第23話 約束したんだ。

 もうどれほど殴られたのだろう、どれほど蹴りを入れられたのだろう、数えきれないほどではないと思う。

 だが、この男の一つ一つの一撃はかなり重くて、正直、としても、いい勝負だったんじゃないかと感じる。

 でも、もうそんな分析さえも定まらなくなってきた。

「はぁ……はぁ……」

「んー、タフタフ。君いよいよいよいよやばいな。こんなに殴られて人って立てるんだね? 怖い怖い」

 俺をタフタフと呼んでくる耳赤ピアス。言葉とは裏腹にさも愉しげに話しかけてくる。

「……そうだろう、怖えだろ。だから早くビビって帰れや」

「いいや、面白いからどんだけ立ってられるか試したくなるじゃんじゃん」

 まーた変則的な飛び蹴りか。俺が無抵抗な事を良いことに。

 最早ガードに力を入れても、その上から叩き込まれて下手したら骨が逝く。

 掌で受けてから、蹴り飛ばされる方向に身をよじり、一番ダメージにならない防御を模索した。

「うーん、いまいまいち」

「いや、痛ぇっつんだよ」

 俺はまたも赤ピアスの右胸あたりを押して突き飛ばす。

「まーたまたカウンター出来たのにしないんだ」

「うっせぇ、今のはしなかったんじゃなくて、出来なかったんじゃボケェ」

「あらあら、タフタフ敗北宣言かな?」

「……調子に乗んなよ」

 一つわざとらしい大きく深呼吸をした、あー息吸うだけで、切れた口内が痛ぇなぁ。と思いながら、俺は思いっきり拳を振りかぶる。

 その寸止めに対し、目が一瞬虚を衝かれた様だったのは分かった。しかし、自分の目の前で拳が止まるのを見た赤ピアスは、すぐさま、ローリングソバットである。モロ腹直撃、俺は吹っ飛ばされる。

「んがっ」

 吹っ飛ばされた俺は何とか気を失わずにいたが、立ち上がろうにも力が入らない……効いたぁ……。

 すると、吹っ飛んだ俺の方まで赤ピアスがやって来て、仰向けで倒れてる頭を掴んで問う。

「タフタフなんで反撃しねぇわけ? 今みたいな動き出来るんじゃん。意味意味不なんだけど、舐めてんの?」

「いや……お前強いし……舐めれるわけねー……だろ」

「じゃなんで攻撃してこねーのか教えてみ?」

「……俺は、もう、。絶対に」

「あー、そんななりしてるからやっぱりぱりヤンキーだろーなと思ったけど、改心してる系かー。納得納得」

「勝手に……納得すんな!」

 俺は残った力で頭を掴んでる赤ピアスの腕を掴み、突き飛ばす。

「まだ立つか。結構ガチソバットだったんだけど」

「お前より天蘭高校の堺浩史のソバットのがとんでもなかったぜ」

「誰誰それ。その煽り方不愉快だなぁ」

 またも鮮烈な一撃。

 ……ローリングソバットが来ると分かっていたのに……対処出来なかった。

 勿論ボロボロなのもあるけど……多分今の怒りの形相の一撃が、この赤ピアスの本気なのだろう。やばっ……意識飛びそうだ。

 また吹っ飛んだ俺は、どうやらはるかさんのいる地点ぐらいまで吹っ飛んだらしい。

 なるべく誰かがいる表路地の方まで誘導しながら殴られ屋やってたってのに……おじゃんかよ。

「さーて、じゃ、誰も来なかったし、女の子達で遊ぼーかな……って、タフタフ、足離してくんない?」

 掴まれた足を引きずりながら赤ピアスは笑う。

「俺が許しを請うまではお前の勝ちじゃねーだろ」

「だってタフタフ、虐めても許し求めるタイプじゃないじゃんじゃん」

「遥さんに手ぇ出してみろ……殺す」

「いや出来んこと言うなしー」

 赤ピアスの自由な方の足が、俺の胴体に蹴りを入れてきた。

 口の中を切っている為、口から血反吐みたいなのが出てくる。

「じゃあ反撃しろって、タフタフ、おら、おら、おら」

「うるせぇ!!」

 叫び、もう片方の足の靴裏を引っ掴む。相手への怒りを、俺は咆哮ほうこうでしか負けぬ様に取り繕う事しか出来ない。

「俺は……あいつと、約束したんだ。あいつの隣に立つ為に、自分自身に誓った。二度と人は傷つけない、俺の手は、もう、誰も傷つけねぇんだよ!」

「はいはい、分かった分かった」

「あ゛」

 足を思いっきり上げてかかと落とし。認識出来た。それだけだ。避けれるわけもなかった。俺の制止をいとも簡単に振り切って彼女らの元へ赤ピアスは行ってしまう。動け……動け。

「……あーあ、つまんね。なんだよその顔。さっきみたいに怯えた顔のがそそるのに。萎え萎えた」

 意識が飛びかけだが、赤ピアスの言葉がそう言ったように聞こえる。

「こっちです!! 早く誰か来て!!」

「あーあ、ゲームオーバーか。じゃあね、タフタフ、面白白かったよ」

 肩を数度叩かれて、赤ピアスは走り去っていく。誰かが助けに来てくれたのか?

 そこでようやく安堵したからか、俺の意識は完全に途切れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る