ガニメルとサキュラ

「わおっ!」


トラテツの第一声が入る。


サキュラに導かれやってきたのはこれもまた暗闇の中に光沢を放つ存在。


それは美青年の像と美少女の像が部屋の中心に飾られていた。



体の線がハッキリとしており美青年と美少女に共通するのは耳がヒレ耳になっている事だ。

それとその美少女だが、よくくしで櫛かされたロングヘアーといい体の線といい誰かに似ている。


「この女の子はひょっとして…?」


私は像と瓜二つの少女、そうサキュラに尋ねる。


「そう、私よ…」


サキュラはこう答えた。


「んでこの男はわい?」

「冗談は程々にしなさい」

「にゃにおうっ!」


トラテツの冗談がキッカケで睨み合うサキュラとトラテツ。


「まあまあ、でこのハンサムな人…さっきサキュラが言ってたガニメルさん?」


私はサキュラに尋ねる。


「………」


サキュラは黙って頷く。


「海溝潤実、この像に触れてみて」


サキュラが言いだす。


「う、うん…!」


私は像に触れてみた。


すると私の脳に刻まれた何かが走馬灯のように動き始めた。


ガニメルSIDEーーー


僕はガニメル、僕は科学者である父を追いいつしか科学者になろうと勉強をし、難関であるルルイエ大学に入る事が出来た。


僕はそこでサークルでも勉強でも勤しみ、自分の作った生命体を外に出してみたりもした。


「このライオンはただのライオンではありません!体から電流を放つピカライオンです!」


「「わーお!!」」


人々の歓声が上がる。

そんな時影ながら信じられない人が僕を見初め出している事を僕はまだ知らなかった。


「お兄ちゃん」


ある日僕の所に妹がやってくる。


妹はサキナと言う、綺麗な水色の長い髪、透き通ったような白い肌、黄色い瞳の美少女だ。

僕とサキナは血は繋がっておらず、いつか一緒になろうと誓いあっていた。


「お兄ちゃんの所に背広をしたお客さんが来てるよ?」

「お客さん?」


僕はその人達と対峙する事になる。


「ガニメルさん、私はこう言うものでございます」


背広を纏った半魚人は僕に名刺を渡してきた。


『デジェウス皇国元老院議員カナス・クアル』


デジェウス…デジェウスと言えばルルイエ皇国を治める事になった議長であり皇帝ではないか!


しかし僕は戸惑った。

何故彼ほどの人が僕の所に…?


「実はデジェウス様が貴方様の聡明さ、美貌に見初められ、是非デジェウス様の元でお働きにならないかとデジェウス様から直々に貴方様とお話ししたいと我々が連れに参ったのでございます」


カナスはこう言う。

しかし皇帝がこの僕なんかにスカウトしてくださるなんて思いもしなかった。


「しかし僕は難関の大学に入れたとは言えしがない一人の一般人…デジェウス様の元で働くには荷が重すぎるのでは…」


「その謙虚さ、やはり君はデジェウス様に仕えるのに相応しい子だ!是非デジェウス様と目を合わせて欲しい!」


僕は希望と不安が自分の中で同居し合っていた。

僕は美しいペガサスを備え、念入りに手入れされた馬車に乗り込む。


その馬車に乗る事さえも緊張する。

ペガサスは白く美しい毛並みから上流階級層向けだし、馬車も美しすぎて僕が触ったら汚れてしまうんじゃ無いかとさえ思った。


そんな僕の思惑を他所に二人は馬を駆って僕を空にそびえる宮殿へと連れて行く。


ルルイエ宮殿ーそこは皇帝に見初められた者だけが訪れるのを許される宮殿。


その為都市部の上空の位置にあり、淡い光沢を放つ巨大な珊瑚と巨大な巻貝などで出来ている。


その雲のようなふわふわした地に降りる僕らを乗せたペガサス。


「こちらです」


僕はデジェウスの使いに案内される。

流石は宮殿、汚れ一つ付いていない。

緊張してたのでぎこちない歩き方に思われたのでは無いだろうか?


「そんなに固くならないで大丈夫ですよ♪」


使いはそう言ってくれるが…。

特に上流に生まれた訳ではなく好きな学問を生きがいにしてきただけの若者なのでここに来て良いのだろうかとも思ってしまう。


そんなこんなでデジェウスのいる皇室の扉の前に立つ僕。


コンコン、ドアがノックされる。


『入りなさい』


低めの声が轟く。


「失礼します、ガニメルと言う少年を連れて参りました」


使いは恭しくデジェウスに会釈をする。


(うわあ…)


僕は思った何て大きいんだこの人…。

デジェウスは巨大で、200センチはあるんじゃないかと思われた。


「わざわざ呼んでもらって申し訳ない、私はデジェウス、このルルイエを治める皇帝だ」


「私はガニメル、私のような凡庸な者をお招きいただいて光栄です」


僕は膝をついて恭しく礼を交わした。


「いやいや君は難関の大学に合格し、聡明で運動神経もよく、それでいてその美貌…凡庸に過ごさせるには勿体ない逸材だ」


デジェウスはこれでもかと言う程僕を褒めちぎる。


「そこでだ、君には僕の側近として働いてもらいたい」


デジェウスはこう言う。


「お言葉は大変ありがたいのですが…」


僕は口ごもる。


「サキナと言う少女のことか?」


「………」


おし黙る僕、ルルイエ人は心を読みたい人、気持ちを落ち着かせれば大方読む事が出来るのだ。


僕がデジェウスの心を読む限りデジェウスは僕をモノに置く気だ。

しかも金を持っている者の側にずっと居られるのだからこれ以上光栄な事は無いと言う考え方。


しかし僕は金では無い、確かな愛が欲しいのだ。


「サキナと言う少女は確かに愛らしい、しかし平凡な女の子だ、君がサキナと結婚したら平凡な人生で終わり、私の元では働けなくなるぞ、それでも良いのか?」


「………」


「私はこれでもかと言う程財力はある、使いも沢山おる、勿論サキナと言う少女の生活も保証しよう、それでも駄目か?」


デジェウスは僕を側に置くために懸命にアピールする、そこまでして愛を注いでくれるのは有難い、しかしこの人の場合、僕の顔や体形が普通より整っていて、人に見せびらかす事が出来ると言う考えだ。


僕にはその点が受け入れられなかった。


「考えさせてください…」


僕は苦渋の結果待っていただく事にした。


「うむわかった、明日までには決めて置くが良い」


デジェウスはそう言い、僕を帰した。


ペガサスの馬車に乗せてもらい地上に降りる僕。


「ガニメルお前聞いたぞ凄いな!デジェウス様に呼ばれたんだって?どうして断ったんだよ?」


「ガニメル凄いじゃない!どうして断ったの?」


親友のニシキや女友達のマリンが興奮した様子で話しかける。


デジェウスの側に仕えられるのは名誉な事なのでその知り合いとしても鼻が高い、それはわかる。


「僕には敷居が高い気がして…」


自分の周りの人には勿体ないとよく言われた、一人を除いては…。


「お兄ちゃんお帰りなさい!それでどうなったの?」


「ああ、それでお話があるんだ」


僕はサキナと話し合った。


ーーー


「そんな!お兄ちゃんがデジェウス様と結婚する代わりに会えなくなるなんて嫌!!」


サキナは僕にすがった。


「ありがとう…でも僕じゃなくても君には良い男だって出来る、だってこんなに可愛いんだもの…」


「嫌!なんでそんな冷たい事言うの!?ガニメルでないと駄目なの!ガニメル…私から離れないで…!」


僕は泣きじゃくるサキナを慰める、僕だってサキナと離れたくない、しかしデジェウス様に招かれた以上は…。


「サキナ…ごめん…」


僕はサキナよりデジェウスを選んだ。


ーーー


僕はデジェウスに仕える事になった。

それはデジェウスと正式には結婚した事になる。


「ガニメル、わしの元にいるからには決して他の者に体を許してはならんぞ…」


「…はい…」


デジェウスは僕を一糸まとわぬ姿にして可愛がる。


僕の体がデジェウス様の愛でぬれていく。


「ガニメル…お前は本当に可愛いのう♪」


デジェウス様は僕の口に口を近づける。

そして優しく僕の体を撫で回す。


僕はそれについ反応してしまう。


「あれだけ嫌がってたのにお前の物は硬くなっておるではないか?」


僕は同性愛者では無い…しかしデジェウス様が僕を可愛がるに連れて次第に反応してしまう自分がいた。


そしてデジェウス様のそれも雄々しく立派に逆立っている。


(デジェウス様…僕に反応している…)


僕はそれを見て熱くなってしまう。


「可愛い奴め、そんなに欲しいなら入れてやるぞ」


デジェウス様の熱く大きいモノが僕の洞穴に入っていく。


「こんなにヌルヌルにしおって、卑しい奴め!」


デジェウス様は罵るがそれがかえって僕を熱くさせてしまう。


「ハァハァ、愛してんぜ!愛してんぜ!」


デジェウス様は僕を激しく可愛がる。


「デジェウス様!は、激しい!」


僕はデジェウス様に偏りかける…しかしそんな時もう一人の自分が現れた。


『何してるんだガニメル!君にはサキナと言う子がいるじゃないか!事もあろうに同性と繋がるなんて!!』


(うるさい…ほっといてくれ、デジェウス様に見初められた以上こうするしか無いんだ!)


裏の自分の抗議に僕は抵抗する、しかしデジェウスに感じてしまう自分がいる。


その葛藤がぐちゃぐちゃしだし、僕はデジェウス様を突き飛ばしてしまった。


「貴様…」


デジェウス様の顔色が変わる、いけない…怒らせてしまった…。


「すみません…僕…」


僕はどうすれば良いのかわからなくなり、思わず悲しくなってきた。


「もういい!」


デジェウス様の機嫌を損ねてしまった。

僕は形上で結婚している。


しかしそれ以来デジェウス様の僕への扱いは酷くなった。


直接暴力は振るわないが僕の前だとわざとのようにドアを強く締めたり、バンと机を叩いて何かもってこいと指示をする。


他の従者は同調圧力に従っているのか、僕を除け者にしたり陰口を言う事が多くなった。


僕は次第に心を閉ざしていき、涙も出なくなった。


そんな時サキナから手紙が来た。


『ガニメル兄ちゃんへ、私は素敵な恋人と出会い昨日デートに行きました!ガニメル兄ちゃんには敵わないけどとても良い人、お兄ちゃん幸せに過ごせてるかな?これからも幸せにね!』


僕はその手紙を読み逆に辛くなった。


人は環境次第でも簡単に変わってしまうものだ。


デジェウス様は僕に豪華な部屋をご提供くださったがあの件以来誰も使われないような倉庫に追いやられ環境の悪い所で耐え忍ばなければならなかった。


身の回りの世話は基本しなくて良かったのだがあれ以来はガラリと変わり、家事に追われる日々となった。


どんなに頑張っても一方的にダメ出しされ自由になりたいと言えば「契約交わしたからには俺の意見は絶対だ」と突っぱねられた。


デジェウス様につっけんどんな態度を取られその上その周りも同調圧力が働いているのか除け者にされているうちに段々と自分は駄目な奴だと思うようになった。


ここから逃げれば良いのだがデジェウス様と契約を交わしたら二度と外へ出る事は許されず、出れるとしたらデジェウス様と同伴である時のみだった。


しかし、自分には幸い日頃身につけたスキルがあった。

それがネクロノミコンというものだった。


(そうだ僕にはネクロノミコンがあるじゃないか何を落ち込んでたんだ)


このおりからは一生出る事が叶わず、また一生友達も出来ないと悟った僕は自分の才能をフル活用し寝る間も惜しんでネクロノミコンによる細胞再生に勤しんだ。


そして僕は自分の心の拠り所になるかつて愛した子の細胞を作るのに成功した。


そしてその細胞の再生を繰り返させ、ヒトを作った。


人間の形を作るのに無事成功した僕はその子に色々教えた。


「君の名前はサキナだよ、言ってごらん」


「サキュ…ラ…」


「サキュラじゃないよ、サキナだよ!」


「サキュ…ラ…」


「…もうサキュラでいいよ」


その子はサキナをモデルにした子だけあって頭が良く教えた技術をよく覚えたが自分の名前はサキュラだと言って聞かなかった。


僕は妥協してサキュラと言う名にした。

一人パートナーがいただけでいない時とは随分違った。


「お前、なんでそんな機嫌が良いんだ?」


扱いは相変わらずだが僕の仕事が捗っているのに嫉妬を抱いてきたのか、デジェウス様の側近でいじめのリーダー格のラムシとその取り巻きに絡まれる。


「仕事を出来ないのを何で人のせいにする!」


僕は逆に怒鳴り返して見せた。


「何だとこの野郎!!」


ラムシは口から火炎を吐き出す。


「メイルストローム!!」


僕はラムシが放った炎をメイルストロームで消してしまう。


「くそう!ラムシサイクロン!!」


「ウォーターバリアそしてマウントカウンター!!」


「ぐはあっ!」


「僕は美貌と頭だけでここに来たんじゃないんだ!!」


僕は凄みをきかせラムシ達に吼えた。

他の取り巻きは僕の戦いを見て恐れを成したのか気絶したラムシを連れて逃げていった。


「どんなもんだっ」


僕も傷だらけだったがラムシをやっつけた快感は何物にも変え難かった。


そして自分の部屋に着く。


「お兄ちゃんどうしたのそのケガ!」


サキュラが僕に寄り添う。


「大丈夫だよ」


僕は言ったがサキュラはそれでも心配してくれた。

やはりサキナに似ているいやサキナそのものだ。


そして僕はサキュラを愛し可愛がった。

サキュラはそんな僕に抵抗せず受け入れてくれた。


僕が生まれついての美貌だからとか関係ない、彼女の僕への気持ちは本物だった。

だから僕は彼女をずっと愛せた。


ーーー数日後


「ガニメル兄さん、ここから逃げましょう!」


やがて、寝ている時にサキュラがこう切り出す。


「え?」


「私は予知したの、ずっとこんな所にいたらいつかガニメル兄さんと私は離れ離れになる」


!!!


なんとサキュラには予知能力があった。

僕自身ずっとここにいたら自分自身が壊れるかもと思っていた。


「でも…無理だよ」


とは言えその時の僕はずっとここにいて、洗脳されてきたからか出る事は不可能だと思っていた。


「無理じゃないよ!」


サキュラは僕を真っ直ぐ見て叱咤をかける。


「貴方、ラムシといういじめのリーダー達と喧嘩して負かしたんでしょ!?その気概があれば逃げられる!だからっ!!」


僕はサキュラを見ると何でも出来る気がした。


「ありがとう、君が一緒なら…」


その時「貴様、何他の女と喋っている!」と半魚人が襲いかかってきた。


僕は咄嗟にトライデントを出してしまう。

半魚人は逆にそれを掴む。


「何の真似かなこれは?」


半魚人は僕の槍を掴み詰め寄ってくる。

その時サキュラが棒を半魚人に振るった。


「お兄ちゃんに手は出させない!」

「うるさいっ!」


半魚人はもう片方の手でサキュラを殴り飛ばしてしまう。

サキュラは仰向けに倒れ棒は弾かれカランコロンと軽い音を立て床に落ちた。

僕は咄嗟に殺気が湧き、メイルストロームを半魚人に放った。


「半魚シールド」


半魚人はシールドでメイルストロームを防ぐ。


「甘い!水竜槍!!」


僕は空高く跳ねてトライデントを真下に構え半魚人を頭上から一思いに突き刺した。


「グギョオォ!!」


半魚人は頭から噴き出し倒れた。


僕はサキュラを抱き起す。


「サキュラ!しっかりしろ!」

「お兄ちゃん…」


僕はサキュラを抱き抱えて宮殿から抜け出した。

そしてペガサスを駆りて地上に降りる。


しかし地上に降りた所で僕はお尋ね者とされ追われる事になるだろう。


宮殿に戻る事も出来ない、地上に帰る事も出来ない。

僕に残された道は人の知れない所で静かに暮らす事だった。


僕はこうして濃い緑色の洞窟を発見してサキュラを抱き抱えたまま潜った。


想像以上に広い洞窟で淡い光を放つサンゴ礁がそこらかしこに茂っている。


不思議な空間だ。

そしてここは今は海の中で神々が空気を作り、出来上がった「ルルイエ」と言う地下の国だが遥か昔は陸地だった所で、今で言うムー大陸の人々が建物として利用していた場所である事がわかった。


その証拠にルルイエ文字でもない、不思議な丸と鍵穴のような記号の文字が立ち並んでいる。


「これはゼウス、ここに眠る」と書かれてるな…。


僕にはムーの古代文字が読めた。


僕はその奥深くへと潜り、そこを隠れ家とした。

「メイルストローム!!」僕は衝撃波で壁を掘り、部屋を作る。


「ガニメル兄さん…」


サキュラが起き上がった。


「サキュラ、安心をし、奴らからは逃げ切ったよ!」


僕がそう言って見せるとサキュラは優しい眼差しを僕に向けてくれた。



ガニメルSIDEーーー


ここで過ごしていくには食料配達もせねばならないし他こうした生活はずっとは続いていけない。


という事で僕らは「チジョウ」なる世界に出る事にした。


身を隠してチジョウ行きの列車に乗る僕とサキュラ。


周りの人は正体を隠してる僕らを若干訝しんでいたが僕とサキュラは一人では無かったので苦にはならなかった。


『どうして正体を隠している?』


駅員に聞かれたが「火傷してるんです」で誤魔化せた。

やがて「チジョウ」に上がる僕達。


「う!眩しい!」


チジョウは思ったより眩しかった。


「お兄ちゃん!凄いあそこにライトが点いてる!」


「あれは「タイヨウ」だね、地上の人達はタイヨウの恩恵を受けているから生活出来てるんだ」


「へえ、凄いね!」


サキュラも興奮していた。

どうやらチジョウは「トクシマ」と言う地名らしい。


その時肌色黒髪の男が僕らに聞いてくる。


「この人達何言ってるかわからない、何と言ってるの?」


「日本語だね、なんだお前たちはと言ってる」


僕は通訳する事にした。


「ルルイエ?なんだそれは」


「地下にある世界なのですが知らないみたいですね」


「それよりそんなカッコして暑苦しくないか?」


僕は遠慮し、暗に知ってるのか聞いてみたが男はルルイエの事は本当に何も知らないようだから脱いでみせた。


「うわっ、美男に美女!姿隠す事無いのに何で隠すんだい?実は芸能人とか?」


「ははっ違います…」


僕らは否定した。

ともあれ徳島ここにはルルイエの事は何も知られてなくて安心した。


僕らはとりあえず生活物資を調達するが徳島が思ったより良い所なので段々と地上に興味が湧いてきた。


「徳島って良い所だね!私も徳島語習いたい!」


「ははっ、徳島語じゃなくて日本語だよ、君に教えるね!」


僕はサキュラに日本語を教えた。

サキュラは次々と日本語をモノにした。


そしてラノベ「ゼウむす」「交換日記」などを買いコミック「きらきらWNI」の娯楽本を買う。


そして地上の文化や技術を体得してルルイエに戻る僕ら。


居座ってもみたが大使館が許してはくれなかったのだ。


「居させてくれても良いのに…」


「海外の人が滞留するにはビザが必要なんだってさ…」


ルルイエに戻ると逃亡生活の続きをする事になるがそれはそれで作った無骨な隠れ家にデコレーションを加える事が出来て良かったと思う事にした。


僕は地上で得た技術で部屋を改変させた。

サキュラもそれに興味を持ち出したのか、更にデコレーションを加えた。


こうした逃亡生活はストレスがかかる。

息抜きの意味でもデコレーションはストレス解消にもなった。


「良いのが出来た!これからも逃亡生活するとしても私は辛くなんかないよ!だってお兄ちゃんがいるから!」


「僕もだよサキュラ、ずっと一緒にいよう!」


ーーールルイエ宮殿


デジェウスSIDEーーー


くっ、あのガキ儂に隠れて女と戯れるだけでなく逃げてしまいおって!


「あのガキはまだ見つからんのか!」


「はいっ、手分けして捜しているのですが…」


「何としてでも捜し出せ!」


儂は使いを差しむけガニメルと少女を捜させた。


「ご心配には及びません皇帝陛下」


「ハデックか何用じゃ?」


「実はサキュラと言う小娘には呪いにガニメル暗殺の異能を授けております」


黒いローブの顔の見えない男はそう答えた。

これでも儂の部下だ、怪しい術を使う以外は優秀な部下だ、と言うか儂は優秀な部下しか雇わん。


しかしガニメルと言うガキは見誤ったわ。

ガニメルよ、のうのうと過ごしていけるのも今のうちじゃぞ!


ガニメルSIDEーーー


「私も異能使えるようになりたい!」


サキュラは言い出した。


「異能かい?」

「お兄ちゃんやルルイエの人達は異能が使えるのになんで私は使えないの!?」


サキュラは泣きそうになってる。


「異能なんて無くても君には予知能力とかあるし頭も良い、それだけでも助かってるよ!」


「嫌だ!私も異能使いになりたい!ケイみたいに火使えるようになりたいしナツみたいに雷使えるようになりたい!!」


いつになくワガママなサキュラ、仕方がない、こう言う逃亡生活だと女の子にはストレスもかかるだろうしサキュラも何も出来ない自分に不甲斐なさを覚えてるんだ。


男は度量、彼女の意志は尊重してあげよう。

そもそも親としての責任であり、ネクロノミコン用いてでも側に居て欲しくて作った子なんだ。


「しょうがないな、ルルイエ神殿に行こう、そこで水を清めたら異能を身につけられるよ」


「ほんと?やったー!!」


機嫌が直った、サキュラにはずっとこういう笑顔でいて欲しい。


僕は姿を隠してルルイエ神殿に行き、サキュラに異能を身につけさせた。

サキュラは衣服を脱いで身を清める。


その間僕は見張りをしていた。


しかしサキュラに異能を覚えさせた事が後に悲劇を招くことになるとは、僕は思いも寄らなかった。


「出来た☆」


サキュラと僕は彫刻を掘り、僕とサキュラの姿をした像を完成させた。


「サキュラ、よく頑張ったな!」


「お兄ちゃんも!これで私達死んじゃった後もずっと一緒だね!」


「ああ、でも死ぬのは互いに年取ってからだぞ!」


「はーい♪」


そしていつものように湯に浸かり、夕食を済まし、歯を磨き、一緒の寝床に上がる僕ら。


「サキュラ、愛してんぜ…」


「ガニメル、私も愛してる…」


口付けを交わし体を互いに可愛がる。

服を互いに脱ぎあいまた体を味わう。

いつしかそれは日課となっていた。

サキナはどうしてるだろうか?


彼女はもう他の男と結婚して幸せになってると言ってた…。


「ねえガニメル…」


「え?」


「今他の子の事考えてたでしょ?」


ジト目で僕の顔を覗き込んでくるサキュラ。


「え?そんな事…」


僕は何故そんな事を知ってるんだと思い気恥ずかしくなる。


「嘘、顔に書いてあるもん」


ああそう言うことか…サキュラ、そんな言葉どこで覚えたんだ?


「ガニメル…私だけを見て、私にはガニメル兄ちゃんしかいない、そしてガニメル兄ちゃんにも私しかいないんだから!」


「サキュラ…」


そうだな、サキュラだけをずっと見ていよう!

サキュラ…これからもずっとずっとずっと一緒だ!!!


海溝潤実SIDEーーー


「あれ…?今の…」


私は確かに見た…ガニメルとサキュラがどう出会ったのかを。


「見えたのね?」


「う、うん」


サキュラが静かに聞いてきたので私はコクリと頷き答える。


「な、なあ、一体何が見えたん?」


「貴方には関係ない」


「にゃにおうっ!」


ああトラテツとサキュラが睨み合ってる!また喧嘩になりそうだよ。


「喧嘩しないで!私は見たよ、なんかカッコいい男の人…そうその彫刻と同じ顔形をした男の人が出て来て…」


「そう…やはり…」


サキュラは俯向き静かに言う。


「でもってサキュラが何か明るくて可愛かった!」


私は頭の中で見たサキュラがとても可愛くて瞳をキラキラさせて答えた。


「余計な事は思い出さなくて良いから」


「へえ、この仏頂面なサキュラがなー」


「ところでなんでこんなになったの?」


「言わなくてもわかるでしょ、続きは私が聞かせるわ」


サキュラSIDEーーー


「サキュラ!愛してんぜ!愛し…」


ガニメル兄さんは一杯私に愛を注いでくれる!

嬉しい…しかしその後異変は起こった。


「…愛シ…テンゼ…」


ガニメル兄さんの声がどんどんとしゃがれていき、仕舞いには人間が発してるのか獣が発してるのかわからないような声になる。


ドサリッ!


ガニメル兄さんは私の上に覆い被さるように倒れ込んだ。


「全く、しょうがないお兄ちゃんだね…」


私はその時気付いた。

兄さんの姿があまりにも変わり果てている事に。


「どうしたの!お兄ちゃんしっかりして!!」


ゾンビのような姿となったガニメルを私は揺さぶる。

あれ?お兄ちゃんがやけに軽く…。

その時だった。

お兄ちゃんの体の一部がボトリと崩れ落ちた。


「キャアアアァ!!!」


私は思わず悲鳴をあげて体を退けずる。

壁にもたれてなんでこうなってるのと言う思いがグルグルと私の中で渦巻く。


しかし答えが中々見つからない。

嫌だ!お兄ちゃん!生き返って生き返ってよ!!


私は現実から逃れるようにしゃがみ込みこれは悪い夢だ!夢から覚めたらいつものお兄ちゃんがいて!と必死に唱え続けた。


しかし唱え続けたところで虚しく時間が過ぎていくだけだった。


「嫌…だよ…何…で?」


私は泣き崩れた。

夢は覚めない、お兄ちゃんは生き返らない…私はずっとここで独りぼっち…。

一体これからどうしたら良いの?


そんな時、私の中に声がした。


『サキュラとやら』


男性の声だ。


「貴方は?」


『儂はゼウス、可哀想に、お主は宮殿の追手から異能を書き換えられたのじゃ』


男性は私を哀れむ声で放つ。


すると神々しい感じの男の人が光を纏い現れた。

杖を持っていて老齢っぽくはあるが体つきは逞しく、端正な顔立ちだった。


「神様!?お願い!お兄ちゃんを生き返らせて!!」


『すまぬが…それは出来ん…』


「どうしてっ!?」


私は気が動転してた、だから神様みたいな人が現れたからには何か出来るだろうとすがりたかった。

それにこの人ゼウむすで見たゼウスに似てるし。


『人はいつかは死ぬのじゃ、助けられる命なら助けられるがこうなってしまってはもう手の施しようが無い、それにその方がガニメルも幸せじゃろうて…』


「嫌だっ!私ずっとガニメルと一緒が良い!どんな姿でも構わない!例えゾンビでも…」


『諦めなさい、そこでサキュラとやら…そなたには試練を与えたい』


「しれん?」


『そう、そなたはさっきも言ったと思うが呪いの異能を書き加えられた、その者はデジェウスの手下じゃ!』


「デジェウスの手下…!?」


デジェウスはガニメルを仕え、好意を裏切った為に目の敵にし出し、使い全員でガニメル兄さんを追い詰めていたルルイエ皇帝だ。


『ガニメルも言っておる、仇を討って欲しいと』


ゼウスは何も無い所に流し目を送る。

しかし私にはわかった。

兄さんの悲しい叫び声が。


「お兄ちゃん!そこにいるの??」


私はガニメル兄さんがいるだろう方向に顔を向ける。


『よくわかったな、しかし見る事も聞く事もそなたには出来ない、だから儂がガニメルに代わって答えよう、実はデジェウスはお主らが地上に上がった事を知り、一度使いを出した!』


「ええっ!?」


なんて事…地上に上がった事をデジェウスに知られていたなんて…!


私はずっと留まってたらと思うと身の毛がよだった。


『そして地上を知ったデジェウスはニンゲンなる者達にインスマスなる力を与え、地上を混乱させようとしているのじゃ!』


「人間は異能が使えないんですか?」


『正式にはある!しかし人間なるものに異能を与えたらそれこそ大変な事になる、そこで儂は人間に備わっていた異能を封じ込めたのじゃ!』


ゼウスの表情が真剣味を増す。


「大変ってどう大変なのですか?」


『人間とは卑劣で好戦的、異能を持ってしまえば気に入らない者を呪い殺したり操ったりして何もかも滅茶苦茶にしてしまう、だからサキュラ、お主には本題の試練の話を聞かせよう!』


「しかし徳島の人達はそんな風には見えなかった…」


『中には気高い者もいよう、しかしその者は少数派じゃ、ストレスのかかりやすい地上や人間の特性では仕方の無い事じゃが』


ゼウス様の話はこうだ。


デジェウスは地上にインスマスを増やし混沌を起こそうとしている。

混沌に乗じて地上を奪おうとしている。


だからガニメルの仇を討ちがてら地上を救って欲しいとの事だ。


そこで私はインスマスと対抗する意味でクトゥルフを結成し、毒を持って毒を制すと言う地上のことわざの通り人間に異能を与え、インスマスと対抗させる事にした。


私は一度姿を隠し外に出る。


そこで人と人が話してるのを見る私だが私はとんでもない事を人の心を読む事で知ってしまった。


ガニメル兄さんの魂を苦境に送り生き地獄を味あわせてやろうとデジェウスが画策していたのだ。


そうはさせない!私は再度天上にあるルルイエ宮殿に向かった。


私が付けた副スキル、異能で身につけた読心術は知る事が出来なかったようね…この術は色々攻略に役立つ。


人の心は醜いが、読む事で情報は知る事が出来る。

笑顔の中に何かがある。

それが異能を身につけて以来新たに人間を見てわかった常識だ。


あいつがハデックね…ついていってみましょう。

どうやらガニメルの生まれ変わっての行先を書いているのはハデックらしい。


私はハデックについていくと真っ暗闇の部屋の中で頼りないランプを照らしながらグフグフと笑いながらハデックが机に向かって何か書いているのを見た。


次第にハデックがコクリコクリとしだしてやがて寝てしまう。


私は巻物を盗みついでにペンも盗んだ。


そして私はガニメルの生まれ変わりの後を書き換えようとした。


「貴様!そこで何をしている!」


しまった!ハデックに気づかれた!


「返せ!!」


ハデックは私に掴み掛かる。

「待って!!」


私はハデックを呼び止めた。


「この巻物の中とっても興味があるの、見せてくれない?」


「断る!それは秘密事項だ!」


「これでも?」


私はローブを脱ぎだす。


「は…裸?」


ハデックは戸惑う、良かったどうやらコイツもやはり男ね…。

内心は引っかからんぞと言われて終わりなのかと思ってた。


しかし美人局とやらがする事みたいでプライドは痛むがそんな綺麗事は言ってられない…ガニメル兄さんの仇を討たせてもらうわよ!


私はハデックに流し目を送り誘惑した。

ハデックはニヤニヤしながら私に近づいてくる。


そして私とハデックは夜を共にした。

気がつくとそこには大地と化したハデックが。


ガニメル兄さん!仇は討たせて貰った!

私は巻物を書き換えた。


その時声がした。


『フハハ!書き直そうとしても無駄だ!ガニメルは生まれ変わっても地獄を味わう事になる!』


ハデックの声!?


そんなのやってみないとわからない!!


私は巻物を書き換えて、書き換えて、書き換えした。


ふう…これでガニメル兄さんは生まれ変わっても幸せでいられる…書き直した内容通りなら…。


わかったかしら私の目的が…一つはインスマスを増やす事で混乱させようとするのをクトゥルフを結成させる事で食い止めようとしている事、そして書き直した結果ガニメル兄さんはどこに生まれ変わって、どう過ごしているか確かめる為よ!


海溝潤実SIDEーーー


「それが私…?」


私がサキュラに尋ねるとサキュラはジッと私を見たまま暫くは何も言ってこなかった。


「まさかこんな子になってるとは思いも寄らなかったけどね…」


でもサキュラがどんな思いでいたか、どんな思いをガニメルさんに抱いていたか伝わった気がした。


「サキュラ…ありがとう…」


気がつけば私は目尻が熱くなり泣きかけてた。


「泣くような事はしてないわよ…」


その時ガニメルさんの思いが私の中に入り込んだ気がした。


その時私はサキュラの華奢な体を無意識に抱き締めてしまっていた。


「潤実?」


「どないしたんうるみん?」


「辛かったね…頑張ったね…でも無理しないで…貴女…頑張りすぎて心は死んじゃってる…貴女が頑張り過ぎた分…私も頑張るから…」


元々はガニメルさんを一途に愛し、サキナと言う女の子とそっくりな見た目と比例し、性格も似たどこにでもいる女の子だったサキュラ。


しかし彼女はインスマスと対抗する為にクトゥルフを立ち上げるのに欲も、女の子としての尊厳も捨ててしまった。


その上人の心を読み続ける事が絶望を生み、心が疲弊してしまったのが拍車をかけた。


人は苦境に身を置いて愛を捨ててしまうとやがて心は死んでしまう。


サキュラはライフティイートと言う呪われた異能を与えられたせいで恋も出来なくなり、その上兄の仇を討つ為だけに戦い続け、感情を押し殺した結果感情は本当に失ってしまい、今のようなサキュラとなった。


でも、ね、こんな事ガニメルさんは望んでないよ…。


サキュラには普通の女の子として、幸せになって欲しい。


私がそうサキュラに願っているようにガニメルさんも願ってくれているよ!


だから無茶しないで…。


これからは私がサキュラの事守ってあげるから…。


「お兄…ちゃん…」


「え?」


今サキュラが言ってた気がする…お兄ちゃんって…。


「サキュラ…?」


トラテツはサキュラがいつも見せない表情をしているのに難しい表情をしてサキュラの顔を覗き込む。


「馬鹿ね…」


サキュラはそう静かに言う。


「貴女に守られると思ったらかえって不安だわ」


「え…?」


サキュラSIDEーーー


やっぱり潤実ね、こう言う場合怒って反論の一つや二つすれば良いのに。


「私にも守らせなさい、良いところばっかり取っていったら許さないから!」


「あ…いつものサキュラじゃわ…」


トラテツは軽く皮肉を漏らす、残念だったわね、私はこれでもクトゥルフを作った者なの、何者にも私の心を動かすのは不可能なのよ。


「こんな所にずっといたら始まらないわ、大事なのはここからよ、貴女のクトゥルフブレイクリーを解放しなければならない」


あ、確かそんな話だったね。


「ここから出てもっと奥に行けばクトゥルフブレイクリーを解放させる像がある、そこで貴女に眠る真の力を発揮させるのよ!」


そんな時、トラテツが向こう側を向いて唸りだした。


「ガルル…」


「どうしたのトラテツ?」


額にシワをよせ唸りだすトラテツに潤実は尋ねだす。


「誰かがこの中に入ってきた!」


「「えぇ!?」」


海溝潤実SIDEーーー


「うるみんは早よクトゥルフなんとか言うん身につけ!ここはわいが足止めする!!」


トラテツは吼えた。


「私も戦う!」


「潤実!貴女は行きなさい!向こうから強い反応がする、強力なインスマスよ!!」


向こうにはパープル色の怪しいオーラが流れていた。

そのオーラはこの上ない憎悪が見られる。

一体…誰なの?


「トラテツ…行かないで!」


これだけの憎しみのオーラ…危険な相手に違いない!私が引き留めようとするがトラテツは人間に姿を変えて背中で語る。


「心配せられん!わいも後で行くけん!」


そう言うとトラテツは走って行った。

どんどん姿が小さくなっていくトラテツ。


私にはこれがトラテツとの最後の別れのような気がしてならなかった。

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