青いクジラ

@okadacedar

第一章

第1話 橘:突然のLINE

6月。梅雨が終わり、日に日に日差しが強くなってきた。


天沼高校の放課後。


授業の終わりはもうとっくに過ぎたので、生徒はほとんど見かけられない。グランドから野球部の声が少し聞こえてくる。


昇降口から制服姿の男子が一人出てきた。藤井。天沼高校2年。帰宅部。


背は175cm位、太くはないけど細くもなく、ちょっとのんびりした雰囲気。スポーツやってるようには決して見えないタイプだ。


背に割には顔が童顔で、もう少し背が低ければ中学生と思われても仕方がない。そのため、恰好良いのが好きな女子からは全くモテなかったが、一部の女子には母性本能をくすぐるのか、熱烈なファンがいた。


でも、藤井は全く女子に興味が湧かなかった。


藤井にとって女子はうるさい存在でしかなかった。男子とつるんでいる方が気楽だったし、男子の方が広い世界を知っていて、自分の世界も広がるように思えたからだ。


昇降口を出ると、真っ直ぐに自転車置き場へ向かった。自転車のカゴに荷物を置きながらスマホを見た。

LINEに着信があった。


高1の時に同じクラスの橘からだった。

“久しぶり。最近どう?“


橘。藤井にとって、高1の時、良く話したりしていて、一番の友達だった。


クラス替えから、もう3ヶ月か。

急に懐かしくなった。


学校帰りに、二人はよく自転車で遊びに行った。とにかく無邪気だった。今から考えると、かなり前に思える。


高2ではクラスが別になってしまい、全然会わなくなってしまったが、藤井にとっては今でも一番の友達だった。つまり橘ほどの友達が高2になってからはまだ出来ていないということだった。


藤井は比較的誰とでも卒なく付き合える方だった。


天沼高校は食堂があり、昼食を食堂で食べることも出来た。


藤井は弁当派で、自宅から弁当を毎日持ってきていた。昼は自分の席で一人で弁当を食べていた。

これは男子では結構普通で、机を合わせて一緒に食べるというのは女子の専門だった。


高2になって、同じクラスで、そこそこの付き合いのある友達は何人かいたが、橘ほどではなかった。

高1という新しい環境で、最初に友達になったというのも大きいかもしれないが、橘とは無邪気さが合ったのが一番の理由だろう。


そんな藤井も高2になって急に落ち着いた。いや大人になったという表現が良いかもしれない。橘がいるから、何かの時は相談したり、頼りにしたりできるという安心感があった。


“元気だよ”


早速返信した。すると、数秒で返事が来た。


“ちょっとまた会わない?”


まだ自転車に乗ってもいなかった。


“今日はこれから塾だから。また今度で良い?”

“分かった。じゃ、また今度な“


久しぶりなのにあっけなかった。もう少し何か世間話でも話したかった。


自転車に乗って走りながら、”会わない?”という耳慣れない単語が頭に残った。普段橘が使わない言い回しだった。


一体何の話だったんろう?


藤井は自転車をこぎ始めた。

暑さと街中の喧騒で、すぐに今のLINEを忘れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る