第62話 俺にいい考えがある
「さて、とりあえずこの野盗共をどうしようか?」
近くの街というかファルナスの街まで連れて戻るのは流石に現実的ではない。
また賞金が貰えるかもしれないが、今はそれよりも関所をどうやって通るかが問題だ。
かといってコイツラを放置しておけば第一婦人派と、あのヒョロガリドワーフの資金源としてこれからも被害者が出続ける可能性が高い。
というか、俺たち以外にも既に襲われた人もいるかもしれない。
「おい、お前」
「は、はひっ!!何でございましょうっ」
俺が普通に声を掛けただけだというのに、野盗の男は怯えた声で土下座しながら後ずさる。
器用なやつだ。
少し呆れつつ俺は男に俺たち以外に被害者は居ないかどうかを問い詰めた。
すると、どうやらここ半月くらいの間に数組攫ってアジトに監禁してるということがわかった。
こいつの言葉が嘘でなければ、そうやって攫った獲物は二十日に一度、決まった日に関所を通ってダスカール王国領に運び込むらしい。
その日は、あの関所はドラスト伯の手下が当番をしているので荷物の検査はスルーされるとか。
一応、もしもの時のために『公爵家の公認証』も野盗の頭に与えられているらしいのだが。
「そんなものを野盗に与えるなど、信じられない愚行ですわ!」
珍しくエリネスさんが激高するくらい信じられないことらしい。
これは囚われてる人を助けるついでにその公認証も奪わないといけないな。
「それでドラストから俺たちを捕まえてどうするつもりなのか聞いているのか?」
「もしかして暗殺でも頼まれましたか?」
俺とエリネスさんの言葉に野盗の男は「も、申し訳ございませんでしたぁ」と更に地面に頭を擦り付ける。
そんな怯えすぎて話がなかなか進まない男から根気よく情報を聞き出す。
そんな中、なんとか聞き出した内容はエリネスさんの予想していたとおりだった。
野盗どもに命じて俺たちの命を奪い、首をもってこい。
粗野で脳もない野盗共には、いつものあまり殺すことの出来ない人攫いよりは楽な仕事だと思われた。
だがドラスト伯には俺の実力はまだ伝わっていなかったようだ。
そしてお嬢様のエレーナやエリネスさんの力もかなり甘く見積もっていたのだろう。
これだけの数の野盗を差し向ければ捕獲も容易いと思ったとして不思議ではない。
あの暗殺者兼調査員のドワーフからの情報が第一婦人からドラスト伯まで届いていれば違ったかもしれないが、聞く限りだとそれはなさそうだ。
それとも思ったよりあの通信魔道具で伝わった情報が少ないのかもしれない。
「待ち伏せて一気に俺たちを殺し、首を切るという予定だったわけか」
「はいっ、そうでございます」
これは利用できるのではなかろうか。
俺は男からアジトの場所を聞き出すと腹に一発軽くかまして気絶させ縛り、野盗たちの山に放り込む。
「エリネスさん、エレーナさん。この野盗の処理と、関所超えについて俺にいい考えがあります」
「あらあら、拓海様。なにやら悪い顔をしていらっしゃいますわね」
「最近の拓海様は、日に日に逞しく……」
そんな二人に俺は思いついた作戦を告げる。
これなら上手くやれば関所の兵に王都への連絡を出されることもなく、そしてドラスト伯の喉元を食い破ることが出来るかもしれない。
「それは面白そうですわね」
「私、がんばります!」
さぁ、救出&脱出作戦を始めようか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから一時間くらい経っただろうか。
俺たちは森の奥に作られていた野盗のアジトを急襲した。
アジトは簡易的な柵に囲まれており、その中に数件の建物が見える。
一見すると森の中の小さな集落にしか見えない。
まずエリネスさんの光魔法によって姿を消した俺は、柵の前で暇そうに見張りをしていた男に近づき、一瞬でその意識を狩る。
「あて身っ」とかつい口にしそうになったのを我慢しつつ、俺は次の獲物へ向かう。
といってもアジトの中にはほぼ人影は見えない。
あの野盗男から聞いた所によれば、今回俺たちを捕まえるために、見張り役の数人を残して、ほぼ全戦力で俺たちを襲ったらしい。
全然意識してなかったが、あのぶちのめした中に奴らのカシラも混ざっていた事を知って微妙な気持ちになったのは仕方のないことだろう。
「さて、捕まってる人達がいる建物はあの奥かな」
攫った人達が詰め込まれているらしい建物は、アジトの入り口からは直接見えないような場所に作られていた。
そのおかげで見張りを倒してもバレなかったわけだが。
「ふむ、情報通り外に二人か」
様子を確認していると、手早く倒した見張りの野盗を拘束し終わったエリネスさんが俺の側まで小走りでやってきた。
ちなみにエレーナは馬車でウリドラと一緒に野盗どもを監視中である。
最初、自分も行くとゴネていたが、エレーナにしか頼めない事なんだと説き伏せてなんとか納得してもらった。
正直ウリドラだけにずっと任せておくのは不安だった。
あいつ気がつくと飽きて眠りそうだし。
「どうしますか拓海様。もう一度姿を隠してやります?」
「そのまま突っ込んでも倒せそうだけど、片方を倒している間に捕まってる人を人質にされるのも面倒だからなぁ」
「では二人で同時に突っ込みますか?」
エリネスさんはそう言うと光の剣を顕現させる。
この人もしかして普通に暴れたいだけなのでは?
なんだか目もキラキラしてるし。
多分俺一人でも二人を瞬殺することは可能だろうけど、エリネスさんのストレス解消のためにもお願いしたほうが良さそうだ。
あのドラスト伯と会ってからというもの、彼女はかなりストレスを貯めている様子だったし。
「それじゃあ俺が奥の遠い方の人族をやります。エリネスさんは手前のエルフをお願いしますね」
「わかりましたわ」
見張り番の二人の死角側から飛び出した俺は、その男が俺の気配に振り向く前に頭を後ろから掴み地面に叩きつける。
その横で、エリネスさんの光の剣が閃く。
本来なら真っ二つに切り飛ばされたはずのその剣閃は、男の体に猛烈な衝撃だけを与え、その意識だけを刈り取った。
関所までの間、俺が特訓の間に食らっていたアレだ。
防御力がとてつもなく高くなっている俺でさえ少しの痛みは感じた攻撃である。
普通の野盗ごときには命があるだけでもマシな衝撃だったろう。
「物足りませんわね。やはり二人共私一人で真っ二つにするべきでしたわ」
なにやら物騒なことを言いながら光の剣を消すエリネスさんを放置して俺は周りを見渡す。
「さて、これで聞いたかぎりの野盗は全てかな。彼奴が嘘さえついてなければだが」
俺たちは倒した野盗二人を拘束すると、さらわれた人たちが監禁されているらしい小屋の扉に付けられていた南京錠のような鍵を引きちぎり、その扉を開け放ったのだった。
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