第26話 そして遂に
チェルミが見え、いくらも立たず街に入ることが出来た。
オタカルさんが、依頼書にサインをしてくれる。
彼ともここでお別れだ。
「皆さん、ありがとうございました。怖い思いもしましたが、結局荷物も私も無事に済んだのは、皆さんのお陰ですね。」
「お役に立てたなら、良かったです。また、遠くに行かれる際は冒険者ギルドをお使いください。では、ありがとうございました。」
「こちらこそありがとうございます。なんでも皆さんは世界を見てまわるとか。皆さんの旅に、女神の祝福がありますように。」
オタカルさんはそう言って、去っていった。
「よし、新しい街だけど、まずはやる事をやってしまおう。」
はじめにギルドに向かい、依頼書の提出だ。
ギルドはグラント王国と変わりなく、問題なく受理された。
いつもなら次に宿の確保だが、
「アイラは、ここに実家があるのか?」
「昔はね。今は両親共、聖都で働いてるよ。」
聖都か。確か正式には聖地都市エルム。アレクシアが生まれたと言われる土地にあるヴィーゼンの首都だったか。
「そっか。じゃあ、宿を探そうよ。アイラはおすすめは知っている?」
テオがそうアイラに聞いている。
「地元で宿には泊まらないからな。おすすめ出来るかは分からないけど、あたいの知ってる宿屋に行こう。」
そうしてアイラに連れて行かれた宿屋は特に変わったところもなく、良くも悪くも普通の宿だった。
私達は話し合い、4人で使える大部屋を借りることにした。
この世界の宿屋は、1人部屋、2人部屋、4人部屋がある場所が多く、アイラが合流するまでは2人部屋を3人で使っていた。
何が良いと言って、全員がベッドで休めるのは嬉しい限りだ。
その日も私達は特訓をすることになるのだが、
「みんな、1つ試したいことがあるんだ。」
「試したいことって?」
「昨日、瞑想を教えたろう?で、瞑想には邪気を払う力があると言われている。呪いかどうかはわかっていないけど、ルークが仮面を取るとき、瞑想していれば吐かずに済むかもしれないって思うんだ。」
なるほど。試してみる価値はありそうだ。
そこで私達は、各自のベッドの上で昨日教わった瞑想を行う。念のため、今日も土魔法には働いてもらってあるが。
全員の魔力が練られているのを確認し、声をかける。
「じゃあ、外すぞ。」
「うん。」
「大丈夫だよ。」
「あたいもいいぜ。」
そして私は仮面を外す。師匠の魔道具のおかげで特に視界に変化はないが、それでも3人の視線を直接感じることができる。
一瞬、時間が止まったような気がした。
1秒、2秒、3秒と時間が進む。
10秒程か。
沈黙に耐えられなかったのは、私だった。
「どうだ?」
そしてみんなからの返事。
「うん。うん、大丈夫。大丈夫みたいだよ、ルーク!」
「あたいもだ。全然気持ち悪くならないさ。」
テオとアイラが答えてくれた。
ユニは、と思うと、彼女はベッドを降りて私の方にやってくる。
そして私の横に座ると、ペタペタと私の顔を触るのだった。
そのまま、彼女が口を開く。
「ルーク。」
「どうした?」
「触れる。」
「触れてるな。」
「見れる。」
「見れてるな。」
「ルークの顔が、見れてる。」
「ああ、その通りだ。」
「待たせて、ごめんね。」
「いいんだ、ユニ。私は感謝しかしていない。」
「今までも見れてたけど。吐いちゃうと、あの時の事を思い出しちゃって。」
そうだったのか。あの時とは、決闘のことだろう。
私が勝手に楽しみにしていた時間。ユニは、密かにトラウマに苦しんでいたらしい。
「それは私の方こそ悪かった。すまない、ユニ。」
「ううん。大丈夫。もう、大丈夫だから。」
そう言い合って、私達は見つめ合う。
すると、
「こほん。ごめん、2人とも僕たちもいるからね?」
バッ!
その声に私達はばね仕掛けのおもちゃのように距離を取る。
ユニの顔が赤くなっていた。
「わりーな、ルーク、ユニ。また2人の時に頼むよ。」
テオとアイラが言う通りだ。
私は恥ずかしさで話題を変える。
ちなみにユニはしばらく動けなさそうだ。
「み、みんなは瞑想の状態はどうなんだ?見たところ魔力の流れは止まっているが。」
「いやいや、瞑想ってのはリラックスしながらやるもんだぜ。こんな風に話しながらじゃ出来ないよ。」
「うん。瞑想って、随分集中力がいるんだね。ルークの身体強化ってこの状態で格闘するんでしょ?」
「身体強化?ってのはなんだ?」
「ルークが子どもの頃に作った魔法でね。なんでも魔力を練りながら動く事で身体能力なんかを上げられるらしいよ。確か最初の実力試験の時に、ガインの副ギルド長が驚いていたけど、今ならあの人の気持ちが良くわかるよ。」
「はあ?要するに瞑想しながら戦うのか?そんな話聞いたこともないな。」
「まあ、魔法使いも司教も戦闘が専門ではないからな。魔力を練りながら動くって発想になりにくいんだろう。」
「いや、これはそれ以前に、思いついても出来ない類の話だよ。ルークは異常だからね。」
「この顔のようにか?」
照れ隠しにそういうと、
「ルーク、変な自虐は褒められねーよ。」
アイラにたしなめられてしまった。確かに今のは私が悪かったな。
「まあ、確かに不細工だけどな。」
「おい。」
お前はどうしたいんだ。
「いや、これは嘘でもカッコイイとは言えねーよ。今までのお陰で尊敬してるし、嫌いにはならねーけどな。」
「それはまあ、そうだよね。ごめん、ルーク。その顔を見たのが、大人になってからで良かったよ。」
「テオに言われるのは複雑だな。そりゃ、その顔なら不満なんてないだろうさ。」
「いや、この顔はこの顔で不便だからね。ルークは知ってるでしょ?未だに女の子扱いされるの勘弁して欲しいんだけど。」
「そういや、言ってたな。あたいには男にしか見えないからよくわかんねーけどさ。」
「あ、ありがとう、アイラ。」
アイラに言われ、テオが顔を赤くしていた。
「ま、いいじゃねーか。ルークにはユニがいるんだし。」
自分の名前が出たからか、ユニが話しかけてくる。
「ルーク、私はもういつでも良い。」
ユニが何を言いたいかは分かる。分かるが。
「まあ、もう少し待ってくれ。今は流石に、な。」
「むぅ。」
ユニが膨れる。そこにアイラのフォローが入った。
「まあ、理解してやりな、ユニ。男ってのは臆病なんだよ。こういうのは空気が大切なんだとさ。教会の先輩からの受け売りだけどよ。」
やれやれ。
とは言え、雰囲気を気にするとは私も偉くなったものだ。
前世では雰囲気以前に、女子と2人になることもほとんど無かった。中学では日直は男女でやる決まりになっていたが、私と組んだ女子は例外なく先に帰ったし、担任も咎めることはなかったからな。
嫌な事を思い出した私は忘れるように首を振る。
「今日は本当にありがとう。とはいえ、もう遅い。明日は街を見て回りたいし、もう寝よう。ユニも自分のベッドに戻ってくれ。」
「ん。分かった。」
そうして私達は部屋が暗くなる頃には寝るのだった。
翌朝、私達は宿を出ると、道案内を買って出てくれたアイラを先頭に最大の目的であるニコラオス大聖堂を目指す。
写真もテレビもないこの世界、素晴らしいとは聞いているが、さて今から楽しみだ。
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