第51話 たった一日で大金持ちになる方法

 この街の衛兵詰所は、宿屋から歩いて十分ほどのところにあった。

 四角い二階建ての木造家屋で、周りの建物との違いは少し黒く塗られたその外見くらいだろうか。


 俺たち四人と一匹がその中に入っていくと、皮の鎧のような軽めの装備をした衛兵が三人と、受付のような所に一人女性が座って事務仕事をしているのが目に入る。

 受付カウンターにトルタスが近づくと、女性は書類から顔を上げて俺たちを見回した。


「何か御用でしょうか?」

「商人のトルタス・アキノウと、タクミ・タナーカと申しますが、昨日の野盗退治の報酬を頂きに参りました」


 タナーカ……。

 トルタスさんの発音にちょっと引っかかりを覚えていると、奥に居た衛兵の内、一番年かさのダンディなオジサンがこちらに歩いてきた。

 耳とか見るとどうやら彼は普通に人族のようだ。

 他の若い用に見える二人は耳の長さとイケメン度からしてエルフだろう。


「あなた方があの盗賊を捕らえた方々ですか」

「はい、といっても私は盗賊たちに襲われたほうで、退治したのはこの拓海様たちなのですが」

「ほほぅ、若いのにあの盗賊どもをなぁ」


 衛兵のオジサンは俺を値踏みするように上から下まで見た後少し首を傾げる。

 まぁ、全く強そうに見えないのは俺も理解しているから、彼が不思議がるのもわかる。


 続いて俺の後ろに立つエリネスさんとエレーネだ。

 ウリドラはペット枠なので彼にとってはアウトオブ眼中だろう。


「お姉さんの方は、かなりの使い手と見えますが」

「あらあらうふふ、私の事ですか?」

「ええ、そうです。お美しいお嬢様」

「あらあら、お上手ですこと」


 この二人は姉妹じゃなく母娘なんだけどと言いたいけど言えない。

 人族じゃなくドワーフってバレてしまうからな。

 せめてエルフの親子ならそっちも長寿族だろうし同じ様な感じじゃないかなと思うけど。


 エリネスさんとオジサンがにこやかに剣技について語り合っている間に、受付のお姉さんが握りこぶし大の袋を一つ、奥から持ってやってきて俺達の前に置く。


 どしゃり。


 中に硬貨がそれなりに入っているのがわかる。


「賞金の銀貨10枚と銅貨50枚です。ご確認ください」


 お姉さんは事務的にそう言うと、硬貨の入った袋の口を開いて見せた。

 とりあえず袋をひっくり返し机の上に出し数える。


「はい、たしかに受け取りました」

「それではこちらにサインをお願いします」


 差し出された書類を前に『タクミ』とひらがなを崩してサインぽくかいてから気がついた。

 そういえば俺普通に日本語で読み書きしてるけど、通じるのか?と。


「これでよろしいでしょうか?」

「ありがとうございますタクミ様のサインを確認しました。それではこちらにはトルタス様のサインをお願いします」

「はいはい」


 おや?

 普通に文字は通じているようだな。

 もしかしてあれか。謎の自動翻訳みたいな。

 でも俺の書いた文字も相手は読めているようだし、日本語を暗号に使うとかいうのは出来ないな。


「ありがとうございます。これで賞金の引き渡しは完了ですね」

「はい確かに。それでですね、別件でもう一つお願いしたいことがあるのですが」

「何でしょうか?」


 トルタスさんの言葉を聞いて、事務員さんは机の引き出しから何やら別の書類を取り出す。

 あれは依頼を書き留めるための書類だろうか。

 警察の調書みたいな。


「実は……」


 そうしてトルタスさんは昨日起こった事件と、それに関してこれから行われる競り市の警備を詰め所の衛兵に依頼した。


「ふむ、このタクミ殿はそんな品物をいったいどこで?」


 エリネスさんとの会話が終わったのか、オジサンが後ろから声をかけてきた。

 が、それに対して『異世界から持ってきました』なんて言えるわけがない。

 まぁ、実際は持ってきたんじゃなくて女神様がこの世界で再生させたわけだが。


「昔家族が手に入れた品物でして、家族が亡くなりまして俺には価値とかわからないので処分先をさがしてたんですよ」


 とりあえずそれらしい理由を作り上げて答えたが信じてくれるだろうか。


「ふむ、まぁいい。被害届も出ていない物品については俺達には何の関係もないことだしな。どちらかといえばタクミ殿が襲われたという賊を追いかけるほうが俺達の仕事ではある」


 彼はそう言うと、受付のお姉さんが書いた書類を机の上から取り上げ「というわけで警備じゃなくその賊を捕まえるためにセリ会場の周りを固めてやろう」と口元に笑みを浮かべた。


「それにコイツらの被害はここの所結構こっちに上がってきていてな。ちょうどいい機会だから一網打尽にしてやるさ」


 書類をひらひらさせながら詰め所の奥に歩いていく背中を見送った俺達は、その後トルタスさんのこれからオープンするお店に出向いて、妻のファルナさんと娘のレリナちゃんの二人、そしてファルナさんの両親に盛大にもてなされた。


 その間にトルタスさんは一人で色々な商人の所を周って、明日街の中心近くの会議場でセリを行うと告げに行くと出かけていった。

 よくはたらく人だ。

 昔の俺を見ているようで、過労死するんじゃないかと心配になる。

 あとで、適度な息抜きと休みの重要性を彼に伝えねばなるまい。


 俺達はそうしてその日を過ごしたのだった。


 しかし、翌日行われたセリの会場には結局その賊たちは現れなかった。

 怪しい動きをしていた輩は何人かいたそうだが、俺の証言と合致するグループはその中におらず、結果空振りになってしまったとオッサンが悔しがっていたらしい。


 結局、妹の部屋から持ってきていた品物は結構な高値で売れた。

 一番高値が付いたのは、細かい細工がされた香水瓶だった。

 中身が八割ほど残っていて、その香りも今までに嗅いだことがないいい香りだということで評価を更に上げたみたいである。


「あれは何処かの貴族の手に最終的に渡る品物ですよ」とトルタスさんも目をきらめかせて語っていた。


 この日、俺達は売却金額金貨101枚と銀貨8枚という大金を手に入れることになったのだった。


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