第18話 リアス大森林を探索しよう2-見た目の怪しい木の実は食べてはならない

リアス大森林。

伝説の森。

国危険指定モンスターレベルの魔獣がひしめき合う、魔境。


伝説と呼ばれる割には、昼には比較的穏やかな雰囲気を醸す森を、俺はいつしか楽観視していた様だ。


俺は今、また改め直して、伝説と呼ばれる所以を如実に思い知らされている。


「ルミナ、こいつあれだよね!確か……」

「レッドホーンよ!」

「行成凄いのに目をつけられましたね!ルクシオ様とルミナが騒ぐから!」

「腕折られそうになったら絶叫くらい誰でも叫ぶ!俺はまだ苦痛耐性が弱いんだよ!」

「そんな事今言ってる場合!?流石に場所が悪いわ!早く何処か広場へ!」


今、魔獣に襲われています。


名をレッドホーン。


紅い紅蓮の炎を彷彿とさせる一本の鋭利な角を頭に生やした、馬型の魔獣。

その安直なネーミングから、魔獣戦闘の初心者達は雑魚だと判断する事もあるが、それは早計だ。

ランクで示すならば、大体Bランク程度。

これは歴年の凄腕達が漸く、難無く討伐できるレベルだ。

これだけを聞けば、正直フィアナやルミナで余裕!と考えれるが、それは、ここがリアス大森林の中でなければの話だ。


生きとし生ける生命達は、未だ世界の気候や環境が安定しない混沌の世を、自身の体を適応させ、進化して生きてきた。

生物には、自然と、環境に適応しようとする性質がある。


例えば、まだ生まれて間もない人間の赤子を、本だけしかない空間の部屋に置いておくとする。

すると、やる事が本を読む事しかない赤子は、本を読む。読み続ける。

そしてそれは、その赤子自身の、気性として確立し、不本意であった読書を、積極的に行うようになる。

本には様々だが、それは基本的に、世界に存在する確かな真理に通ずる知識、叡智の集合体である。

それを読み耽った赤子は、俗に言う、頭の良い子、に育つのだ。


逆に、運動しかしてこなかった赤子は、運動神経が高く育つ。


環境は、環境に密接に触れ合う対象に影響を与える。


強者だけの空間に放られた者は、自然と強く育つ。

まぁ、そうなるには、もう少し幾つかの環境的条件が必要ではあるが。

兎も角、こういうこと。


少々周りくどかったかも知れないが、もうお分かりだろう?


リアス大森林という、強者・・しかいないところで生き残る生命は、必然的に……皆強い《・・》。


「キヒヒヒ〜ン!」


後方より、追いかけてくるレッドホーンが、荒々しく叫び声を上げた。


「ルミナ!広場って何処だ!」

「ルミナ、広場って何処にあるの!?」

「……えっ、二人とも、何処に広場あるか分からないの?」

「「……えっ」」


二人の、惚けた声が森に木霊する。

それは、二人の表情や、木霊する声質が相まって、余計に間抜けに見えた。


「「上げて落とすのはないだろ!(ないでしょう!)」」


走った。ただただ走った。

迫りくるう驚異を背中に一身に受けて、走った。



レッドホーンは遂に諦めたようで、後ろには既に、その影はない。

しかし、一心不乱に走り回った事により、周囲の地形を把握できず、俺達は今更現れた広場にて、休憩中であった。


つまりは、迷ったのだ。


「ルミナさん。幾らなんでもあれは酷いですよ」

「そうですよ!広場が有れば確かに私達で反撃できたのに!広場に行くと言った人が、広場の場所を知らないとは。流石に酷いですよ」

「仕方ないじゃない!じゃあ何っ!?まさかあんな足場の悪い狭い場所で応戦しろっての?あんなとこで魔法なんて撃ったら、それこそ別の魔獣を誘き寄せる事になるじゃない!」

「うっ、それは」


ぐうの音も出ない。

ルミナの正論に、フィアナは悔しげに口籠る。


でも、最もイラッとしたのが、レッドホーンの姿が消えて直ぐに、広場に出た事だ。


世の中世知辛い。


「まぁ言い争ったって仕方ないさ。このままじゃ日が暮れるまでに帰れなくなる。探索を再開しますか」

「はぁ〜。まさか、本当の意味で探索しなきゃならない羽目になるなんて」

「仕方ないですね。行くしかないです」


そうして俺達は、重い腰を上げ、探索を再開した。

リアス大森林は不思議であった。

魔素が豊富なだけあって、セルベストでは手に入らないような薬草や果物が随所に見られた。


探索中に果物を見つければ、普通毒味だろう。


その果物の様相は、シンプルに危ない木のみといった感じだ。

どす黒い赤色に、所々に散りばめられたように彩る斑点模様。


だが見た目に騙されてはいけない。

「美しい薔薇にはトゲがある」というこの有名な言葉を逆説的に捉えれば、

「醜い薔薇にはトゲがない」という解釈になる筈だ。

(概要:ルクシオ・クルーゼは理論を拗らせる癖があります)


「ルクシオ?何やって……ちょっ!待った、その木の実はッ!」

「ルクシオ様?……あッ!」


ちょっと背後から声が聞こえるが、無視。


ルクシオは、どんな病原菌が付いているか分からない野菜の木のみを、躊躇う事なく一口にいった。


その度胸と勇気だけは、彼もまた伝説級である事が証明された。


そして……。



「ぶっぶりひぃぃぃぃーーー!!!アイムファイン!ゲリーとロンデックス鼻ゲッティっ!オーマイがっっっねすっ!!!」


突如、未だ解明されていない古代ルーン文字級に意味の分からない言葉を、悦に入って叫び散らし始めたルクシオ・クルーゼ。


綺麗に整った容姿も、今となっては変顔の一役である。

イケメンマスクの無駄遣いである。


ルクシオの食べた木のみが何かを知っている二人ではあったが、普段のルクシオとは似ても似つかない姿を目にして、呆然としていた。


彼が食べたのは、【クレイジーノ】

とある国の、crazy。頭のおかしい奴という名前が語源の木の実である。

食べた者はたちまち、脳レベルが著しく低下し、理解不能の奇行に走るそうな。

しかも、それを食べた者は、症状が出ている最中の記憶はなく、気が付いた時には、「俺何してた?」状態になる。


とある者曰く、道を歩く女性という女性のパンツや下着を剥ぎ取り、口や鼻に詰めて発狂したりなど、その奇行というのが凄まじく致命的な為、とある地方では、罪人に与える刑罰としてこれを食べさせ、症状が出ている時の人を、動画の撮れる水晶で撮影で保存し、正気に戻った時にそれを見せるという罰があるくらいである。


小一時間程、ルクシオは頭がおかしかった。

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