第21話 守りきれ。
金曜の放課後、生徒会室では3年生、
理由はえらくシンプルなもので、端的に言うと嫌がらせ。
しかも部員が辞めたりしてる事にも気づいたもんだから、次第にエスカレートして楽器を盗んだりして困らせていたということだ。
「事情は分かったし、玉原先輩がさっき音楽部の皆に謝りに行ったのも知ってるから、別段話を大きくするつもりは無いんだけど、みんなはどう思う?」
陣内はまずは
「うーん、お咎め無しなのもどうなんですかねー。だって音楽部の皆さんずっと怖い思いされてたわけで、せっかく入った新入部員さんとかも辞めちゃってるって最早実害って言えちゃうんじゃ」
ジト目で意見を述べる柴咲に、玉原はとても肩身が狭そうな表情を浮かべる。まぁ、自業自得なんだが、柴咲の意外と冷静な意見を言われてダメージ喰らうのは俺も良くあるから、ちょっと同情。
「音楽部が許してるなら、僕らがとやかく言うことじゃ無いと思いますよ。後は辞めていった人達へもちゃんと謝りに行く事が大事かと」
「まぁ、関わってない僕らより、意見を聞く適任者がいるでしょうけど」
「そうだね。
陣内が少し期待するような顔でこちらを向いた。
「俺? そうだなぁ」
言いたい事はさっき音楽室の前で全部言っちまったし、特に無いけど……いや、あるっちゃあるか。
「俺は、こいつが本当に悪い事をしたと思ってるんなら、こっから先の行動で評価したいと思う。俺らがこーしろ、あーしろって言ってやる事なんて、周りからしたら結局言われたからで済ませれちまうだろ? だから
ふんすと鼻息を鳴らし、決まった。と思っていると、コソコソと柴咲が隣の昂輝に言っている。
「ドヤ顔ウケる」
「聞こえてんだよ」
挙動コソコソしてるのに声の大きさそのままとか馬鹿なの? 男のプライドの傷つけ方の天才なの?
「なるほど、みんなの意見を聞いたところで私が決めようか」
陣内がうんと一つ頷いて、玉原の方に真向かい、口を開く。
「玉原先輩のやった事は人から見たら大したことが無いと思う人もいるでしょうけど、でも、そんな空気だからこそ、これから音楽部の為に、正しく何かをしてあげる行動は、きっと正のイメージになりやすいと思います。なので、特に生徒会からは指示は出しませんが、迷惑をかけた分、音楽部再建の力になってあげること。それが生徒会からの指示というより……お願いですね」
「すみませんでした……」
謝る玉原に対し、最後は朗らかに笑ってみせる陣内。罪の意識で弱った男に、優しい聖母のような笑顔を見せる。そういうとこやぞ。
「どうした妻夫木?」
「なんでもねー」
そういう露骨な好感度稼ぎに騙された男が何人いるんでしょーね。とか思ってませんよ俺は。えぇ、思ってませんとも。
「あ、終わった?」
「うわっ、びっくりしたぁ! 急に出てくんなよ」
「やっはぁ、ちゃんとパソコン返さんとね」
生徒会室の扉を開けて入ってきていたのは、
「もう終わったんですか? 部活動の年表作るの」
「まぁねー。あ、そうだ。今から職員会議やるから、今日も適当に切り上げてね」
「職員会議ですか? テスト前だから?」
昂輝が尋ねると、へらへらと笑いながら草薙が違う違うと手を振る。
「なんかねー。不審者がこの頃現れてるんだってさ。近頃女の子達が狙われてるから、テスト週間はどう下校させるかーとか色々話し合うみたいだよ。部活も生徒会も帰宅命令出てるから、陣内達も固まって帰るように。気をつけてねー」
「あぁ、その不審者なら……」
そこまで言ってハッと気づく。玉原は楽器盗んだ事は認めてるけど、下校時に尾けてることって……認めてなくね?
「なぁ、玉原先輩、ここしばらくで部活終わった音楽部の女子達の後ろ追っかけて行ったりしたか?」
「急に何の話だ?」
わけが分からないという表情、その表情が嘘ではないと感じたのは、ヒロとの電話を今思い出したからだ。
『ガタイよくてストーキングする奴いない?』
どう見ても玉原はガタイが良いとは言えない。眼鏡をかけた中肉中背の男だ。
「草薙、部活動やってた生徒はもう帰ってんのか?」
「おっほ、相変わらず呼び捨て……え、もう帰ってると思うけど」
「陣内、俺ちょっと音楽部の下校状況確認してくるわ!」
俺と玉原のやり取りで生徒会一同は全てを察した。
「任せた妻夫木」
陣内がうんと大きく頷き、教室を出ようとして、残りの俺たちも草薙や玉原を置いて生徒会室を出た。
ストーカーと楽器を盗んでいた者は別の人間だったという事実。
いくら先生から注意喚起があって帰宅してるにしても、犯人が玉原と思って油断して帰宅してる子達が多少なりともいるはずだ。
俺の脚はいつの日かのように、守る為に走り出した。
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