第43話
ユーティリアによる質問攻めが続いている頃、アナシアはユーティリアの部屋の前、物陰に身を潜めていた。
広く見晴らしの良い廊下の脇に立ち並ぶ花瓶や彫刻等の数々。夜と言うこともあり若干薄暗く静寂に包まれた廊下は、どこか怖さを感じさせるものがある。
だというのにアナシアは、雰囲気がもたらす影響を感じてさえいないというかのように微動だしておらず、むしろその姿は、狩人を連想させた。獲物は何処だと右往左往瞳が動き、些細な動きさえ見逃すものかと全身が語り、鼠一匹たりとも見逃すつもりはないのだろう。
それほどまでにアナシアが見張っている理由は言ってしまえば単純。主であるユーティリアを思っての行動だった。
「公爵家やそれに連なる殿方なら良し・・・卑しき身分、身分が良くとも評判が悪ければここで・・・」
軽く目が据わったり、警戒心を露にしたりと様々だが、それは自分の責任から来るもの。
原因は少し遡った夕刻。ユーティリアに施している
今はまだ噂程度のようだが、この先どうなることか・・・
この手の話を嗅ぎ付けるのが貴族というものだと重々理解している。
だからこそ、ユーティリア様の本来の魅力を隠し続けてきた自分が担い、全うしなければならない。
「あのユーティリア様の姿を見られる幸せ者は何処のどいつなのかしら・・・」
日常からユーティリアに対し良い思いを持っている人間は少ないけれど、今回の事で卑しい考えを持つ貴族が出てもおかしくはないとアナシアは踏んだのだ。だからこそ、もしそんな輩であれば自分の命を捨ててでも、と、覚悟を決めている。
普段から彼女が、化粧でユーティリアの魅力を隠し続けてきた理由は分からないけれど、それほどまでにアナシアをかきたてる理由がユーティリアの今の姿にはあった。
決してアナシアの思い込みや過言等ではなく。あまりにも美しく女性として魅惑で魅力に優れた容姿は、まさに国宝級。彼女を争った戦争が起きても何ら不思議ではない。だというのに、未だ発展途上であって、伸び代は有り余るとなれば、それを知った権力を持つ者達はどう思うだろうか。
想像もしたくない。
彼女ほどこの帝都の未来を考えている人間は居ない。
きっとユーティリア様について知る者は自分一人しかいないだろう。ユーティリア様の凄さを広めたい。そして思いを届けてあげたい。
だが、ある理由から周囲が良しとせず、日の目を浴びぬよう蓋をされ続けている現在だ。
「・・・どうかお願いします神様。今日の出逢いがユーティリア様にとって素敵なものありますように」
一瞬見えたかに思う涙は、キッと引き締めた表情と供に消える。
いつかユーティリア様を光の当たる地へ導いてくれる出逢いがあると信じ、アナシアはお鍋を被りなおした。
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