第78話 馬車より、ずっとはやい!!
「ウリドラちゃん凄い! 馬車よりずっとはやいよ!」
「おい、そのセリフはやめてくれ、心が痛む」
「はい?」
俺達はウリドラの背に乗ったまま村の周りを適当に飛びまくっていた。
ウリドラは地面から数センチの所を、ふよふよと飛んでいた頃と大違いで、かなりの高度をかなりの速度で飛べるようになっている。
この成長はドラゴン種だからなのか、それともあの茎のせいなのか。
俺は後者だと思っている。
なんせあの種から生えた茎が生き物に何の影響も与えない訳が無い。
もしかしたらウリドラ自身がドラゴン種に変異したのもあの茎を食べたせいなのではなかろうか。
「それにしても不思議ですね拓海様」
「何が?」
エレーナは自分の手のひらを上に挙げて俺に答える。
「空をこんなに速く飛んでいるのに全く風を感じませんよ」
「そういえばそうだな」
確かにこれくらいの速度で移動していれば前から猛烈な風を受けているはずだ。
それどころか今気がついたが、Gもあまり感じない。
「これってウリドラの魔法なのか?」
「ぴぎゅう!」
俺の言葉にウリドラは肯定の鳴き声を上げた。
多分。
「だとするとウリドラの属性である『空属性の魔法』という事か。他に何が出来るんだろうな空属性の魔法って。エレーナは知ってる?」
「私が読んだ本の中では『空』という属性は一度も見かけた事がありません」
「という事は激レアの属性なのか、魔物とかドラゴン種しか持っていない属性なのかもしれないな」
空を飛ぶ事が出来る他の生き物を一度捕まえて『品質鑑定』してみないとわからない。
「激レア……ですか」
「ん? ああ、意味は両親の生まれた国の言葉で『とんでもなく珍しい』って意味らしいよ」
エレーナのつぶやきにそう答えると、何故かエレーナは更に考え込むように黙ってしまった。
あれ?
意味を聞きたかったんじゃないのかな?
「激レア……その言葉は確か私が読んだ英雄譚にもありました」
「英雄譚?」
「ええ、英雄譚です。確かその勇者様は『日本』という所の出身だと書いてありました」
うはっ。
同郷人ってやっぱりいるのか。
「その彼がよく『激レアアイテムゲットだぜ』と叫んでいたとか」
ノリノリだなそいつ。
「もしかして拓海様のご両親はその『日本』の方なのでしょうか?」
「あ、ああ。そう日本だよ。日本」
「やっぱり。拓海様の名前の響きがその勇者様に似ているのもそのせいなのですね」
「似てる?」
「ええ、ヨシミ・ナラサキというお名前でしたわ」
全然似て無くね?
というかヨシミのミくらいだよな。
まぁ音の響きというかリズム的な物という意味なんだろうけど。
「その勇者様って今も生きてるのかな?」
「もう百年以上前のお話ですし、流石に生きてはいらっしゃらないと思います」
そっか、それなら会うのは無理だな。
ん? でも「激レアゲットだぜ!」とか言ってたんだろ?
だったら俺と生きていた時代はそんなに変わらないはず。
なのにこっちの世界では百年以上もズレているって事はどういう事だ?
もしかしてこっちの世界とあっちの世界だと時間の流れがかなり違うのかもしれない。
その勇者様の『遺品』に日本製の物でもあればわかるかな?
それよりも家に帰ったときに女神様に聞いたらいいか。
「でも、その勇者様の子孫の方々ならいらっしゃいますよ」
「知っているのか雷……エレーナ!」
「雷? ええ、私自身は会った事は無いのですが、確かお母様の剣のお師匠様がその勇者様の子孫の方だったはずです」
エリネスさんの師匠。
彼女に剣を教えたっていうあの人か。
確かにエリネスさんの光の剣の剣閃は西洋っぽくないとは思っていた。
どちらかと言えば時代劇の殺陣のような。
あそこまでの魅せる派手さは無いけど、それはエリネスさんの剣は実践向けの剣だからだろう。
「そのお師匠さんって今は行方知れずなんだっけ?」
「お母様が男爵領を離れる一年ほど前に旅に出たと聞きました」
放浪の剣客か……カッコいい。
いつか絶対会いに行こう。
でも問題は放浪してるからどこに居るかわからないんだよな。
筆まめな人なら手紙でも送ってくるかもしれないが。
というか、この世界に手紙という物があるかどうかもわからないけど。
それにしても飛び上がってからそろそろ半時間くらい経つだろうか。
風とGはほとんど感じないけど、空の上は気温が思ったより低いせいですこし鳥肌が立ってきた。
寝起きに簡単な格好で飛び出してきたからなおさらだ。
「ウリドラ、そろそろ村に帰るか。せっかくキャロリア使った昼飯作ってくれるって言ってたから遅れたら悪いし」
「ぴぎぃー」
「お前も食べるの? でもさっきは要らないって言ってたじゃないか」
「ぴぎゅ!」
「生は嫌だって? 茎は生で食べるくせに、野生を忘れすぎだろお前」
「ぴぎゅぴぎぃ」
「茎は別腹って言われても知らねーよ」
俺はウリドラと会話(?)をしながら、近づいてくる村の広場で上を指差し集まってきた村人の姿を見て「どう言い訳しようかな」と考えていた。
因みに俺の返事は適当にこう言ってるだろうと思って答えているだけだ。
一応ニュアンスだけはわかるようになってきたのでそれほど間違いではないとは思う。
多分。
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