第36話 朝から大天使降臨

 早朝、校門前にて、コーサツをしっかりとやる。相変わらず、若干避けられている感は否めない。

「おはようございます」

「ヒッ!」

 みたいなのが朝から十五回以上もあると、流石にテンションが下がり、更に俺の顔が怖くなる(らしい)ので負のスパイラルである。

 だが、前回のコーサツと違うことが一つあった。

 何やらヒソヒソと俺の方を見ていぶかしむ生徒が数人いるという事だ。

 これまでも何でヤンキーみたいな奴が朝の挨拶を? あ、悪いことしてペナルティやってるのか、納得ぅー。みたいな顔は何度か見たことがあるが、そういうのとはちょっと違うようだ。

「ブッキー輩、スマイルください」

「500円です」

「無価値なのに?」

「俺の笑顔がか!?」

 相変わらず朝から柴咲しばさきのクソアマがキレッキレの罵倒をかましてくる。

「あーマク○ナルド食べたくなってきた」

「もう行けよ。朝マックしに」

「ふふっ、ブッキー輩、ここに500円あります」

「え、スマイル代か?」

「メガマフィンセット代です☆」

「買ってこいと!? お前ほんましばく!」

「はいはい、二人とも、ちゃんと挨拶しないと会長が見てるから」

 そう言われて見てみると陣内じんないが門内の方からニコーッと見てる。怖い。

「はいはーい」

「ぐっ、このぉ……」

 昂輝こうきが俺らを諌めるわけだが、許せぬこの歳下ァ!

 しかし、全く悪びれた様子もなく、柴咲は登校してくる生徒達に明るい笑顔で挨拶をし始める。

 みんな騙されるな。そこのクソガキの笑顔は嘘偽り欺瞞の塊だ!!

 歯軋りが止まらないでいると、隣でポンと肩を叩いてくる昂輝。

「どんどん顔が怖くなってるから、愛生あきなりのフォローだよ」

「今一番顔が怖くなっている自信があるんだが? が?」

「ま、まぁ確かに愛生はフォローした自分に酔っちゃうとこあるから、相手の事とか考えてないよね多分」

「おー、それすげー分かるな」

 柴咲って絶対自分可愛くて会計もやれちゃって完璧、これに仕事出来ない先輩のフォローもしちゃうなんて私ってなんてリア充なの!? 将来が楽しみです仕方ないわ! イケメン高収入の人引き取りにお願いしまーす! みたいなところがある。みたいなところしかない。

「けど、その辺分かって付き合うとやりやすいよ。孝宏たかひろは真に受け過ぎ」

「その辺はお前みたいに器用じゃねぇからなぁ」

「真っ直ぐだもんね孝宏」

「目指せ165キロだな」

「うん、それはちょっとよく分かんないけど」

 ……真顔で言われてしまうと俺もよく分からなくなるからやめて欲しい。

 真っ直ぐって言ったじゃん……直球イズストレートじゃん……。

「あ、新垣あらがきさんのお出ましかな?」

「本当あいつ来るだけで分かるのすげーな」

 なんせ駅から出待ちしている同級生や野次馬がいるくらいだ。アイドルかよ。

 十数人後ろに連れ立って凛と歩く新垣ゆかなのおなーりー。

 変に意識するのも変なので、平素の如くおはようございますと声をかける。まぁ変に意識してるのを変と気にした時点で意識してしまっているが。

 なーんて自分に突っ込みを入れてたら、新垣が目の前まで来て、めっさ血の気が引く。

「御機嫌よう、妻夫木くん」

「あ、はい、おはようございます」

「土曜日はありがとう。デート、楽しかったです」

「……あい」

 言った新垣は満足そうに歩いて、門の中で挨拶してる陣内に楽しそうに話しかけている。

 血の気が引いてる最中に血の気が引く事をなんて言うのかなぁ。チチのケが引くかなぁ。乳の毛とかウケるぅー。

「た、孝宏、どうゆう事?」

「ブッキー輩! 今のマジですか!?」

 あーー、現実逃避すら許されないのか俺は。ずいっと詰め寄る昂輝と柴咲の二人。そりゃまぁ、こうなる事を考えなかったわけじゃない。なんせあの新垣ゆかななのだから。

「土曜日にあいつの買い物付き合っただけなんだけど、ちょっと茶化して言ってるだけだろ」

「買い物に? 孝宏を?」

「なるほど、SP兼、荷物持ち兼、話し相手兼、元ヤンというわけですか」

「柴咲さん? それ元ヤンいらなくない?」

 二人ともふむふむじゃねーんだよ。マジ納得やめろ。

 やはり、新垣の残した言葉の余波は凄いのか、土曜日にどんな話をしてたのか挨拶の合間に柴咲から聞かれまくる始末。

 ハァーーー鬱だ。朝一発目はそこそこいいテンションで来てたというのに。

「孝宏くん」

「……おはようございまぁす!!!」

 朝陽に照らされたショートの黒髪、可愛らしい顔立ちに、儚げな表情。完全無欠の最強天使降臨!! ハルカエルの登場だァ!! やべぇよ。今日一日神だよ決まりだよ。しかもちゃんと下の名前で呼んでくれてるよ! 俺も呼んじゃったりしていいのかな! なーんつって! なーんつって!

「きょ、今日はちょっと遅いんだな」

「うん……その、お弁当」

「あー、弁当作るのに時間かかっちまったのか。いつも大変だな」

「全然」

「そっか、やっぱ石原はすげーなー」

 あー朝から遥さんと会話出来とる……奇跡だぜ。と空を仰ぎ、感動していたのだが、視線を戻すと遥さんの顔が急に沈んだというか、挨拶の時はちょっと嬉しそうな顔だったのに。

「行く」

「あ、おぉ」

 ちょっと肩を落として、スタスタと早歩きで校内に入っていく遥さん。

 え、今俺なんかした? しちゃったのかしら!?

 脳内をフル回転させても、思い当たる事が、俺の顔が怖かったからとかしか思い浮かばなかったので、笑顔の練習をマジで頑張る事を誓う俺なのであった。

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