第14話 神笑顔、見ちゃったね。

「ストーカーがいる。部活、部員が減ってる」

 なるほど、はるかさんから出てきた言葉からつまりこういう事らしい。

「最近音楽部をストーカーする奴が現れてて、そいつのせいであんまりいない部員や練習時間が更に減りそうと」

 するとコクリと遥さんが頷く。

「え、ブッキー輩なんで今ので分かったんですか? あたし、ストーカー部なんてあったっけ? と思っちゃったんですけど」

「そんなクレイジーな部活の存在を疑うお前の脳内を疑うわ」

 この会計クレイジー過ぎる。知ってたけど。

「ストーカーか。それ被害受けてるのは誰なの?」

 昂輝こうきが尋ねると、遥さんは、表情を硬くして答える。

「誰なのか分からない。でも、練習で使った金管楽器が無くなったり、毎日誰かが帰る時付きまとわれてる」

「石原もか!?」

「はい」

「おぉ……おぉそうか」

 こみ上げてきたのは激しい怒り。取り敢えずそのストーカー野郎をぶち殺すのは確定だぜオイ。畜生、そんな事態になってる事に気付かなかったなんて。俺はなんて間抜けなんだ……。

 落ち込んでいると、柴咲があっけらかんとした様子で口を開く。

「金管楽器って、あぁ、吹いて間接キスする為とか? きもー」

 かぁんせぇつきぃーすどぅあーとぅ!? 抹殺だな。絶対抹殺。絶殺ぜっころ

「なるほど。それが本当なら由々しき事態だけど、先生には相談してるの?」

 昂輝が心配そうに尋ねると、ふるふるとショートヘアが横に揺れる。

「いいえ」

「え、何で?」

杞憂きゆうかも」

「ん?」

「ストーカーがいるって事は証明出来てないって事か」

「だから何で孝宏たかひろは分かるんだよ」

「多分会話の感性が動物レベルだからですよ多分」

 柴咲め。誰が動物レベルじゃ。あと多分二回言っちゃってるし。

「でも、それが何で生徒会に入るのを渋る理由になるんですかー?」

 柴咲によるえらくまともな質問に、遥さんが小さく俯きながら答える。

「心配。私が生徒会に入ると、みんな部活辞めるかも」

「? 何でですか?」

「このタイミングで生徒会入ったら、他の部員と一緒で、部活に行くのが嫌になって、生徒会に入ったみたいになっちまうって事だろ」

「あー。なるほど。確かにそういう空気って伝染しますよねー」

 空気の伝染か。上手い表現だな。実際のところ、遥さんに生徒会に入ってもらうよう頼んでいるのは俺らだ。

 本人の意志で入りたいわけではないものの、このタイミングで他のコミュニティに目を向けるという行為は、それまでのコミュニティである音楽部を軽視していると捉えられてもおかしくない。

 既に数人が辞めてる現状、遥さんが生徒会に入るなら、私もと、別の部活に入ろうとしたり、そんな空気が嫌で部活を辞める者は後を絶たなくなってもおかしくない。

「ストーカーに心当たりはあんのか?」

「無い」

「あったら先生に相談出来てるよな」

「そう」

 僅かな言葉の中にも、彼女の中で、色んな気持ちが巡り巡っているのではないかと思う。

 安心させてやりてぇな。俺は一年の時から知ってる。遥さんが真っ直ぐに音楽に向き合うとても優しい心の持ち主だって事を。

「なぁ、昂輝。俺さ」

「よし、会長から許可取ったよ。孝宏。今日から音楽部の護衛兼、犯人確保が仕事だって」

「……は?」

「ストーカーって聞いて会長に伝えたら、どうせ孝宏がなんとかしたいって言い出すだろうから任せろってさ」

 肩をすくめて、昂輝が言うと、柴咲があーぁとため息をついた。

「じゃああたしも会計の仕事しなきゃですねー。貸し一つですよブッキー輩」

「柴咲……って一瞬感動しかけたが、それ当たり前だからな」

「てへっ」

 てへっじゃねぇんだよ。そのシュシュごとぶん投げたろか。

 にしてもあのバ会長相変わらず俺のやる事なす事全部お見通しだな。

 じゃあトップの許可も降りた事だし。

「石原、俺がそのストーカーを見つけ出してお前たちが楽しく音楽出来るようにしてやる。だから大船に乗ったつもりで任せろぃ」

 俺が言うと、遥さんは目をパチパチと瞬かせた後、言葉こそ無かったものの、いつものクールな表情からは想像できない、優しい笑顔を向けてくれた。超可憐。

 さーて、じゃあ神笑顔を見て元気充電したところでいっちょ仕事しますか!

「ブッキー輩、麺伸びてます〜!」

 あとこの後輩本当空気ぶち壊す天才ですねマジで。

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