第14話 8月4日

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

すずさんがそう言いながら身支度を始めた。

今週も結局週末は一緒に過ごすこととなった。


「私たち、付き合っているって言ったら佐々木さん怒るかな?」

僕の返事を聞かぬまま、すずさんは続けた。

「佐々木さんって、ああ見えて気にするタイプなのよね。私たちが付き合っているって言ったら、一緒に飲みに行くの遠慮するかもよ。それはそれで寂しいし」

「そうかな、気にするかな」

「私が言うから、しゅんちゃんは黙っておいてね」

すずさんから話すと余計にややこしくなりそうだとは思ったが、言いつけ通り黙っておくこととした。


身支度は終わっていたものの何となく別れがたく、玄関でも10分ほど翌週の週末の予定を話し合った。

すずさんは平日も精力的にジムに行ったり、飲み会に参加したり等、動き回っているようなので、週末はちょっとした休息のようだった。

すずさんの頭に手をやり、撫でることで、力を与えてあげられる気がした。


駅まで送って行き、エレベーターの手前でお互い手を振り、別れた。

手にはまだ微かにすずさんのぬくもりが残っていた。

自宅への帰り道、これまでだらだらと悩んできた自分が何者かについて、少しどうでも良い気がした。

Step lightly そう、人生は軽やかに自分らしく生きないとね。

あの時のメコン川を一緒に見たかったのはすずさんだったということに改めて気づかされた。


今夜は電信柱にこぶしをぶつけずに、夜空を見上げて帰宅した。

都会の空でも一つ二つ明るい星が見えた。

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