閑話。ゴラン大草原の歴史

船に乗って今日で3日目。

今僕はアイラと部屋で休んでいる。

ルークとユニは、甲板かな?

まあ、どこだろうと邪魔する気は無いから関係ないけどね。


アイラとは、ソフィテウスでの護衛依頼の途中からはペアを組んでいたし、思えば最近はアイラかルークと一緒にいることが随分増えた気がする。

ルークとは付き合いも長いから当然だけど、アイラとも馬が合うと言うか、一緒にいて気が楽だから全く苦にならない。

それに、僕の顔を見ても女扱いじゃなく、ちゃんと男扱いしてくれるのは、やっぱり嬉しい。

そういえば、ラト師匠は元気かな?

ルークも会いたいだろうけど、僕も久々に話がしたいな。初対面でも僕を男の子だと分かってくれたことも勿論だけど、ラト先生は物知りで、色々と教えてくれるから昔から好きなんだ。


「あっ。テオ、それってソフィテウスで買ったやつだろ?」

「うん。そうだよ。」

アイラが僕の横を指差してそう言った。

アイラの言うそれとは、収納袋のこと。ルークのような空間魔法ではなく、本物の魔道具だ。

僕たちの共同の荷物なんかは、ルークが魔法で収めてくれているけど、やはり自分用のものがあるのは便利だね。おかげで、気になった本なんかも買えるようになった。

金貨10枚は決して安くはなかったけどさ。これだけで、一般人が3年は遊んで暮らせるんだから、驚くよ。

なんでも共和国に来て最初の依頼でも討伐したロックリザードの首の部分。皮としても強靭で、魔力に対する親和性も他の部位よりも遥かに高いそこを大量に使うらしい

ただ、ロックリザード自体数が少なく、更に首の皮は1匹から取れる量が本当に少ないので、収納袋1つ作るのに大量のロックリザードを含む沢山の貴重な素材と、何よりも腕のいい職人が必要で、金貨10枚という値段も決して相場を超えていない。むしろお買い得なくらいだった。


「今日はどんな本を読んでたんだい?」

アイラが尋ねてきた。

彼女自身も本好きで、僕たちはよくお互いに読んだ本を紹介しあっている。

「これだよ。」

そう言って袋から出した本を見せる。

その表紙には、『草木なき大草原』と書かれていた。

「それってゴラン大草原のこと?」

「うん。そうだよ。」

「へぇ。どんなことが書いてあった?実はあたい、あんまり詳しくないんだよね。あそこはほら、アレクシア教もあまり広まってないし。」

最近、と言うほど最近でもないけど、アイラは言葉遣いとかは子供っぽいけど、勉強熱心で知識も豊富だ。僕が教えてもらうとこも多い。

「まあ、ヴィーゼンとはほぼ反対側だしね。じゃあ、これから行くんだし、予習しようか。」

そう言うと、アイラは、

「おう、よろしく!」

と、笑顔になってくれた。


「まず、ゴラン大草原は昔は、その名の通り広大な土地に草と所々に森もある自然豊かな土地だった。動物の種類も多くて、沢山の草食獣とそれを食べる肉食獣。また魔力も多くて、肉食獣が魔物化した、それこそエルバギウス大森林の魔物に引けを取らない凶悪な魔物も多かったらしい。」

「へえ。人間は住んでなかったのかい?」

「いや。草原の民という、それらの動物や魔物を狩る人々がいたようだよ。」

「そうなの?けど、確かグラント王国とカタルス共和国が陸路で行き来出来なかったのは、大草原に魔物がいたからなんだよね?」

「うん。それは、まずさっきも言ったけど魔物が凶悪過ぎて大規模な商隊なんかを組むのは難しかったみたい。実は当時のギルドでも、大々的に冒険者を派遣する計画もあったみたいだけど、宗教的な理由で失敗したんだって。」

「それは、聞いたことがあるかも。確かゴランニズム、だっけ?」

「そう。そのゴランニズムでは魔物を大地の使いとして神聖視していたんだ。なんでも強いものこそが大地に生きる権利があり、それを一対一で倒してこそ、人は成長できるという考え。後、草原の民自体、自立心が強くて他の土地の人間が大草原に来ることを嫌ってた見たい。」

「ふーん。だから、アレクシア教もあまり広まってないんだな。」

「そうだね。ただ、そんな大草原も今から約500年前、一変する。その原因が蟻の悪夢と呼ばれる、魔物の集団暴走なんだ。」

「蟻の悪夢、か。」

「その言葉の通り、大草原の中心部で蟻の魔物ダンジョンアントが異常発生すると言う自体が発生。一面に草原と動物が広がっていたゴラン大草原はその大部分が砂漠になり、動物も激減したんだ。まあ、それでも中心部から離れた土地や、砂漠の各地にあるオアシスの周辺には森や草原が残ってるから、草木なしってのは大袈裟だけどね。」

「そっか。けどダンジョンアントってことは。」

「そう。ダンジョンアントの巣。それこそが、ダンジョンの正体なのさ。そんなこんなで、今ゴラン大草原には砂漠とダンジョンがあるんだけど、草原の民たちは、砂漠と呼ばれるのを嫌っていてね。周りもわざわざ怒らせてもいい事もないから、未だにゴラン大草原と草原の民、と読んでいるのさ。」


まあ、ダンジョンや魔道具についてはこの本にも詳しくは書かれてないし、きっとルークあたりが何か知ってるはずだから、また教えてもらうとしようかな。

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