第10話 里の大改造計画、始動!1

狼牙族約30名が里に生活するに当たり、当面の問題は、住居スペースの確保。


ということで……。


「皆さん、里を改築しようと思います」


俺は机に肘をつき、切実に言った。


このエルフの里は住居スペースの割に建物がなく、全体の約3分の1以上が放置されている形だ。


そのスペースは極めて勿体ないし里の畑の土なども古く腐っている為、それらも兼ねて、この際改造してしまおうというのが魂胆だ。


「改造と言って、まず何をするのですかルクシオ様?」

「そうだな。……ラウンジさんはいますか?」

「はい、ここにいます!」


ラウンジと呼ばれた、初老の風体をしたエルフは、この里でも1番の畑を耕す農家の人だ。


「単刀直入に聞きます。ここ最近、作物の収穫はどんなものでしょうか?」

「……著しい、とはとても言えないですね。リベアの襲撃もありましたが、前々から収穫の量が減っており、こちらとしても、努力はしているのですが……」

「なら、畑の改良をしましょうか」

「……っ!いいのですか?」

「もちろん。食料は極めて重要ですからね」

「ありがとうございます!」

「よし、じゃあ早速取り掛かろう」


やるべき事が明確になったので、ルクシオの提案で三つのグループに分かれることにした。

一つは畑を改良するグループ。これはそんなに人数には困らない。

もう一つは家屋を建設するグループ。

家は大事だし、狼牙族を迎え入れたのに、寝床がわらの中では不憫だし、そんな甲斐性無しとも思われたくない。


この際、里の人達があっと驚くものを作ろうと思う。


牙狼族の長ローさんにこの事を話したら、「そんな、ただでさえこの里にご厄介になっているのに、そこまでしてもらっては申し訳ない」と、如何にも義理堅い事で知られる狼牙族の長らしい事を言ったが、そこを気にされては困るし、楽しく生活してもらいたいので、そういう上下関係のような軋轢は無用だと宣言しておいた。


更にもう一つのグループは、皆が作業に集中する中で、モンスターの襲撃を知らせる警護のグループ。


この三つのグループで、今日は行動する。


「さて、皆気合を入れろよ!我等の救世主にしてフィアナの伴侶であるルクシオ様のご厚意に報いる為に、絶対にお役に立つのだ!」

「「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」


リアス大森林に景気の良い声が木霊する。

狼牙族を迎え入れて始めの朝を迎えたのだが、義理堅く知性の高い牙狼族の大勢がルクシオを神聖視している。

ローの影響もあるのだろうが、皆とにかく紳士的で、礼儀を慮る節があるのだ。

何度も何度も畏まらなくても良いと懇願したのだが、もう遺伝子レベルで彼らは義理堅かった。

ある意味頑固とも言える。


もう半ば諦観しているルクシオである。


さて、俺はまず家づくりの方に参加する。


推測だが、狼牙族とエルフの文化水準はさして変わりはない。

つまり、彼らに全てを任せれば、自ずとエルフと同じ様式を誇る家になってしまう。

それでは改造する意味がないので、ある程度のノウハウを授けたいと思う。


作ろうと思うのは、ログハウスだ。


この森の木々達は皆質が良く、頑丈だ。

これをふんだんに使ったログハウス。

贅沢なものだ。


正直、村の為だとか言ってはいるが、半分は自らの趣向故なのだ。


やはり村人生まれなだけあって、自然に囲まれた環境が懐かしく感じるのだ。


というわけで早速作業に入る。


エルフの人達に、里の森の木々を利用して良いかと尋ねたところ、快く承諾してくれたので問題ないだろう。


エルフの大工達には俺が王国で培った技術を伝授した。

狼牙族達には材木を運ぶ役割をしてもらった。


何故か方法はバケツリレー式で、渡すたびに、


「はい」

「ワン!」

「ワォン!」

「ワォォン!」

「ワォォォン!」

「にゃっ!」


と掛け声をしていた。


明らかに最後のはおかしい。


繁殖活動をする上で、猫か何か混ざったのだろうか?


陣容は優れている。

エルフの物覚えは大変優秀で、作業開始から3時間たった頃には各々磨いてきた技術を融合させて、より効率よく、リファインしていた。


狼牙族は流石の身体能力でエルフをアシスト。


即席とは思えない仕事ぶりだった。


様子から見ても大丈夫そうなので、エルフ大工代表のライムさんに場を任せ、畑の方へと向かった。




***




「ラウンジさん、作業は進んでますか」

「ルクシオさん!皆活気付いていて作業は捗っていますが、これから何をするのですか?」


ラウンジが作業に疑念を抱いているようだった。


今畑チームにやってもらっているのは、ただだだ畑の土を掘り返してブルーシートに運ぶ作業だ。


面白みもなく、新鮮さもないこの作業をかれこれ2時間続けていれば、飽きて手持ち無沙汰になるのは必然。


エルフも狼牙族達も、作業の目的が分からなければ面白くはないだろう。


「ラウンジさん、一旦皆をここに集めてください」

「分かりました」


頷いたラウンジさんは、声を張り上げて皆に号令をかける……そぶりは見せず。


何やら手に魔力を込めている。


それはそこそこの魔力を。


「エクスプロージョン!」

「へっ?」


天に掌を向けて、景気良く魔法名称を叫んだ刹那、天貫く勢いで凝縮されたエネルギー弾が放出、あたり一帯に爆音をお届けした。


「なっ……ラウンジさん何を!」

「何をと言われましても、号令ですが?」

「何故号令が、火属性上位魔法のエクスプロージョンなんですか!」

「声を張り上げても、全員には聞こえないことがあります。なら里中に響くぐらいの轟音の方がいいでしょう」

「何涼しげな、一仕事終えたぜ、みたいな顔してるんですか!これ大丈夫なんですか!畑チームどころか里中のみんなが来たりしませんよね!?」

「畑チームには号令はエクスプロージョンである事を伝えていますし、エルフの里の号令はエクスプロージョンと決まっていますので……」

「……左様ですか」


エルフは、能力だけでなく……頭までぶっ飛んでいるらしい。


号令がエクスプロージョンとか、王都でやったらテロだよ。

否応無しに首チョンパだよ。


エルフヤベェー。


因みに、ラウンジさんのスキルは何かと尋ねてみたところ、【農業】だそうです。


あの威力のエクスプロージョンを放っておきながら、スキルは【農業】。


うん。もうエルフ分からん。


魔法関連のスキルでないのに魔法はエリートレベル。


流石は伝説の種族エルフ。


彼等に、人間の常識は通用しないらしいです。


現実を受け入れようと出来事を反芻している間に畑チームの皆が集まってきた。


「よし、皆集まったな。これから本格的な作業に移る!ではラウンジさん!」

「はい?」

「何故畑の作物収穫が減少したと思いますか?」

「えっ、それは。リベア襲撃のせいでは?」

「それも多少はあるでしょう。しかし問題はそこではない。原因は、土にあります」

「土……ですか?」

「そうです」


一概に土と言われてもピンとこないだろう。

総員西の方角に頭を捻る。


「じゃあ、作業員達よ。土をブルーシートに移すにあたり、何か気になったことはないかな?なんでもいいぞ?」


問題を提示するや否や、それぞれ近くの人とグループを作り話し合い始めた。


皆真面目でよろしいことだ。


「あっ!?土の中にやたらと植物の根があった!」

「その通り」

「「「「おおおおおお〜」」」」

「土の中に前作で生じたゴミが混ざっていたり、害虫だって、土が古くなればなるほど多くなる。だから今回はそのゴミは土から撤去する作業だ」

「成る程。古い土では不純物が多いと、新しい作物が根を伸ばすための邪魔になる上、雑草の種子が発芽して土の養分を奪ってしまう。だから育ちが悪くなる」

「その通りですラウンジさん。どうしても農業を続けていけばこういった不純物が溜まっていってしいますから。それに作業も大変ですしね。しかし今回は、人員はかなりいます。時間はかかるでしょうが、これで作物もよく育ってくれるでしょう」

「成る程。ルクシオさんは農業の知識もお持ちなのですね」

「いえいえ、ほんの雑学程度ですよ。はい余談はここまで!皆、今から指示する通りに動いてくれ」


方法としては、土を掃除する。


まず古い土を乾燥させる。

あらかじめ、スキル【想像構築】で用意しておいたふるいで荒目→中目→細目の順にふるいをかけて、目に見える不純物などを取り除く。


一旦はここまでを行う。


皆何をするのか、何のためにするのか。


頭の隅に図太く陣取っていた疑問が晴れた事により、一層作業に専念してくれた。


作物が育てば、美味しい料理が食べられる。


いずれ来るその日を夢見ながら、ルクシオも作業に参加するのであった。

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