第123話 夢の中で
「世界を見て回れ、ですか?」
「そうじゃ。声だけじゃったがな、随分とはっきり覚えておるよ。」
そうミリア師匠が言う。
思い出すのは、ヴィーゼン教国は聖都こと聖地都市エルムでの一夜。
夢に女神アレクシアを名乗る存在が現れ、私の顔についてなど、色々と話してくれた。
私が師匠に拾われるようにしてくれたのも女神だったとも言っていたな。
そしてその時にも旅を続け、世界を見て回れと言われた事を覚えている。
師匠の夢には姿は現れなかったそうだが、これは何か関係があるのだろうか。
そして夢のことは、女神から口止めされたためまだユニ達には話していない。
確か、仲間には内緒にだったはず。
そこで思う。果たして女神の言う仲間に師匠は含まれるのだろうか。
はっきり言ってしまえば、師匠には女神の夢の話をしてしまっても構わないのでは?と。
悩んでいると、
「どうしたんだい?」
と師匠に顔を覗きこまれる。
結局私は、悪くはならないだろうと考え、師匠に女神のことを話すことにした。
「女神アレクシアかい。」
「はい。私が先日話した魔力異常適応症というのも夢の中で女神から教わりました。この体の本来持ち主であるルーク・ギ・ゼルバギウスを救うために私の魂を使ったとも。そして最後に旅を続けて世界を見て回るようにと言われました。」
師匠は意外にもというべきか、真剣に聞いてくれた。
もちろん馬鹿にされるとは思っていなかったが、それにしても真剣な表情だ。
その表情を見て何かあるのかと、
「何か女神に心当たりがあるのですか?」
そんな風に聞いてみるが、
「いや、無いね。」
と返される。その後に続け師匠が言うには、
「けど、お陰で腑に落ちることはいくつかあったよ。」
とのことだ。
「まずお前さんに出会ったこと。あの日、儂は別に遠出をしたわけではないんじゃよ。じゃからお前さんがゼルバギウス家の生まれと聞いて不思議だったんじゃ。わざわざこんな遠くに捨てに来るのか、とな。女神が関わったと言うなら、納得できるさね。」
「私が話しておいてなんですが、師匠は女神の存在を信じているのですか?」
師匠がアレクシア教徒とは聞いたことがないが。
「ん?まあ、長く生きていればそんなこともあるかと思えるもんじゃよ。それに、納得できることの一つがそれじゃ。女神の存在を前提に考えれば、儂と言う存在に付いても仮説が出来る。」
「師匠の存在ですか?」
「うむ。儂自身物質としての体を持っているわけじゃが、そもそもなんで生きているのかも分かっていないんじゃよ。じゃが、お前さんの話してくれた魂という存在があるのなら、もしかしたら儂は女神に作られた存在なのかもしれないと思っての。それこそ、アザーを助けるためにな。」
ま、仮説じゃがな。
と笑う師匠。
実際、全てではないが女神の思い通りではないようだが、それでよこの世界に何かしらの目的で関わっている可能性は高いだろう。
元のルークを助けるために、私の魂をこの体に入れたように、魔力の塊に魂を加えた存在が師匠であるというなら分からなくはない。
それこそ、アザーが魔族の戦乱を終わらせるために。
だとすれば、さしずめ師匠は天使ということか。
「まあ、考えても仕方ないことはいいじゃろう。それよりも大きいのはお前さんの顔じゃな。」
「私の顔ですか?」
「ふむ。ずっと不思議だったんじゃよ。実は儂はな。あんたは魔族じゃと思っていたんじゃよ。」
「……」
黙りはするが、しかし意外ではない。
実際私も魔族という存在を聞き、私に重ねた。魔力によって違う姿になった存在。
まだガストンさんとした話していないが、既にほかの魔族と話してみたいと思っている私がいるのだ。
「ま、お前さんは魔族ではないと思うがな。」
「え?そうなんですか?」
いきなりバッサリと否定される。
「そこも含めて、1つ話さないといけないことがあるんじゃよ。」
と改まった口調で、居住まいを正す師匠。
自然、私も緊張する。
「改めて儂の名前はミリアラトテプル。森の賢者と呼ばれる冒険者であり、ゼルバギウス家の顧問魔導師じゃよ。」
師匠の口から予想しない名前が飛び出した。
「ゼルバギウス……」
まさか師匠の口からその名前が出るとは。
歴史は動き出す。
いや、既に動いていたこの大陸の歴史に、ついに私も巻き込まれようとしているのだった。
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