第43話
「どうする? あんたも子供じゃないんだから、ここに来た意味はわかってるよね。別にこんなおばさんを相手にするのが嫌だと思うなら、らこのまま帰ってもいいんだよ。どうする?」
「いえ……」
弓削もソファーに坐って煙草の函を取り出した。それを見た占い師が透かさずライターの火を差し出した。
正直いって、弓削はこれから先どうしたらいいものか戸惑っている。まるで童貞を喪ったときのような気分だった。
これまで散々自分の都合ばかり頼んできて、この期に及んで同衾を断わることもできないし、自分が誘ったわけでもないから積極的な行動を取ることもできない。
「先生、先にシャワーを使ってください」
煙草を二、三口喫って考えた挙句の言葉が、どことなくよそよそしさがあった。
「そうしようかね」
占い師は短くいうと、ソファーから立ち上がって弓削のほうにクルリと背中を向けた。そして、商売柄お決まりの服装といってもいい裾の長い黒ドレスのファスナーを降ろせといわんばかりに腕を廻して指差した。
弓削は指図されたまま後ろに立ってファスナーを摘むと、一気に腰の辺りまで降ろした。黒いドレスがV字形に大きく裂かれると、服の色とは対照的な白い肌が現われた。
占い師はドレスの袖から腕を抜くようにしながら部屋の隅に行き、ドレスを脱ぎ終えると、スリップ姿のままでハンガーに掛けてクローゼットにしまい込んだ。その仕草を煙草を喫いながら見ていた弓削は、どう見ても占い師は酔っていないように思えて仕方なかった。
ひょっとして、くにちゃんの店にいるときから計算されていたものかも知れない……そんな憶測が脳裡を過ぎった。
しかしここまで来たからにはそんなことどうでもよかった。それに、弓削には占い師にもう一度頼みたいことがあったので、あまり深く考えないようにしていわれるがままでいようと思った。
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