第2話 6月17日

「この前の飲み会お疲れ様でした。また飲みに行こうよ」


言葉の主は僕と同じ会社から、これまた出向という名の人員提供で、僕よりも3年前から親会社に送り込まれている5歳年上の女性だ。


「まあいいですけど、佐々木さん、それより先週頼んでいた書類をまだもらっていないんですけど」


「まあいいってなんやねん」


彼女の無理くりの関西弁に苦笑しながら、なんだかんだと言って元が同じ職場という共通項から、佐々木さんは僕が一番普通に話せる人だった。


「はい、はい」


「じゃ、予定たてとくから決まったら教えるね」

佐々木さんは言いたいことを言うと踵を返し、遠ざかって行った。


「あれ、書類は?」

僕の声は誰にも届かず、目の前に乱雑に積まれた書類の山に向かって話しかけることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る