デウスエクスマキナ

にんにくひらめ

AD:2000 福田直之

第1話:貧乏フリーライター

「はぁー。」

俺は財布の中身を見ながらため息をつく。財布は適当に突っ込んであるレシートの束や免許証を始めとする身分証明書以外、紙類は入っていない。ファスナーのついたポケットを見ると、残金は874円。これが福田直之と呼ばれる男の全財産だ。

世間ではパラパラなる踊りが流行っているらしいが、残念ながら俺には踊りに興じる金銭的余裕も一緒に行く恋人もいない。

「あの原稿料まだ口座に入ってねぇじゃねぇかよ。踏み倒す気か?あの編集社は。」

1か月前にラーメンの記事をA社に納品したが未だに原稿料は入る気配はない。金のゆとりは心のゆとりだとどこかで聞いたような覚えがあるが、まさにその通り。大学を出て、勤め人が嫌でフリーライターになったはいいものの自分の足で仕事を探さねば、明日の飯さえ食えないような生活が続いている。

現実逃避とはいかないまでも、無意味なイラつきを抑えるため、ズボンのポケットからマイルドセブンと100円ライターを取り出し、火をつける。コンビニの店先だが、先ほどマイルドセブンを買ったばかりだし、許してくれるだろう。

ポケットの中からピロピロと音が鳴る。俺の仕事用の携帯電話だ。世間では折り畳み式やらカメラ付きやらが流行っているようではあるが、残念ながら俺のはアンテナ付きの旧型だ。

「はい、福田です。」

俺は吸いかけのタバコを踏み消し、できる限り愛想の良さそうな声色で電話に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る