第21話 9月14日
夏の終わりを告げるように台風が本州に近づいているらしく、テレビではこれでもかというほどに台風の進路予測ばかり流れていた。
送別会で忙しいすずさんと話す機会は少なく、あわただしく週末を迎えた。
「どうも、白血病みたいなのよね」
すずさんは努めて明るい表情で話しかけてきた。
「まいちゃったわね。でも多分大丈夫よ。こんなに元気なんだもん」
「え?」
それ以上言葉が出ずにすずさんの顔を眺めた。
「あ、でも私もいろいろ考えたけど、香港には予定通り行こうと思うの。あれこれ日本で考えていても仕方ないし」
いつもより少し早口のすずさんは自分に言い聞かせるようだった。
「病院とかはどうするの?」
やっと発した僕の言葉は弱々しく、発した本人が不安になるくらいだった。
「これから香港の仕事を紹介してくれた人に相談してみようと思うけど、向こうも医療は整っているのできっと大丈夫よ」
すずさんの表情を見ていると、日本で闘病するつもりはない強い意志が感じられた。
「今も体調悪いの?」
「まあ、今はそうでもないから不思議なんだけどね」
「そっか、まあ心配だと言っても、きっと行くんでしょ?」
「心配してくれているの?」
「まあ、ちょっとはね」
「ちょっとだけか。しゅんちゃんは冷たいね。お嫁さんになってあげないよ」
「お嫁さん?そんな柄にもないことを」
「嫌なの?三年経ってもう海外勤務に思い残すことがなくなって帰ってきたら、結婚するということでどう?」
「はい、はい」
「いいの?」
「多分」
「あいかわらずはっきりしないわね。まあ、いいわ。これで三年頑張って生きていけそうだし」
二人の未来がどこまで続くかわからないという不安を、明るい希望で二人乗り越えようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます