第2話 反面教師

 なにもかもが退屈だった。勉強も、部活も、高校生活そのものも。


 学校ではスポーツができる男がモテる。俺が通っている高校は、確かにサッカーで有名だけれど、強い奴ばっかりだ。ベンチにすら入れない。なんのために練習しているんだろうと思いながら、部活に行く。試合で活躍している奴らは、どいつもこいつも彼女持ちだ。


 密かに想いを寄せている女子がいる。エミナちゃん。一度も話したことはないけれど、眺めているだけで幸せなんだよなぁ。どうして彼氏がいないのか不思議なくらい、可愛い。分け隔てなく接する彼女の姿は、まるで聖母のようだ。俺が彼女を眺めていたとき、目が合った。慌てて目を逸らしたけれど、一瞬こちらに微笑みかけるエミナちゃんが映った。あぁ、なんて優しいんだ。


 だけど、数週間前に彼氏ができたらしい。サッカー部の先輩だ。先輩、彼女いたはずじゃん…。どうやってエミナちゃんを手に入れたんだ。だけど、先輩に文句を言えるはずもない。エミナちゃんに聞くこともできない。ただ指を咥えて眺めているだけだ。並んで歩いている2人を見ると、胸が張り裂けそうになった。


 完全に非リアだよなぁ…と思いながら、俺みたいなのが辿り着くのはSNSだ。気軽に毒づける。気軽にすごい人になれる。


 帰り道、エミナちゃんが先輩にキスされているのを見てしまった。確かに人目につきにくい場所。なのに、どうして俺はそこに遭遇するんだよ。


 むしゃくしゃしたまま、ベッドに横になる。SNSを開くと、雑多な情報が飛び込んでくる。結構前からフォローしているおっさんがいる。40手前、彼女なし、社畜。投稿内容から、そこは確実だ。そんなおっさんにはなりたくねーなという感じでなんとなくフォローしていたのだけれど、その日はちょっと驚いた。アメコミヒーローのフィギュア写真が載っている。まさか同じ趣味があったとは…。


 毒づきアカウントでおっさんに近づくのは拙いかと思い、別アカウントを作った。どうせならからかってやろうと、女設定だ。そうだな…人妻だと面白いかもしれない。なんかエロいし、欲情したおっさんが見られるかも。


 おっさんの食いつきは良かった。そりゃそうだ、同じ趣味の女だもんな。おっさんのフィギュアコレクションは本当にすごい。俺は金がないからあんまり買えないけど、親父がわんさか持っている。まぁ親父の影響で好きになったし…。親父のコレクションを写メって投稿すると、すげー興奮してた。そりゃそうだよなぁ。親父のコレクションも相当だぜ。


 女設定を忘れないよう、授業中たまに投稿しておく。でも、アメコミヒーロー話が楽しくてたまらなかった。親父以外見たことねーし。


 ベンチ入りできなくっても、練習は厳しい。でも、そのおっさんとの会話が、だんだん部活の励みになってきた。土日の練習もサボらなくなった。GWの鬼のような練習、今年はバックレようと思っていたけど、頑張ろうかなと思ったよ。キツい練習をこなしていると、コーチもちょっと優しくなるな。ベンチ入りくらいは目標にしても良いだろうか。


 今年のGWは10日ある。鬼も鬼だ。だけど、頑張ろうと思う。そんで、GWが終わったらおっさんにお礼を言おう。そして謝ろう。嘘なんてとっくに気づいていると思うけど、謝った方が良いと思う。反面教師にしていたおっさんが、SNSを通じて俺を救おうとしている。こんな奇跡ってある?


 趣味の力も偉大だし、SNSの力も偉大だ。そして俺はとても単純だ。柄にもなく、今日も鬼のような練習をこなしにいく。

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SNSで非リアが出会う奇跡 西田彩花 @abcdefg0000000

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