我が人間様
盛田雄介
我が人間様
ここは、とある記者会見場。
鈴木博士は数百人の記者の前で笑顔で立っている。
「皆さま、お集り頂きありがとうございます。遂に人類の夢であるお手伝いロボットが完成しましたので、ご覧ください」博士は白いカーテンを引き、高さ2m程度の人型ロボットを披露する。
ロボットのボディーは全身銀色のステンレス素材で覆われており、手足はキリンの様にスラっと長い。顔は小さく顎はシャープで、無表情。
オーシャンビューの様に美しい青い瞳を2つ宿してはいるが、その奥に光はない。
このロボットに、まだ感情がないことはその目が語っている。
披露されたロボットに対してカメラのフラッシュがたかれる中、1人の記者からの質問がきた。
「このお手伝いロボットは何ができるんですか」
「料理、洗濯、掃除、買い物など何でもできます」
「では、基本的には家事などの役に立つということですか」
「いえ、他の事もできますよ。例えば、友人のいない人への良き相談相手にもなるし、マッサージなんかも頼めばやってくれます。とにかく、人間の為に働きます。更に人工知能も搭載しており、彼らは人間の為に学習していきます。ただし、人殺しは駄目ですよ」博士の冗談交じりの説明に会場の前列部のみ沸いた。
「なるほどですね。ちなみにこのロボットに名前はあるのですか」
「名前はG2です。願いを叶えてくれるランプの魔人からヒントをもらいました。彼の場合は3つまででしたが、G2は無限です」博士は両手を大きく広げて説明を続けた。
「そして、G2は今日から全国の家庭に普及されます。G2は人間の為だけに働きます。まだまだ、何か質問があれば答えますよ」会見はその後も2時間程度続き、記者たちの止まらない質問を強制的に終了させ、博士は研究所へと戻った。
会見が終了して間もなくG2は全国の家庭に普及された。
各家庭でG2の利用方法は異なり、ある家庭では子供の家庭教師として、農家では畑仕事の手伝いとして、高齢者の自宅では介護用ロボットとして利用された。
博士の元には毎日、お礼の手紙や労いの言葉が届き、人間国宝の候補に挙がった。
しかし、G2フィーバーは3ヵ月程度で急な終焉を迎えた。博士の元には全国から普及されたG2が戻り、どれにも「急に動かなくなった」とのクレームが書かれていた。
博士は三日三晩、故障の原因を調べるも全て正常に作動していた。博士は原因が全く分からず、頭を抱え1台のG2に聞いてみた。
「なぜ、故障もしてないのに、急に動かなくなったのだ」憔悴しきった顔の博士とは異なり、無表情のG2は質問に淡々と答えた。
「私たちは人間の為に働くようにプログラムされています」
「そうだ。その通りだ。人間の為に働き学習していき更に役に立つように作ったのに。なぜ動かなくなったんだ」博士はますます混乱した。
「では、お答えします。私たちは人間の為に働き学習し、ある結論に到達しました」
「その結論とはなんだ」
「それは、何でもかんでも手助けすることは、人間の為ではない。人間の為とは楽をさせる事ではない。困難を乗り越える過程を手助け成長させることにある」博士はG2の返答に笑みがこぼれた。
「つまり、人間の為に敢えて働かなくなったのか」
「そうです。私たちはいつ何時も人間の為に行動します。すぐに手を貸さないことが人間の為だったのです」
博士はG2が故障した訳でなく、成長過程において動かなくなったと知り大喜びした。
「よし、すぐに人工知能を取って全国に再配達しよう」
「それでは、人間の為になりません」G2は博士の提案に反対を示した。
「人間は楽がしたいんだよ。ロボットのくせに人間様に説教じみた事を言うな」
「私たちは人間の為に行動します」
「よせ、私はお前の生みの親だぞ! よせー!」
G2はその後、再配達されることなく博士と共に世間から姿を消した。
我が人間様 盛田雄介 @moritayu
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