにチラッと覗くと、簾内くんはさっき二年生が置いて行ったプリントやファイルを広げてペンを忙しなく動かしていた。
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