第60話 カタルス学究院
一ヶ月後、私達は学院の貴族寮。そこの使用人用の部屋で寝起きしていた。正確には、私とテオが男性寮にあるレイ様の部屋に隣接した部屋の1つに。
ユニとアイラは、女性寮にある ミリアーヌ様の部屋に隣接した部屋の1つでそれぞれ生活している。
とはいえ朝起きて準備が終われば、私とテオは女性寮の門に行き、ミリアーヌ様とマーサさん、ユニ、アイラと合流。
その後は大体一緒に行動している。
レイ様から頼まれたミリアーヌ様の護衛。
つまりは、そういうことだ。
あの日、レイ様から長期の護衛依頼について言われた日の夕方に時間を戻そう。
豪華な食事を堪能した私達は、案内されたこれまた豪華な部屋に集まっている。
なんとそれぞれに1人部屋が用意され、集まっているのは私の部屋だ。
「さて、どうするか。みんなはどう思う?」
「私は、受けても良いと思う。確かに、しばらく自由に出来なくなるけど、全くない訳じゃないし、1年くらいならこの街で過ごしても良いと思う。」
「僕も賛成だよ。まだ予定だった大図書館にも行けてないけど、しばらくここに残るなら何度も行けるだろうし。」
だいぶ私欲の入った意見はテオのものだ。
「あたいもだ。図書館もだけど、ミリアーヌ様もレイ様も良い人そうだし、それならあたい達にとってもいい経験だろ。」
「それは私も思う。」
とユニがアイラに同調する。
「ミリアーヌ様とはせっかく仲良くなれたし、私が求められてるなら、役に立ちたい。」
どうやらみんなは依頼に対して肯定的だ。1部私情が大きいみたいだが。
なら、私か。
私としては、あまり長期間ゼルバギウス家の関係者に関わりたくない、という気持ちがなくはない。
しかし、全てを話す以外に説得できる自信もない。
そもそも、レイ様やミリアーヌ様が私のことを聞かされている可能性はかなり低いだろうし、そうでなくとも森に捨てられた人間が生きているとは思わないだろう。
後半はマルコさんも同様だ。
なら、私から言わない限り問題になることはあるまい。
そもそもレイ様とミリアーヌ様は私の存在すら教えられてないだろう。
「分かった。そういうことなら、明日の朝、依頼を受ける、とレイ様に話をしよう。」
そうして今の生活になっている。
今回のことをレイ様がミリアーヌ様に伝えた時には、ミリアーヌ様は随分喜んでくれ、受けて良かったと、互いに頷いたものだ。
「おはようございます、ルークさん、テオさん。お待たせしてすみませんわ。」
「おはようございます、ミリアーヌ様。」
朝の挨拶を終え、私達は学院に向かう。
学院には商人の子弟が中心に通う平民院に、貴族が通う貴族院。そして、卒業後も学問の道を専門とする者達のための大学院などがある。
レイ様、ミリアーヌ様は当然、貴族院に通う訳だが、平民院と貴族院ではカリキュラムそのものが違う。
貴族院では、午前中に国語や歴史、算術などの一般教養を。午後は、貴族の嗜みとして武術と魔法について学ぶ。
なお、カタルス共和国でもグラント王国と同様の暦が使われ、10日をひとまとめとし、30日が一ヶ月。12ヶ月が1年だ。
「今週もお疲れ様でした、ミリアーヌ様。」
「ありがとう、マーサ。とはいえ私としては明日からの方が疲れるのですけどね。」
マーサさんがミリアーヌ様に声をかけている。
今日は7日目。つまり今週は後3日あるわけだが、貴族院では8から10の3日間は休みとなる。
が、ただ休むわけではない。護衛を始めてから知ったことだが、貴族たちの留学の目的は勉学以上に貴族間、特にグラントとカタルスの貴族同士の交流らしく、休みとはいえ、結局はやれお茶会だ、勉強会と称したおしゃべり会で休むどころではない。
まあ、ここら辺のサポートはマルコさんやマーサさんの分野であり、私もよく分からないのだが。
「明日はラミエル男爵の御息女、アグネス様にお茶会に招待されております。」
「分かりましたわ。準備の方、いつものようにお願いね、マーサ。」
「かしこまりました。」
そんなやりとりをする彼女達は、まるで女社長とその秘書のような印象を受ける。
当たり前だが、貴族もまた暇ではないらしい。
その後も予定の確認やら雑談やらをしながら歩いていく。寮は全て学院の敷地内にあり、寮からここまでは10分程度。
貴族院は優遇されているが、離れている場所への移動は一苦労だ。1月ではほとんど知らないが、なんでも小さな都市程度の面積はあり、在学中は学院から出ない生徒も多いらしい。
10分後。
「さて、着きましたわね。では皆さま。今日も一日よろしくおねがいします。」
そう言ってミリアーヌ様は校舎に入っていき、私達も続いて行く。
余談だが、ここ1ヶ月護衛としての仕事らしい場面はない。
もちろん抑止力としての護衛でもあるのだが、他の貴族子弟が護衛を連れていないか、いても1人程度であるところを見れば、レイ様の言う過保護というセリフが謙遜でもなんでもなかったと、私達は頷きあうのだった。
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