第7話 私③

 休み時間、次の授業の準備をしていると、後ろの席から聞き慣れた声と、聞きなれない声が聞こえてきた。

「ねぇ、簾内くん。ちょっといい?」

「見目さん?どうかした?」

「文化祭の話なんだけどさ……」

慎と隣の席の見目さんが、慎に話しかけているみたいだった。

 なんで?

 見目さんと慎は別に仲がいいってわけでもないはずだし、なんで急に話しかけたりしてるんだろう。しかも、文化祭のことで。見目さんは体育委員で、文化祭には特に関係なかったと思うんだけど。

 なんとなく気になって耳をそばだてていると、二人は慎が纏めた議事録のノートを開いてなにやら話し込んでいるらしい。なにを話してるのかまではここからじゃ聞こえないけど、二人の話が終わるのを待って話しかけてみようかな。

 けど二人は休み時間いっぱいまで話していて、結局話しかけられなかった。

 授業が始まっても、板書を写しながらそればっかり考えてしまう。どういうことなんだろう。どういうつもりなんだろう。

 もちろん、慎は学級委員なんだし、クラスの誰だって話しかける用事ができてもおかしくない。でも、今まで慎に学級委員の仕事がらみで話しかけてくる人なんていなかった。だから、関係のない文化祭のことで慎に話しかけた見目さんのことが必要以上に気になってしまう。

「じゃあ演習のプリント配るから、来週末までに提出するように」

列の前からプリントが回されてきた。後ろの人に回すときに慎の方を見ると、見目さんが落としたプリントを慎が拾っていた。見目さんが片手で拝むような仕草をして、慎が気にしないでと笑顔で手を振る。

 なんだろう。なんであんなに仲良くなったんだろう。それとも見目さんが距離の取り方が近いだけ?

 昼休み、見目さんが食堂に行ったのを見届けて慎に聞いてみることにした。

「慎。さっき見目さんがなにか聞いてたみたいだったけど、なんだったの?」

「なんか、文化祭の準備のことで聞きたいことがあったんだって。それで、この前の話し合いの議事録を僕がとってたから聞いてきたみたい」

「え、でも見目さん、文化祭実行委員でもなかったよね」

「クラスの準備が忙しくなる時期を聞きたかったんだって。シフト調整がしたかったんじゃないかな」

「シフト?」

「そう。バスケ部の出し物もするみたいで、その準備もするから、クラス準備とスケジュールを合わせたかったんだって」

「ふぅん……」

確かに、去年の慎のクラスでは文化祭準備にもある程度の役割分担とシフトを組んでたみたいだし、大掛かりなことをするなら今年もそういうことをするかもしれない。それが知りたかったとしたら話しかけてもおかしくないかもしれない。

「そうなんだ。分かった」

慎が机からまたなにか書類を取り出したのを見て席に戻る。

 私だって、考えすぎだってのは分かってる。一回見慣れない人が慎の側にいたからって、それでなにかが決まるわけじゃない。私の反応は、明らかに過剰だ。別に慎だって一人ぼっちじゃないんだから、クラスの人が話しかけるなんて当たり前のことだ。心配するようなことじゃない。

 それに、私だって部活の方で文化祭準備がある。今日だって昼休み返上で文化祭に展示する絵を描かないといけないんだから。

 気にしない気にしない。そんなことより、早くお昼を済ませないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る