第40話 1月下旬

正月休みが終わると共に、僕は仕事が忙しくなり、帰るのが遅くなる日々が続いていた。


それでも週末の神社参りはできるだけ欠かさず行うようにしていた。

験担ぎというと、神様には失礼な話だが、お参りを欠かさないようにすることと、すずさんの痛みの半分を負うという決意が、病状を良い方向に向かわせてくれるだろうという漫然とした希望があった。


忙しさもあり、そもそも用事がないとあまり電話をかけない性格もあり、また病状も急激に進行しているわけではない安心感から、すずさんとの電話が少なくなりつつあった。


「ねえ、次いつ来るのよ」

「うーん、年度末と年度初めは忙しいだろうから、ゴールデンウイークかな」

「だいぶ先ね。2月には私の誕生日もあるんですけど」

「また、人の忙しい迷惑な時期に生まれたもんだね」

「何て言い草なの。しゅんちゃんは3月でしょ。もっと迷惑だと思うよ」

「確かに」


「最近、すずにあまり電話してないでしょ」

なじみとなった居酒屋で佐々木さんはビールジョッキ片手に、少し強めに僕に話しかけてきた。

「最近忙しかったり、後は特に電話かける用事もないですしね」

「声を聞きたいってくらい言えば良いのよ」

「それはそれで気持ち悪いでしょ」

「それは私も同意見なんだけどさ」

「でしょ?」

「でしょじゃなくて、あれはあれですずは寂しがり屋だから、気を遣ってあげなよ。それと病気なんだしさ」

「その病気を感じさせないところはすごいですよね」

「悪化はしてないようね。今のうちにドナーが見つかればよいけど」


僕の残業で少し遅い時間から飲み始めていたこともあり、急ピッチで飲み進めていた。

「しかし、こんな寒いのに、そんなにビールよく飲めますね」

「鍛えているから」


僕は、そんな意味の分からない返答を無視しつつ、明日はちゃんと電話しようと決意していた。

そして、人の出入りのたびに外の寒気が入り込むため、僕は脱いでいたコートを羽織った。

「あんたは寒がりなんだから、すずと香港で住んだ方が良いんじゃないの」と現実味のない佐々木さんの提案を再度無視して、電話で話す内容を考え始めていた。

まあ、話す内容を考えなければならない時点で、電話をかける口実を探していることになるのだが。


駅からの帰り道、雪が舞っていた。

寒さに震えながら家路に急いだ。

以前よりは自分のあり方について悩むことが少なくなった。

おそらくすずさんの病状等を考えることが多くなったからであろう。

といっても、僕は祈ることしかできないのだが。


そう、自分よりも大切に思える存在ができたということだけ。

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