第24話 迷宮探索をしよう!

「皆、準備はできたか?」

「「「「おー」」」


里の広場には、武装をした数名がいた。


今日は以前大森林の中で発見した迷宮探索の日だ。

人数はあまり多くては統率が取れないので、フィアナとルミナに、レインとネーレだけだ。


「それでは、俺がいない間、皆さん里は任せますよ」

「おう。気をつけて行ってこい!」

「モンスターにちびんじゃねぇぞ、ルクシオ!」

「宝物よろしくな!」


見送りに来ていた里の住人から野次をもらい、俺たちは迷宮へと出発した。

迷宮は意外と近く、里から10分程度で着く場所にある。


「さて、英雄譚を紡ごうか」

「彼は何を言っているの?」

「ルクシオ様ってたまに頭おかしくなりますよね」

「あれがデフォルトなんじゃないの〜?」

「……ギャップ萌えっ。可愛い……!」


外野が少々騒がしいですね。

ネーレが訳の分からない事言ってるけど、これ以上変態になられたら困るな。


迷宮へと足を踏み入れる。

石段を一歩一歩、感慨に浸りながら踏み締めていき、やがてひらけた場所へと出た。


「うおお!すげぇ!」

「これが迷宮、綺麗ね」

「幻想的ですね」


やや凹凸のある床に、何かの鉱石が埋まる壁、天井が作り出すその世界は、幻想的な秩序によって構成された別世界のようだ。


「ふっ。これが迷宮か……。素晴らしい。

俺の英雄譚が世界中で語り継がれる事もそう遠くないかもな」

「確かに。ルクシオみたいな阿呆が紡ぐ英雄譚はさぞ異色を放ち、世界中の人に笑われるでしょうね」

「【クレイジーノを食べた英雄の黙示録】とか売れそうじゃない?」

「……一体何を語るのよそれは?」

「あれはちょっとダメじゃないですか?絵面的にその……」

「そんな汚物なものだったのか?」

「「「それはもう!」」」

「ちょっと待て。誹謗中傷にも限度があるぞ。それにレイン。お前はあの場にはいなかったよな?」

「私は精霊。この森で何が起きたかは大体把握してるわ」

「……つまり出歯亀犯罪者という訳だな」

「あ〜れ〜、そんな事言っていいのかなルクシオく〜ん?君が夜中何をしているのか、今暴露してやっても」

「……ちょっと来い」


俺はレインの手を引き、少し離れた場所に連れ出した。


「……貴様、何が望みだ?」

「ふふん。この私を満足させるだけのブツ・・を君が提供できるのかい?」

「【フィアナとルミナの黒歴史シリーズ】第一弾でどうだろうか?」

「よしいいだろう」

「交渉成立だ」

「上手くやりなよ」

「任せろ」


俺とレインは厚く握手を交わす。


危なかった。いよいよ以って俺の尊厳と威厳が無に帰る所だった。


「あれは一体何をしているのですか?」

「「下衆だな」」


こうした和やかなムードで、俺達は迷宮の奥へと進んでいく。


するとやはりと言うべきか、迷宮の代名詞とも呼ばれるモンスターが現れた。


「コボルトですね。凡そ20体前後ですかね」

「なんかやたら多いわね。魔法で殲滅しましょう」

「ここでエルフのルミナが魔法撃ったら天井とか崩れそうだからやめておいた方がいいんじゃないの?」

「ならこの私が屠ってやろうか?」

「いや、その必要はない」


何やら荒々しい事を言い出す4人を手で制し、ルクシオが一歩前に出た。


「ルクシオ様?」

「どうするのよ……?」


心配そうにするフィアナとルミナに、俺はふっと笑ってやる。


そして更にもう一歩を踏み出した。

挑発されたと勘違いしたのか、20体のコボルトが一斉に襲いかかってくる。


「いや〜、最近どうにも実戦から離れててな。ちょっと動きが鈍っちまってる。……サンドバックとして殺戮させてもらうぞ?」


そうしてルクシオは抜剣し、単独でコボルトの群れに突っ込んでいった。




***




結論を言うと、コボルトの群れは数秒で壊滅した。

コボルトの屍が、無残に裂傷斬烈され、血潮をぶちまけて事切れていた。

その真ん中に立つルクシオには乖離血が飛び散り、幾度となく浴びた血潮に染め上げられた剣もあり、狂気に達していた。


「あれ?ここまで凄かったでしたっけ?」

「嘘?……こんなに強かったの、ルクシオ」

「おお〜。これは見事な」

「強いわね。流石は私の主。けれど、何故私を使ってはくれないのよ。私神剣なのに。放置プレイとかッ!くぅ〜!」


それぞれ思い思いの感想を述べ、そして少々人様にお見せできない程の顔で身をよじり始めたネーレに「うわぁ〜」というリアクションをしてみせる。


忙しいな。


「さ〜て、皆、早く先に行く……ぞ……」


何かの異変を察知したのか、ルクシオがピタリと動きを止めた。


「?どうかしたのですか……ルクシオ……様」


ルクシオの視線を追ったフィアナも、徐々に顔面を蒼白にしていく。


そこには、まるで追い剥ぎにでもあったかのようなボロボロの粗末なマントの風体に、その下から覗く、ただれた足のモンスター。

ゾンビだった。


「ん?何よ、ただのゾンビじゃない」

「ゾンビね」

「ゾンビだね〜」


あっけらかんとした言葉を零す3人は、様子からまだ事の重大さを把握していないようだった。


「お前ら、まだ気付かないのか?」

「?だから何に?言葉で言ってくれないと分からないわよ」

「いや、だからな」


ルクシオはゾンビに警戒を集中しながら、緊張した様子で説明する。


「ゾンビというアンデットモンスターに対抗しうる唯一の攻撃手段を、俺達のうち誰かが、習得しているのか?という話だ」

「「「あっ」」」


豆鉄砲を食らった鳩とはまさにこの事だろうと、ルクシオは他人事のように感じていた。


「レインは使える?」

「ネーレは使えるよね」

「……使えないわね」


つまりは、そういう事だ。


「カカカカカカカカッ!!!」

「「「「ノォォォォォッ!!!」」」」


迷宮に、5人の絶叫が響いた。



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