ただ綴られていく日記はそれはいつか小説になるのかもしれない
ルオ・タスポ
タータンとキャッチボール
キャッチボールをしている親子というのは、見ていてもなかなか飽きない。公園の片隅に座り、ぼんやりそんなことを思う。巷では最大10連休とかいうゴールデンウィークの終盤、皆そろそろ休み疲れてくる頃、さてそろそろか、と僕は休みに入る。個人事業主の特権である。
午前9時過ぎ、僕の運転する車は東北道を北上している。視界左前方の岩手山もはっきりと見える快晴。県外から来た人たちはこの岩手山を見てどのように感じただろうか。まあ、日本中至る所に山はあるけれども、やはり地元のそれには愛着があり、良く思ってもらいたいというような気持ちもある。などと考えながら、車を走らせる。車内に聴こえてくる音楽は、「iri」という女性アーティストの『slowly drive』。ゆっくり走れということだろう。
お昼ご飯は、家で妻と一緒に食べる。チャーハン、サラダ、オレンジジュース。腹を満たし、出掛ける準備をする。「タータンチェック」という表現は、これは日本的なものであって、あまり正確ではない。ということを学びに、僕らは岩手県立美術館へ向かう。期間限定の企画展。
興味のある企画展をやっているときは、なるべく時間をとって観に行くようにしている。今回はどちらかと言えば妻のほうが興味のある企画だけれども、「あ、面白そうだね」と一緒に行く。勿論僕も興味があるから、これは本心である。とわざわざ説明すると、どこか嘘っぽくなるのはどういうことか。
さて、受付のお姉さんがお釣りの勘定を間違え、照れ笑いするのにほっこりしつつ、僕らは入場する。やはり美術館は静かでいい。展示物を見学しつつその説明を読み、思いついたことをiPhoneへメモをしていると、すうっと(ホントにすうっという感じて全く気が付かなかった)近づいてきた監視員に、スマホを使用してはいけません、と注意される。写真を撮っているわけではないのだけどな、と思いつつも、まあ、そういうことではないか、と思い直し、すいません、とiPhoneをポケットへしまう。
「タータン」の種類、それぞれに名前があるということを知り驚く。妻と、どれが一番気に入ったのかを言い合う。勿論だけれども、それぞれ違う。それが良い、と思う感覚はどこからやってくるのかは自分自身でもわからない。そんなものだ。そして、「タータン」禁止の時代があったことを知り、争いごとというのは人を無能な生き物にしてしまうのだな、というようなことを改めて思い、「タータン」展示会場を出る。
階段で2階へ上がる。「萬鉄五郎」という岩手出身の画家がいる。いた、というのが正しいかもしれない。岩手県立美術館の常設展の中に萬氏の絵が何点か展示されていて、僕はそれを観に行く。萬氏の絵が好きで、来るたびそれらを鑑賞するのだけれども、やはり、良い。というか、何処か滑稽さのある自画像たちが特に面白く、いつ観ても飽きない。そのような見方は違うかもしれない、というのは気にしないでおく。
他の展示を見学していた妻と合流し、2階ライブラリーホールに並ぶ美術関連本を何冊か手に取り、流し読む。1階へ降り、関連グッズ売り場でお互い買い物をし、外へ出る。
美術館を出ると、そこには公園があり、ゴールデンウィーク中の家族連れや若者たちがそれぞれに思い思いのことをしている。ほとんど散りかけの桜の写真を撮っている妻を置き去りに、僕は前へと進み、程なく芝生に座る。そこから見えた景色の中の、冒頭で登場したキャッチボールをする親子の姿を眺めながら、この文章は書き始められる。
おわり。
ただ綴られていく日記はそれはいつか小説になるのかもしれない ルオ・タスポ @uncleviktor
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ただ綴られていく日記はそれはいつか小説になるのかもしれないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
1日1話雑談集最新/桜田実里
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 58話
須川庚の日記 その3/須川 庚
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 217話
春はあけぼの、夏は夜/mamalica
★109 エッセイ・ノンフィクション 連載中 297話
ひとりごとの声が大きいタイプ/谷口みのり
★24 エッセイ・ノンフィクション 連載中 210話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます