第9話里に来客

リベア討伐から数日が経った。


里の景気はみるみるうちに潤いを見せ始め、エルフ達の憔悴していた顔は嘘のように健康そのものに。


だからこそ、エルフの容姿の良さが如実に現れた。


どいつもこいつも美形だから、諦めがついた。


今日も里に貢献しようと朝の習慣を済ませフィアナの元に向かおうとしたところ。


カンカンカン!


鐘の音が里中に響き渡った。


「なっなんだ!?またモンスターの侵略か!?」

「大丈夫ですよ」


心の焦燥を駆り立てる警報に慌てふためいていると、家の中からフィアナが悠々と出てきた。


「大丈夫って、ダメだろ!?早く里の広場に!」

「これは警報ではないですよ」

「えっ?」

「これは警報ではなく、里の来客を知らせる鐘の音です」

「えっ、でも……音」

「里に来客が来た時はカンカンカンカとカンが3回なります。モンスターが来た時はカンが里の全員に届くまで際限なく鳴り響きます」


なっ、なんて紛らわしい!

そう言う区別の仕方じゃなくて音変えたりとかしろよ!


また戦争かと思ったよ。


「一応見に行きます?」

「もちろんだ」


何処の誰だか知らないが、俺の平穏ライフに水挿してくれたその罪。


とくと後悔させてやる!


俺は殺意と憎悪の火を密かに灯しながら向かった。




***




向かえばそこには既に数人のエルフ達が集まっていた。


やはりエルフの里来客は珍しいのだろう。

後ろからも気もそぞろといった風にエルフ達が集まってくる。


俺とフィアナも一緒になって近くまで行くと、そこには複数人の見た事の無い人達がいた。


「おお〜フィアナ。よかった。やはりここにいたのか!」

「あれ?……お父さん!」

「何!」


フィアナがお父さんと呼ぶ方はフィアナ同様獣耳と尻尾が自然に生えた容姿をしていた。


フィアナの年齢から考えても、フィアナのお父さんは若々しい容姿をしている。


人間で換算すると20代くらいだ。


フィアナのお父さんなのだから、やはり彼も狼牙族。


おい、んじゃあ俺の芽生えた殺意は何処の誰に向けろと言うんだ!?

流石にフィアナの家族を処す・・訳にはいかない。


まぁ。


あの毛皮心地良さそうだから野郎が寝てる間に削ぎ落として羽毛布団にでもしてやるか。


粛正方法を改めて、俺はフィアナに問う。


「フィアナ、彼は君のお父さんなのか?」

「あっルクシオ様。紹介しますね。此方は私のお父さんのローです。お父さん、この人族の人はルクシオ様です」

「ほう、人族とはまた珍しい。エルフの里にいるとは。余程人となりが良いのだな」

「ところでお父さん。どうしてエルフの里に?」


するとお父さん、即ちローは深刻な面持ちになり、エルフの里に来た経緯を話してくれた。


当時俺が推測していた通り、狼牙族も又、この謎多き土地リアス大森林に集落を形成して生活していたそう。

その集落の長が、フィアナのお父さんロー。


ある日フィアナが森に出かけてくるといって駆け出していった。

狼牙族の戦闘能力は高く、大森林にも慣れている為特に心配する事なく送り出した。


しかし、いつもならその日に、長くても一日経てば帰ってきていたフィアナが帰ってこない。


リアス大森林に慣れているという事は、当然その恐ろしさも知っているという事。


フィアナの身の危険を案じたローはフィアナを捜索する為、複数人のグループを作り捜索に当たったが、幾ら探してもフィアナは見つからない。

持ってきていた食料も底を尽き、もしかしたら行き違いで集落に戻っている可能性も考慮し、一度集落に帰還した。


そこで、問題が発生した。


ロー達が戻った時には、集落は半壊していた。


理由は又しても、リベア。


ロー達集落の主力メンバーが無き里には、子供の世話をする主婦や子供のみ。

戦略差は歴然だった。


しかし、そこは類稀なる戦闘センスでリベア相手に善戦した。

が、体力が底を尽き始め、疲れが現れた時リベアに逆襲され案の定集落は半壊。


被害者も多く出て、何より、リベアが残した瘴気になり魔獣も発生。


集落の復興は難しいと判断したローは、生き残った者達共に、同じ土地に住まい、共に伝説の存在のよしみで友好関係を築いていたエルフの里に来た。


という事らしい。


確かに、よく見るとローを始め狼牙族の面々は痩せこけている。

きっとここ数日は安定しない生活を送ってきたのだろう。

仲間達の体調を気遣い、それに加えて実の愛娘が所在不明とあらば、その心労は計り知れない。


もし自分が同じ立場なら、心が折れていたかもしれない。


「そんな……ことが」


フィアナは目の端に涙を溜めながら両手で口を押さえて嘆いた。


フィアナは優しいから、集落が半壊したのは、集落から主力メンバーを離れさせた自分のせいだと感じてしまうのだ。


出来るなら慰めてやりたい。


でも、生憎と俺は、人を慰めるなんて教養は持ち合わせていない。


思えばこの人生、ほぼ全て魔獣への憎悪に盲信させていた。


年相応の感受性が、俺には欠けているのかもしれない。


だから俺には、


「大変……だったんですね」


こんな無責任な言葉しか、言えなかった。


ローの話を聞いたエルフ達も黙り込んでしまった。


「すまない。もう、私達の生活は限界だ。厚かましいことは重々承知している。だが頼む。どうかこの里に当分身を置かせてはもらえないだろうか」


紳士的な口調でローが懇願してきた。


個人的には、勿論その願いを叶えてやりたい。


だが、俺はこの里に肖っている身だ。


この場を取り仕切る権限なんてない。


「ルクシオ様!私からもお願いします。狼牙族を、救って下さい!」


待て、何故俺に頼む。


確かにこの場に族長やガルドさんと言ったリーダ格はいないが、何故よりによって余所者の人間である俺に頼む?


俺がここで出しゃばろうものなら、きっと後に精神的なしこりを残しかねない。


でも、狼牙族を救ってやりたいとも思う。


「ルクシオ、お前が決めてくれ」

「えっ!?」


突然、そう言われて振り返ると。


そのには前回リベア討伐作戦の副リーダーを務めていたエルフの戦士がいた。


「何故、俺なんですか?俺は人族、この里に居座ってる余所者ですよ?そんな俺に事を決める権利なんか」

「族長やガルドが認めているように、もう里のみんなも、お前の事を信用してるし信頼している。族長は、自分がいない時はルクシオを頼れと言っていた。だからルクシオ。お前が決めてくれ。お前の意思が、俺たちエルフの意思だ」


厳然と言い放ったエルフの戦士。


族長が本当にそんな事を言っていたのかは知らないが、戦士を尻目に他のエルフ人を見れば皆真剣に俺を見ていた。


「本当に、良いんですか?俺で」

「嗚呼」


再度確認を取ればエルフの戦士は頷いた。


自分にそれだけの権限があるなら、今やる事は一つだ。


「分かりました。狼牙の皆さん!私達はあなた達を受け入れます」

「!それは本当か!」

「勿論」


それから数分は、歓喜に満ちた狼牙達の雄叫びが里中を木霊した。




こうして、里に新たな住人が増えました!

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