生まれ変わった海溝潤実

海溝潤実SIDEーーー


あ、あれ?

私の目の前には天井がある。

私はベッドの上で横たわっていたのだ。


そしてガヤガヤと言う音と薄暗い部屋にチカチカとした光を感じそこに視線を映す。


しまった!テレビ点けっぱなし!

しかしテレビは私の好きなドラマ「交換日記」が放送されていた。


あ、エミリィが大変な事になってる…。


でもエミリィてほんといい子だな、私は久々にテレビを楽しんだ気になった。


それにしてもさっきまでのは何だろう?夢にしてはやけにリアルだったような…。


「潤実ー潤実ー何してるの!?」


この声はお母さん!?

あれ?私…そしてお母さんが更に声を上げる。


「高校の入学式でしょ!??」


えーー!私高校生!!?


私はふと部屋にかけてある鏡を見た。

少し顔立ちは幼くなっている。


私はとりあえず同じくハンガーにかけてあった制服に着替え階段を降りた。


「おはよう!」


「おはよう!」


挨拶は基本だ、挨拶してキモがられた事もありしなくなったが高校生に戻ったらやれる事はやらなきゃ!


お父さんとお母さんと顔を合わせるは気まずく、キョドってしまう私。


「潤実どうしたの?」


「うっ、いや別に…」


どう接したらいいかわからない。


「それより最近女の子が拐われる事件が増えてる、今日は送っていった方が良さそうだな」


「何言ってるの貴方は心配性なんだから♪」


お父さんが新聞をまじまじ読みながらそう呟きそれを笑うお母さん。


日本は良い国とは言え事件とは無縁ではない。

自然災害、人災も下手すれば起こる。


比較的平和なこの徳島でも喧騒とした瞬間はあるにはある。


「今日は従者に頼んで潤実を学校まで送った方が良いかな?」


え?従者?私の家従者なんて雇ってたかな?

でも私は「クトゥルフ」!何かあっても異能で何とか出来る!

だから送迎とか必要ない!


「大丈夫だよ、私一人でも大丈夫だから!」


お父さんも、流石に心配になってきたのかお母さんも送迎を勧めるが送迎は気を使うので出来ればしたくないと思った私は手を振って断り、両親は諦めてくれた。


まあ徳島は平和だしあまり気にする事ない…よね?

…支度をし、身を整えて外に出る。


日差しが眩しい!

懐かしい我が故郷!


長閑な街並み、隣には山々が連ねているがそこは徳島県民に馴染みの深い娯楽施設でもある。


「うるみんおはよう!」


「あ、おはよう!」


あ、高校の同級生のケイコちゃんだ。

ケイコちゃんは卒業後引っ越して疎遠になったけどこうしてまた再会出来て良かった。


今度こそ上手くやるぞ!


ーーー


ケイコちゃんがいじめられている………。

思い出した…私はあの日ケイコちゃんを庇ってわたしが標的にされるようになったのだった。


あの時は朗らかだったのがいじめを受けて内気になっていき、社会生活も出来なくなっていき、派遣社員としてしかやっていけなくなっていた。


この場合は見捨てよう…私はもうあんな過去じんせいは嫌だ。


私は敢えて助けずじっとしていたが罪悪感が後から後からついて出た。


握った手に汗が溜まる。

眼鏡が曇る。

私にはどうする事も出来ない。


そんな時サキュラが脳裏に現れた。


「貴女は自分が思っているほど駄目な子では無いわ」


!!!


一体何を考えていたんだろう。友達より自分が楽な道を進む方を選ぶの?


そうだ、私はクトゥルフ!

見捨てるなんてクトゥルフのする事じゃないじゃない!


私はケイコちゃんを庇いに向かった。


「弱い者いじめはやめなさい!!」

「何だてめえは?」


私はこの後身代わりになり弱くなっていき、本当に惨めな生活を送る事になる。


でも私はサキュラの事、そして鍛えられた日々の事を思い出し、それを糧としていじめッ子達と戦った。


「オーシャンバレー!!」

「メイルストローム!!」


向こう側も異能インスマスで向かって来るが私も負けじと張り合った。


そして…!

中途で教師がやって来た。


教室内はボロボロだ。椅子や机、様々な可燃物は黒焦げになり、天井に備えられている電球は割れて使い物にならなくなり、教室内は水浸しになっていた。


制服はほぼ破かれ、ボロボロになっても私は粘った。


前回では私が押されっ放しになり結果いじめられる事になり駄目な子になってしまった。


助けたからではなく私が元々弱かったのに無茶したからいじめられるようになりケイコちゃんに見捨てられた。


けど今は精一杯健闘した。

サキュラが教えてくれた事を一つ一つ胸に刻みつけて…。


「お前がそんなに強いとは思わなかったよ!」


まさかのいじめっ子が認めてくれた!

私はやはり地味な子というイメージを当初から持たれていたらしい。


それからというもの、前回より余程過ごしやすい高校生活になるだろうと思ったその時、私は新たに出来た友達と遊びに行くことになった。


ウキウキしながらお洒落して出かける私。

前回では夢のような手に届きそうで届かなかった瞬間だ。


この楽しい日々を精一杯楽しもう!

そしていい思い出を沢山作って行こう!


「行って来まーす♪」


私は両親にそう告げ、満面の笑顔でドアを開ける。


今まで過ごした場所がこんなに輝いているとは夢にも思わなかった!


私はいつも以上に輝かしく、美しい徳島の街並みを自転車を漕ぎながら徳島シティそごうまで進める。


待ち合わせ場所まで行ってみたが友達はいなかった。


向こうにも事情があるのだろう。

おめかしも大変だからね…そう思いながら待つこと数十分…。


「うぐっ!?」


私は後ろから突然口を塞がれ、そこに走って来た黒い車に突然押し込まれた。


いつのまにか身動き出来ないように縄で体を縛られ、口までふさがれている!?


黒ずくめの男達は私に言った。


「恨むならお前を売ったダチとやらを恨むんだなっ!」


友達が私を売った!?

そんな筈無いじゃない!!


私は抗議しようとしたが口を塞がれているため話すことも出来ない。


体で抵抗してみせたが「生意気なガキだ!!」と何度も殴られた。


そんな…前回もいじめられて社会生活もロクに送れない程追い込まれたのに今回も人に利用されて終わってしまうの!?


私はとある廃墟に連れてこられた。


「とっとと歩けよ!」


後ろから強制的に蹴られて歩かされる私。

今回こそ上手く行くと思ってたのに結局私おんなじじゃない!


その場所まで歩かされるとまさかのあの人がソファに座っていた。


「喧華さん!?」


黒ずくめの男達に寄り添われ、タバコを咥えて吹いている首領ドンっぽいのが喧華さんである事に只々驚く。


「自分の運命を簡単に変えられると思ってるの?愚かしい子ね、アンタ達!この生意気な子をわからせておやり!!」


喧嘩が部下達に指示をすると部下達は笑いながら私を襲ってきた。


「嫌!!美月ング助けて!!」


WNIのキャラ美月ングに助けを求める私。

その時稲光が部屋中を轟かす。


部屋は稲光で点滅、ゴゴゴという轟音と共に。

まさかこれって…。


「運命は変えられんもんと言うなだ!運命は自分の力でどんなんにも変えられるんじょ!!!」


少年の最高の阿波弁が響き渡る。

その時稲妻と共に黄色い髪、小麦色の肌をした半裸の少年が喧華に向けて上空から襲って来た。


「ぐっ!」


喧華は肘でそれを受け、肘の服は少し黒く焦げ、煙が僅かに湧く。


そして少年は身軽に着地する。

その少年はそう、喧華との一騎打ちでいなくなった筈のトラテツだった!


「トラテツっ!?」


まさかトラテツも生きていたなんて…!

そうだ、今生きているのは私の高校一年生の時…生きているのは当然か…。


「ぐぬぬ…どいつもこいつもわからない奴らね!」


喧華は男体化バトルモードに変身し、筋肉質の男性に変化する。

男体化した喧華は勢いをつけてトラテツに襲いかかってきた!


「喧華殺烈拳!!」

「ライジングパンチ!!」


トラテツと喧華の拳がぶつかり合う。


「ぶふぅ!!」


トラテツはぶっ飛ばされる。

いけない!トラテツがやられる!!


私は自分の「陽」の力をフルに使いトラテツに力を送った。


「来るじょ来るじょ来るじょ!」


私から送られた力の為かトラテツのテンションが上がる。


「死ねえぇ!!!」


喧華は無数の拳をトラテツめがけて一斉に放つ。


「うおにゃあああぁ!!!」


トラテツはガトリング砲のように一斉に襲いかかる喧華の拳を全て受け流した。


「何っ!?」


「わいには勝利の女神がついとんじょ!」


トラテツは電流を纏った拳を喧華に放つ。

喧華はそれを避け、より強力な一撃をトラテツに放った。


「ぶおぉ!?」


トラテツはぶっ飛ばされ、向こうの壁に打ち付けられた。


「残念だったわね、私にもギャラリーは沢山いるのよ!」


喧華の体には部下から送られた力が纏われていた。

それにより喧華の人間離れした強さによりブーストをかけられた状態になっているのだ。


私も負けじとトラテツに力を送る。


「お前なんかに負けるわいや無いんじょ!!!」


トラテツは稲妻の闘気と私から送られた力を全身に纏い、空高くジャンプして稲妻のように喧華に急降下した。


その刹那の事だった。

トラテツが喧華に急降下する前にトラテツが最も弱点とする「少女」が現れる。


「あ、あかん!」


トラテツは急降下していたのをスピードを緩めてしまう。


するとその「少女」は剣を持ち出しトラテツのはらわたを斬り裂いてしまった。


!!!


私はその「少女」に見覚えがあった。


「ケイコちゃん!!?」


剣を持った少女はなんと私と唯一仲良くなったケイコちゃんだった。


「運命は残念ながら変えられないのよ!例え変えられてもハンデは憑いてくる…」


声を低めて言うケイコちゃん。


「ハハハ!ざまあないね海溝潤実!過去をやり直すなんて出来っこしない事をしようとするからこうなるんだよ!!」


大きな笑い声をあげる喧華。


私は暑さも寒さも感じず、手足を繋がれていると言う感覚も薄れる。


そこにあったのはトラテツを失った哀しみと彼を巻き込んでしまった罪悪感、そして親友と思っていたケイコちゃんに裏切られたのと過去をやり直そうとしてもハンディキャップは避けられないと言う絶望感だった。


私の意識はそこで別の場所に移動する。


ーーー


私は見たビジョンから目を開けるとサキュラやアテナ、ギョロ、ケンジの見守る姿がそこにあった。


サキュラSIDEーーー


今まであなたが見てたのは海溝潤実が過去を変えようと頑張っているシーンよ。


潤実は深いため息をついている。

残念だけど「過去」はやり直せないのよ。


いえ、正確には「やり直せる」のだけどハンデは必ず憑くもの…。


海溝潤実、過去を振り返りなさい、貴女は過去をそうやって変えようとして成功した時なんてあったかしら?


「潤実、わかったでしょう?過去を変える事は不可能なのよ」


「で…でも…」


潤実は泣きそうな表情で漏らす。


「潤実さん、貴女の気持ちはわかります、でも過去を何度もやり直そうとすると貴女だけでなく、他の大切な家族、友達を巻き込んでしまいます、過ぎた過去を変える事は正直お勧め出来ません…」


アテナ様も丁寧な言葉で潤実を促す。


潤実は今回だけではなく、何度か過去をやり直そうとした、これで3、4回目かしら?


しかし友達を助けたり、抗ってきた所で良くなる事はない、そして終いには…そう、見てきた前世を回想して危機を流れても別の災難は襲ってくる。


神が過去をやり直すのを許してくれないからよ。

海溝潤実、諦めて過去をやり直すのはやめなさい。


それが貴女の為よ。

そして貴女の大切な家族や友達の為…。



他、私が過去をやり直す他色々な選択があった。


選択が多くてどれが良いのか選べられない…。

でもこうして選ぶ事が出来るのは贅沢かもしれない。


その選択の末私が選んだのは…。


ーーーレンカ神殿


とある異世界の一つの国にレンカ神殿と言うのがある。


そこは二百年に一回嫌われ者の宿命を持つ「巫女」が誕生すると言う。


そしてそのレンカ神殿に産声を上げる少女が誕生した。


とある白を基調とした部屋、天井を支える石柱に豪華な装飾を羽織った男が不安な面持ちで立っている。


その時「おぎゃあ!おぎゃあ!」と産声が上がった。

男の不安な表情がぱっと明るいものに変わる。


そしてドアが開くと白を基調とした衣装の看護師のような女性が駆けつけ、笑顔を向けて答えた。


「司祭様!赤ちゃんが生まれました!!元気な双子の赤ちゃんです!!」


「二人も産まれたのか!でかした!!」


寝室ではベッドに寝かされている若い女性が女の子の赤ん坊を大事そうに抱き、隣にいた母親の娘が男の子の赤ちゃんを大事そうに抱いていた。


「お父さん遅い!」


長女が嫌味を言う。


「すまないサキュラ!でかしたぞケアミ!!」


「ありがとうドッシュ、名前をどうしようかと娘と考えていたところです!」


母親はケアミ、父親はドッシュ、長女はサキュラと言った。


「女の子をウルミン、男の子をトラテツにしようと思ってるの!」


ケアミは言った。


「良い名だよし!お前はウルミン、お前はトラテツだ!」


二人の赤ん坊はキャッキャと笑った。


「それで大変申し上げにくいのですが…」


不安そうに従者の医療係のナテラが決まり悪そうに伝えてくる。


「なんじゃ?」


「ウルミン様は二百年に一度現れると言う「嫌われ者の巫女」では無いかと…」


「嫌われ者の巫女とな?」


ちょうど先代の嫌われ者の巫女がいなくなって二百年だ、ひょっとしてその子がそうなのか?


ドッシュは神殿に建てられている初代の嫌われ者の巫女、アテナの像が建てられている奥室にウルミンを抱いて神託を受けに行った。


ーーー神室


線香の香りのする神室には戦女神アテナの像が建てられている。

彼女は初代嫌われ者の巫女で「破壊の巫女」と呼ばれていた。


『その子は紛れもなく「破壊の巫女」です』


なんと!ドッシュは心臓がいつもより激しく鳴った。


身体が震える…この子はなんと重い宿命を負ったのか…。

ドッシュはウルミンを強く抱いた。

すまぬ…お前は生涯を嫌われ者として過ごさせる事になった儂を許してくれ…!


『案ずる事はありません、これはこの子が生まれ変わる前に選んだ選択です』


アテナの像はそう言う。


「しかし周囲から嫌われて周りを破壊してしまうなんて事になったりしたら…」


『その子に破壊の力はありません、寧ろ周囲を元気付ける力…普段は嫌われ者ですがいざと言う時は彼女の力が必要になる時が来ます』


しかしどうしても嫌われてしまう運命…。

嫌われる原因が無いのにも関わらず嫌われてしまうと彼女はその状況に耐えられなくなるのでは無いだろうか?


「お父様!心配は要りませんわ!」


長女のサキュラが扉を破り名乗りをあげた。


「おぎゃあおぎゃあ!」


ウルミン泣き出す。


「ウルミンが嫌われていじめられてもサキュラが守ってみせます!トラテツと共に!」


「その通りだ!」


サキュラの後方に若いが気性の激しそうな赤髪の女性が現れた。


「サキュラ!サイキまで!!」


教育係のサイキ、厳しいが頼りになるサキュラを色々躾けたり教える担当の大人の女性だ。


「アタイがウルミンとトラテツをしっかりと教育してやるよ!ついでにウルミンをいじめた奴にもな!!」


サイキはトンファーを持って吼える。


「うむ、やり過ぎないようにな…」


サイキお前が一番危ない…ドッシュは心の中で思った。


ウルミンは案の定いじめられていた。


「お前200年に一度生まれる破壊の巫女だろこっちくんなよ!」


「破壊の巫女が伝染るー♪」


寄ってたかって皆ウルミンをいじめる。


「みんながウルミンをいじめるの!!」


ウルミンは泣きじゃくり家に帰るが両親は「いじめられる方が悪い」と突き放してしまう。


どうしていいかわからない時サキュラがウルミンの肩に手を置いた。


「お姉ちゃんがいじめられないようにしてあげる♪」


「え?」


そしてサキュラの部屋に導かれた時そこにはトラテツもいて、トラテツはあられもない恰好で正座させられ首輪をつけられていた。


「お、お姉様わいを早く行かせてじょ!!」


トラテツはサキュラに早く行きたいと懇願する。


「待ってなさい下僕先にウルミンと私の取っ組み合いをよくみてなさい!」


トラテツを怒鳴るサキュラ、トラテツは悶え苦しくも、ある種の快楽を得ていた。


幼いウルミンにはよくわからなかったがサキュラがウルミンを躾けている間に知る事になる。


(こうするといじめられなくなるの?)


(いえ貴女が精神的に強くなるのよ!)


サキュラは精一杯ウルミンを強い少女にした。

その結果ウルミンはいじめられても落ち込まない子になった。


「ねえねえどうしたの?もっと私をいじめてよ♪」


生まれ変わり、サキュラから鍛えられたウルミンはいじめられる度いじめっ子達を挑発した。


「気持ち悪い!行くぞ!!」


引いて逃げていくいじめっ子達。

今度は机に花を置いたり靴に色々なもの入れる嫌がらせもあったがウルミンはこれをも快感として受け入れてしまった。


「どう?いじめられる気分は?」


「ああお姉様最高♪もっといじめて♪」


サキュラからいじめという愛を受けて逆にこれを消化してしまうウルミン。


ウルミンはドMとして覚醒してしまった。


そして総勢無視を仕掛ける生徒や教師。

出席でわざと名を呼ばない。


或いは逆に早く来て日直的な仕事を毎日やらせるといった嫌がらせもして来たが逞しくなった(と言うか奴隷根性染み付いた)ウルミンはこれにも快感として得てしまった。


これで良かったのか?


嫌われ者という宿命を負った以上はこうでもならないとやってられない。


そしてある時ウルミンを追い詰めようと生徒達と教師が画策する。


手を汚してでも嫌われ者ウルミンを排除しようと村全体が動きだした。


「ウルミン!危険なんじょ!いじめっ子と教師がお前を殺そうとしよる!!」

「えー私どうなるの楽しみ♪」


スパイ役を背負った双子の兄トラテツは忠告するがウルミンは逆に悦んでいた。


(あかんウルミンをどうにかして守ってやらんと!)


トラテツはウルミンを守る事を誓うが弱点のあるトラテツにはどうしても抗えないものがあった。


ーーーある時ウルミンが一人になった時を見計らって男達が後ろからウルミンを襲い出す。


「悪く思うな!政府がお前を好きにして良いと仰ったんだ!」


私どうなっちゃうの?

そろそろ新しい愉しみを教えてくれるのかな?


ウルミンは恐怖とかそんなのより遊びと受け入れてしまっていた。


倉庫に押し込まれ倉庫全体が獣の臭いに塗れる。


「グフフ!お前を何としても泣かせてやるぜ!!」


ウルミンの衣服を引き破り襲い出す男達。

そんな時雷鳴が轟く。


「な、なんだ!?」


驚く男達、その時倉庫全体に少年による最高の阿波弁が轟いた。


「お前らか弱い女の子になんて事しよんな!周りが許しても兄であるわいはこんなん許さへんじょ!!!」


倉庫の天井に穴がバコンと音を立てて破壊され、そこからトラテツが現れて男達めがけて急降下した。


「妹がどうなっても良いのか!?」

「やだあ♪」


男の一人がウルミンを盾にする。


「あ、あかん!」とトラテツは急降下のスピードを緩めるがその時男達が逆にトラテツをリンチしだした。


「ギャハハいかづちのトラテツの弱点くらいお見通しだ!」


「お、お前ら卑怯じゃ!!」


トラテツもウルミンと共に身動き出来ない状態となった。


「ウルミンすまん…愚かな兄を許してくれ…」

「お兄ちゃん愛してるよ…」


囁き合う兄と妹。

一見美しい兄妹愛だがウルミンは(お兄ちゃん男としては物足りないけど努力だけは認めるよ♪)と思っていた。


少年と少女を男達が襲い出す。


「ぐへへじわりじわりと嬲って二人まとめて見つからない場所に葬ってやるぜ!!」


「そこまでよっ!!」


そこにサキュラと二人の女性が現れた。


「なんだ今度は女三人か!お前らも襲われにきたのか!野郎ども、やっちまえ!!」


代表格の男が数人の男達を差し向ける。


「ぐへへっ!ウルミンの味方はみんな痛ぶってやれと言われてんだ!悪く思うなぁ!!」


獣達が殺気を撒き散らしながら女達を襲う。


「失せろ!!」


サイキがトンファーで逆に男を弾きとばす。

男は床に転がり、打たれたほおをさすってもがいた。


「サキュラ、二人の縄を解いてやれ!ナテラ!二人の傷を治療しろ!」


「「はいっ!」」


サイキに指示をされサキュラとナテラが二人に駆けつける。


「全くアンタ達はっ!」

「大丈夫?傷を癒してあげるからね!」


サキュラが嫌味をぶつけつつ二人の縛られた縄を解きナテラが治療の異能で二人の傷を治療する。


「このアマー男の怖さを思い知らせてやる!!!」

「てめえらこそ女の怖さを思い知りやがれ!!!」


サイキは数人の男相手に武闘術で次々と男達を翻弄する。


「この野郎!!」


武器を持ち出し本気でサイキをぶちのめそうとするがサイキは男の持っている武器を手から弾き飛ばし、男を殴り飛ばす。


そして数人の襲いかかる男達をも華麗に躱し、回旋蹴りを放つ。


すると数人の男は魂が抜けたように地に伏せてしまった。


「こうなったら異能で葬ってやる!!」


残りの男達は冷気や雷といった異能インスマスをサイキめがけて放つ。


しかしサイキはこの異能をもトンファーで叩きつける事によって浄化させてしまう。


「なんだい男の怖さってこんなもんか?」


「な、なんて奴だ!?」


男達はサイキに刃向かった事で勝てないと知る。

そこで男はウルミン、トラテツを介抱しているナテラ、サキュラに目をつける。

(赤髪の女はともかくこいつらは弱そうだ、コイツを囮にしてどうにかこの不利な形勢を逆転させてやる!)


その男はまだ年端のいかないサキュラ、見かけの弱そうなナテラに目をつけ、彼女らを捕らえてサイキを脅そうと画策した。


獣の手がナテラに伸びる。

ナテラがハッとして振り向くと男のにやけた顔と手がすぐ目の前にあった。


しかしそこで素直に捕らえられるような弱い女はいなかった。


なんとナテラは逆に男の腕を掴んであらぬ方にひねってしまう。


「ぎゃあぁ!!?」


男の情けない悲鳴が響き渡る。

サイキはナテラ達が襲われそうになっているがそれを高みの見物のように構えて眺めていた。


「素直に捕まりやがれ!!」


二人が一斉にナテラに襲いかかるが瞬時にナテラは華麗に舞い上がる。


「何っ!?」


鳥の羽のようなものがゆっくりと舞い落ちる。

男達、そしてサキュラ達が見たもの…それは女神が空からやってきたような光景だった。


翼を生やした女神は神々しい光を讃え、手に持つセラフィニドル(注射器状の武器)を弧を描いて振るう。


すると男達は幸せそうな表情を浮かべうへへと淡い笑い声をあげながら地面に転がった。


その女神は元の姿に戻る、その女神は医療係としてレンカ神殿に仕える若き女性ナテラだった。


「ああ男の面目がぁ…」


助けられたトラテツは嘆くがウルミンが「お兄ちゃんも頑張ったよ!」と慰める。


「まあとりあえずは一件落着か!」

「油断してはなりませんわお姉様!これは何かの前兆としか思えません!」


悠長に紡ぐサイキにナテラが注意をかける。

ナテラの言う通り、これは大きな事件の前触れに過ぎなかった。


ーーーとある豪室。


ドゴォ!と鈍い音が鳴る。

男数人が一人の大柄な女に殴り飛ばされている。

女はある程度年を取っていて太く、顔もガマガエルのように醜く、そしてヘビのように執念深い。


「てめえら何あんな奴逃がしてんだい!?アイツは破壊の巫女!とっとと抹消しなきゃいけないんだよ!!」


大柄な女性は思春期の少年のような大声で鼻血を流し剃り上げた頭にコブを作っている男達を罵倒する。


そして代表格とされる男の前に座り胸ぐらを掴んで脅す女、江戸華喧華。


「その子が可愛いからって逃がしたのか?この私と違って華奢だからって情が移ったのか?ん?」


喧華はわざとらしい高い声で男に囁き、殺気に溢れた陰りのある笑みで脅しをかける。


「違いますよボス…あのガキにはバックもいて…そいつがとんでもなく強くて…」


男が喧華からの制裁を回避しようと事情を話すが喧華は更に男を蹴り上げた。


他の正座させられている男達はひえぇと言う表情で巨悪な殺気を放つ喧華と壁に打ち付けられた男を見守る。


「アタイらにはもっと強力なバックがいるのに何でそれを使わない?警察も政府も何しても良いって許しているはずだ!相手は嫌われ者の巫女!みんなも疫病神と突き放している存在なんだよ!!!」


唾を吐きながら声を荒げる江戸華喧華。


皆が嫌っているから抹消せねばならない。

理不尽な理由だが正義を信じる江戸華喧華としては全うの行動であった。


江戸華喧華こそ嫌われなければならない存在である、しかしこうはならないのは何故か?

人は残念ながら理不尽でも面白い方についていく。


人はストレス社会で鬱屈している。

ストレスの多い日本なら尚の事、刺激を欲しがるのは当然の事だろう。


もっとも江戸華喧華本人にはその自覚は無く、本当の正義だと信じている。


だからこそ、人は集まるのかも知れない。

それがその人達にとって例えどれだけの災難を後にもたらすとしても…。


ーーーレンカ神殿


男達を倒し、危機を逃れたウルミン達は父親ドッシュに呼ばれ、改まった様子に口を塞ぎ、片膝をつく。


「非常に残念な話なのだが…ウルミンにトラテツ、そなたらにはこの家から出て行って貰う」


「「えっ!?」」


終わりが見えたように表情が真っ青になるウルミントラテツ。


「何故ですかお父様!?」


「ウルミンを襲った男達は江戸華喧華の側近、逆らえば何をされるかわからん、お前達を守ってやりたいのは山々だが神殿の事もある…」


まさかこの歳で勘当されるとも思わなかった兄妹は絶望を覚える。


そこで母親のケアミが助け舟を出した。


「貴方達はまだ幼いとは言えもう中学生…独り立ちしても珍しくない年頃です、トラテツ、嫌われ者のウルミンをしっかり守っておやりなさい…」


ケアミはハンカチを目に覆いながらそう告げる。

ナテラとサイキは憐れみを向ける表情で嘆く兄妹を遠目に見守っていたがドッシュが二人の姉妹にも命を下す。


「それからナテラにサイキ、そなたらも明日からはここにいなくて良い…」


「ええっ!??」


まさかの解雇通告を下された姉妹は目が飛び出る程のショックを受ける。


「元々お前達は子供の世話を焼くように雇ったのだ、これからは好きにして貰う」


「そんな、あたしゃこれからどうすれば…」


「仕方がありませんわ…神官様の仰る事は絶対…破る事は出来ませぬ…」


結果、ウルミン、トラテツ、ナテラ、サイキはレンカ神殿を追われ旅立つ事になった。


「ごめんねみんな…私なんかの為に…」


詫びるウルミン。


「ほんまじゃわいやってまだ好きな子おって告白しようや思うとったのに!」


「どうしてくれんだよ!あたしゃこれから買いたい車があってそいつの為に懸命に働こうとしてたってのによ!」


トラテツとサイキが口々に非難する。


「ウルミンはこうして謝ってるんだし、許してあげましょう?」

ナテラはとばっちりを受けた事での怒りが冷め止まない二人をなだめた。


「…とはいえこんな不景気に雇ってもらえる所なんてあるのかよ?」


「待ちなさい!!」


サイキがナテラに言い返そうとしたところ長女のサキュラが息を切らして走って来た。


ウルミン達は立ち止まるがしばらくハァハァとサキュラは息を整える。

慌てて走ってきたようだ。


「どうしたのサキュラちゃん?」


ナテラがサキュラに聞きだす。


「これよ!KEI作品出演者募集中!アリスが拐われた!ゆめせかの世界に行ってアリスを助け出そう!!」


チラシを見た4人は目を輝かす。


「嫌われ者の私でも上手くやっていけるのかな?」

「可愛い子ようけおるん?」

「敵は強いのか?」

「私の活躍の場はあるの?」


それは行ってみてのお楽しみ、これからクト雨キャラはゆめせかの世界に行ってアリスを救えるのか?


クト雨キャラの冒険はまだまだ始まったばかりだ!


クトゥルフの雨ーーーfin

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