第2話 こんがり肉は、お嫌いですか?
1人で外国に行ったことがあるだろうか。
現代では、家族旅行や修学旅行で行けたりもするが、ああいうのは周りに知人がいるおかげでそこまで困ることはない。
しかし、1人で行ってみると色々と問題が発生する。
「読めねぇ……」
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時は遡り、数分前。
念願の異世界転生をしてから、俺はずっと街を散策している。
流石、異世界というだけあって現代には見られない街並みに、興奮を禁じ得ない。
建物は木造建築がほとんどで、地面はレンガに似たような作りのものが道路になりそうな所に敷かれており、そうでないところは短く切り揃えられた草原が残っている。街の中心には、唯一、コンクリートのようなもので作られている巨大な城がある。
所謂、城下町というものだろう。
そんな感じで初めての異世界に嘆息していると、香ばしい香りがしてきたので隣を見ると肉の丸焼きが売っている。文字通り、肉の丸焼きだ。こんがり肉を想像してもらえばいい。
もちろん、無一文なので買えはしないが。
それでも、商品名と値段だけは見ておくことにしよう。金が溜まったら是非買いに行きたい。
「……読めねぇ」
そして今に至る。
修学旅行は国内で、家族旅行にも行かなかったこの俺だ。読めるのは日本語と簡単な英語だけだ。
どう頑張っても、この象形文字じみた謎の文字が読める気がしない。てか、数字すら元の世界と違うのかよ異世界。何進法だよこれ。
「らっしゃい!あんたここらじゃ見ねぇ顔だな。これ買うんか?」
え、日本語?
肉屋のおっちゃんは俺の慣れ親しんだ言語で話しかけてきた。
「あ、いえ。お金無いんで」
「おっ、そうか。金溜まったらぜひ買いに来てくれよ!」
そう言って、肉屋のおっちゃんは焼いていた肉を1切れちぎって俺に渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
よし決めた。この店絶対通うようにしよう。
それにしても、文字は意味不明なのに言語は一緒とか都合いいなぁ。
「ところで、冒険者ギルドってどこにあるか知ってますか?」
転生する前にフィリアから、冒険者ギルドに行け。と言われていたので、ギルドがあることは知っていた。
「あんたそんなヒョロい見た目してんのに冒険者目指してんのか。ギルドなら、この大通りを真っ直ぐ進んでいけば左側にそれっぽい建物があるぞ」
「ありがとうございます」
肉屋のおっちゃんに一礼し、左を見ながら大通りを歩いていくことにした。
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木造の家や出店が並んでいる中に、ひとつだけ、レンガのようなもので作られた集会所のような建物があった。
「これっぽいな。相変わらず、なんて書いてあるかわからんけど」
「ん?君、ここに何か用があるの?」
入っていいものか迷い、建物の前で立ち止まっているといかにも冒険者の格好をした女の人に話しかけられた。
「あ、はい。俺、冒険者になりたくて」
「貧弱そうな子なのに珍しいわねえ。とりあえず、中に入りましょうか」
一応、平均的な男子高校生くらいには筋肉はあるのだが、この世界の男の冒険者はそんなにゴツいのだろうか。
自分に少し自信を無くしつつ、俺は女冒険者についていった。
「いらっしゃい!あら、エルザ。おかえりなさい!」
「ええ、ただいま。今回も大漁だったわよ」
エルザというらしい女冒険者は、真っ直ぐカウンターに向かってそこにいる女の人にカードを渡した。
女の人はカードを受け取り、カードに手をかざしスキャンするように滑らせた。
「リザードマン20体の討伐。確かに確認しました」
そう言って、女の人はお金をエルザに渡した。
「このカードってなんですか?」
「これは冒険者ライセンス。ギルドカードって言う人もいるけど、今みたいにクエストの報告や受注、廃棄。他にも自分のステータスを更新したり、色々できるわよ」
「へえ。これどうやって作るんですか?」
「冒険者になるときに貰えるわよ。ねえフーコ。この子冒険者になりたいそうなんだけど」
「あら、こんな細い子がねえ。それじゃあ、就職料100ハピネス下さい」
フーコというカウンターの女の人は、お金らしきものを要求してきた。
「えっと、俺、無一文でして…」
そう言うと、エルザとフーコは驚いた。
「無一文って、親は?」
「いません…詳しいことは言えませんが、実は住むとこも無くて…」
しまった。この世界だと、俺の素性を説明するのは不可能だ。何かしら適当な理由を考えておくべきたった。
「もしかして捨て子かしら…。どうしましょう、エルザ」
「住むところは私が昔使っていた蔵があるけど、お金はどうしようかしら」
「えっと、ここらへんって雇ってくれるところありますか?」
100ハピネスとやらがいくらくらいかは知らないが、とりあえずバイトでもして稼がなければいけない。そもそも、バイトできる世界なのか知らんけど。
「まあ、頼み込めばあるけれど、なんなら、私が立て替えようか?」
「流石にそこまでしてもらう訳には行きません。その代わりなんですけど、蔵を貸してくれませんか?」
エルザがどれほど稼いでいるかは知らないが、見ず知らずの奴に出せるくらいなら大した額ではないのだろう。なら尚の事、自分でどうにかしなければならない。
「中々逞しい子ね。わかったわ。蔵は自由に使っていいわよ」
そう言って、エルザは蔵までの地図を書いて渡してくれた。
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エルザの地図のおかげで蔵に辿り着き、ようやく人目のつかない場所に定着した。
「フィリア。聞こえるか?」
静寂。
やはり、こちらからコンタクトを取ることは不可能らしい。
「仕方ないか」
俺は道中に護身用に拾ってきた木の枝で……喉を貫いた。
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