第130話 新しい訓練
テオと食事をし、ユニとデートをしてから幾らかの時間が過ぎ、今日を迎えた。
「ルーク、行ってくるね。」
ユニが私の顔を見てそう言い、
私もまたユニを見て、
「ああ。どうか元気でな。」
と返す。
今日は、とうとうユニがミリアーヌ様の護衛のためにガインの街を発つ日だ。
そして私は、道場からユニを見送ることになった。
なお、テオとアイラは昨日既に出発し、カイゼル師匠達は空気を読んで先に見送りの言葉を済ませてくれている。
待ち合わせはギルドということなので、そこまで付いていくことも考えたが、ユニの冒険者として成長したいという願いを思えば、きっとここら辺がちょうどいい線引きなのだと思う。
ユニの思いを聞いたあの日の後も事あるごとにあって、一緒に時間を過ごした。
これ以上は名残惜しさが増すばかりと思ったのか、結局ユニは先ほどのやり取りをすませると、私に背を向け、ギルドへと向かうのだった。
なによりも無事に帰ってきてほしいと思う。
それと同時に、2年後、互いに成長した姿を見せることが出来れば、という思いが私の中に湧くのだった。
ユニの見送りを終えた私は、カイゼル師匠達に挨拶を済ませ、森の中の家へと向かう。
「どうやら、ユニの嬢ちゃんは無事に出発したようだね。」
師匠が私の帰宅を確認すると、口を開いてそう言った。
その声は、どこか柔らかみを感じる。
今の姿は美女であるミリア師匠の姿だ。
師匠の話では錬金術により肉体を作り、それを本来は不定形の存在である師匠が取り組むことで、この姿を取っている。
さらにガインの街に行く際には、あまりの美女に作ってしまったためのトラブルを避けるため、老賢者であるラト師匠の姿を取る。
ユニ達にはラト師匠の姿しか見せていないが、それこそ生まれた時から知っているだけあり、大切に思っているのだろう。
さて、家に戻った私は今日も師匠と特訓をする。
というのもだ。
実はカダスから帰ってすぐ、師匠から提案があった。
「ルーク、お前さんの顔だけどね。」
という言葉から始まる内容をまとめると、こうだ。
私の顔が、そもそも魔力が溜まることで周囲に吐き気をもたらしているというなら、そして、魔力を込めることでより強い効果を発揮するというのなら、逆に魔力を操作して、顔に魔力が行かないようにするとことで、相手を吐かせないですむのでは、ということだった。
実を言うと、全く考えたことが無いわけではない。
もっと言うと試したこともある。
要するに魔力を電気のようなエネルギーとしてイメージすれば、エネルギーを送りたくないところに送らなければいいのだ。
とはいえこれは言うほど楽ではない。
復習だが、私は普段から魔力を練ると言う訓練をしている。
これは魔力の流れを意識して、体に魔力を行き渡らせるイメージをすること。
特に私は血流をイメージすることで、実際に魔力をスムーズに練れていると自負している。
問題なのは、どれだけイメージしたところで、魔力をゼロには出来ないと言うことだ。
なぜなら魔力は意識の力を強く受ける。
最近は使う機会も減った身体強化は私のオリジナルの魔法だが、あれは結局戦闘中に魔力を練ると言う、言うなれば余所見のような行動が難しいからだ。
あまり知られていないが、身体強化に近いことは日常でも起きている。
早足になろうとすれば、人は無意識にそこに魔力を集めている。
結果、この世界の人は地球の人よりも身体能力が高い。
まあ、よく見ればわかる程度の差、でしかないが。
しかし、
「魔力を込めることは出来るのですが、行かないようにするにはどうすれば。」
そう、魔力を込めないと言うことは、血を止めるようなことだ。
成功したことが無いのでどうなるか分からないのだが、しかしあまりいい予感はしない。
「まあ、無理にやろうとすれば命に関わるね。」
と師匠は前置きをした後に、
「けど、不可能じゃ無いのさ。問題は魔力の質だ。」
と教えてくれた。
未だ魔力とは謎に満ち、研究中の物だが、師匠は個人的な研究の中で、魔力に指向性があることを突き止めたらしい。
簡単に言えば体の外に行こうとする魔力と体の中に留まる魔力だ。
実際には魔法に使うのは、外に出る魔力。そして体内に留まる魔力は生命の維持に関わっているのでは、と言うのが今の師匠の仮説らしい。
「ルークの身体強化なんかは体内に留まる魔力を利用してるんだろうね。だから難しいのさ。」
言うなれば、本来自分の意思では動かせない不随意筋と言う筋肉、例えば心臓の筋肉を自力で早くしたり遅くしたりする行為に近い。
もちろんイコールでは無いが。
そしてここからが師匠の提案だが、
「つまり顔に集まる魔力を体内に留まる魔力で揃えれば、あんたも仮面なしで街に行けるようになるんじゃないかい?」
と言うことだ。
というわけで、今私は師匠の独自の理論のもと、体内の魔力の種類を感知することから始めているのだ。
初めはちんぷんかんぷんだったが、最近はなんとなく分かるようになってきた。
操作となるとまだまだ雲をつかむような感覚だが。
実は、この訓練の本当の価値が分かるのはもう少し先のこと。
今はただ、仮面を外し、ユニと外で普通に食事をとることを目標に頑張るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます