人は自分を映す鏡?
武斉葛子SIDEーーー
私は
インスマス顔とは魚介類のような顔の事らしい。
とにかく私は凄く醜いと蔑まれてきた。
望んでこんな顔になったんじゃない、生まれつきだ。
本当に世の中理不尽で可愛い子、普通の子とか色々いるが私だけが他の子と明らかにかけ離れていると言われる。
おかげでそこにいるだけで指を指され、哀れむように見られ、化け物といじめられてきた。
本来は明るい性格でもこうした屈辱の日々で私の性格も暗くなってしまった。
こうして屈辱の日々を過ごしてきた私だったがある日不思議な力に目覚める。
それは能力を使いたい対象に放てば他の人から見た姿形が対象と入れ替わると言うもの。
「ミラーチェンジ」
私は自分の能力をそう名付けた。
そして私は今日も「可愛い子」狩りをする。
海溝潤実SIDEーーー
人は自分を映す鏡とは言うけれどその言葉はなんだか私には引っかかる言葉だ。
私は何故かよく憎まれたり嫌われたりするのだが知恵袋の悩み相談カテでその事で質問すると「人は自分を映す鏡って言葉知ってる?」と言われる事がある。
それって嫌われたり憎まれたりするのって私の性格が悪いからなの?とか悪く思う事もある。
性格良いとは言わないが配慮のない言葉だなあと思ってしまうのだ。
「あまり気にせんで良えじょ?」
トラテツは言ってくれる。
こんなに猫とは気持ちが通じ合えるのに…。
蓮香ちゃんも同じ事言ってたなあ…。
でも蓮香ちゃん私と同じ境遇でありながら優しいし健気だししっかりしてるし…。
それに引き換え私には何があるんだろう?
余計な事ばかり考えてしまうし暗いし気が弱いし…
そんなネガティブな事を考えてる時だった。
私のパソコンに一通のメールが来る。
メールを開いて読んでみる私。
アドレスには見覚えがない、ただ…。
『文化の森のコロシアム広場に来い
from可園彩華』
と書かれていた。
どうして私のパソコンのメールアドレスを?
とも思ったが奈照さんがこっそり教えた可能性もあるし熟練のクトゥルフかインスマスならアドレスをわかっても何の不思議もない…ウィルスだと怖いが…まあこう言う用ならウィルスでは無さそうだが…。
「相手にせんとき、罠かも知れんじょ」
とトラテツは言う。
しかし後には引けないし例えここで会わなかったら彼女は自分から会いに来るだろう。
なんとなく予感が私にそう知らせていた。
「ありがとうトラテツ…でも行かなきゃ…なんとなく、そんな気がするんだ!」
と言ってにこりと不安な気持ちに反して笑ってみせた。
そして私は一通りの支度をし、蝶々になってを聴きながら文化の森まで車を走らせる。
ーーー
私はモダンで洒落た外観の文化の森、その広い公園の中のコロシアム広場に足を進める。
そこにはやはり、彩華がパンクファッションと言うのか?
ケバケバしい恰好で私を待ち構えていた。
「来たか…怖気ついて来ないもんかと思ってたぜ」
彩華は口に咥えていた煙を
「な、何の用…ですか?」
忽然とするつもりなのに気持ちはそれに従ってくれず思わず目が泳ぎ落ち着かない感じになる。
「そう身構えるなよ、今回はお前と戦いに来たんじゃない」
彩華は逆に落ち着いた…と言うか珍しく喧嘩腰ではなく紳士的な話し方で言葉を紡ぐ。
「今回はお前に仕事を頼みにきた」
「仕事…?」
手伝ってくれみたいな感じなのか?
しかし戦って彩華に手も足も出せなかった私が例え彩華の助太刀に入ったとして足手まといにしかならないのでは…?
「徳島市立体育館で今度県立クトゥルフ闘技会がある」
徳島県立クトゥルフ大会、それは徳島のクトゥルフ能力の使い手がクトゥルフ技を使って格闘するという大会だ。
素人から手練まで沢山集まって一対一で戦い勝ち残った者は100万円の賞金とトロフィーを授与される。
それを私も参加しろ…と?
「人数合わせですか?」
「いや、ある奴をぶっ倒して欲しいんだ!」
ある奴?
そう思っていると彩華はある写真を私に見せてきた。
この人…人間?
と思うような形相の女の人が映っていた。
彼女の写真を見て少し身震いしてしまう私。
「名前は
彩華はタバコを吹かしながら私に話す。
「確かに卑怯と言えば卑怯なのですが…どこで彼女と当たるのかわかりませんし…」
と私が写真を見て少し後々来そうな感覚を覚えるも彩華さんに視線を移し弁明してみるも…。
「心配するな、これは大会司会者からの依頼でもあるんだ、葛子は大会以外でもミラーチェンジを利用して小狡く立ち回っているらしいとの事でな」
は?それで何故私…?
「それで何故私なんですか?」
私は訝しつつ彩華に問う。
「実は依頼の件でサキュラから間接的にアタイに言ってきたんだ、潤実の実力がどの位上がったか見てみたいとさ」
あ、あんにゃろおおぉ…。
私は外観オドオドしていつつ心の中では余計な事すんなよとサキュラに毒づいた。
「当然その事は葛子本人には伝えていない、どうだ?優勝せずとも葛子をぶっ倒すだけで賞金貰えてウハウハ出来るぜ?」
彩華は肘を私に当てながら揶揄ってくる。
貴女…私が真面目な性格であることを知っててやってるの?
しかしこの依頼断ったらサキュラから何か言われそうだな…。
「わ…わかりました…」
あちゃー返事してしまった。
私は前から気は小さい癖に考える前に受けてしまったり断れなかったりする癖がある。
直そうとは思ってるけどこの性格はどうにかならないものか…。
数日後、稽古を続けた成果を試す時が来た!
そう、徳島県立クトゥルフ闘技会が始まったのだ。
数百人の観客が集まり、屈強そうな戦士達が準備体操したりしている。
私は試合が始まるまで心臓バクバクが収まらず、緊張しっぱなしだった。
勿論訓練は欠かさなかったけど…。
「潤実ちゃん、頑張りよ!」
「健闘を祈るわ」
トラテツとサキュラが見送ってくれる。
「ま、任せて♪絶対勝ってくるから…♪」
私の歩き方を見て囁き合うトラテツとサキュラ。
「潤実ちゃん…歩き方がロボットみたいじょ」
「余程緊張してるのね」
くっそサキュラ人の気も知れないで!
「ほなけどあれで潤実ちゃんいけるんかなあ?」
私の緊張っぷりを見てトラテツは心配する。
「心配ないわ、噛ませ犬用意してあるから」
「か…噛ませ犬!?」
そして1試合、2試合が終わり、ついに私の出番…!
(緊張するけど…あの武斉葛子を倒せば良いのよね!
ミラーチェンジ使って惑わす特技があると聞いたら攻略したも同じ!エイエイオーよ!)
私は気を引き締めた。
『では第三試合、海溝潤実対忍者イカーンの試合がいよいよ始まります!』
よし来た……てイカーン!?武斉葛子じゃないの??
どう言う事なのよ!
私が心の中でサキュラに怒声を上げるとサキュラがテレパシーを使って私に呼びかけてきた。
『どう言う事って気持ちと体が馴染むように噛ませ犬用意してあげたのよ』
「そんな…でも私そんなの聞いてない!」
私は抗議する。
『大丈夫、今の貴女なら勝てるわ』
そう言って連絡は切れた。
もう色々と好き勝手してくれるじゃないの。
そして私は心臓の音が高まる中いよいよ試合会場へと足を踏み入れる。
私と対峙する人は…薄い緑色の肌に赤い目、口の大きく裂けた…って貴方ずっと前に戦ったチカーンじゃないの!??
ちなみに恰好はチカーンにチョンマゲ、着物、刀を装着させたいで立ちでチカーンが侍のコスプレでもしているかのようだった。
「貴方はチカーン!??」
私は見覚えのあるその男…カエルのようなトカゲに声をあげる。
「いや、拙者はチカーンの双子の弟イカーン、そなたのような少女と戦うのは極めてイカンであるがイカン事にそなたは兄者を亡き者にした者、然るに拙者が望んでそなたと第一に戦う事を望み、志望したのでござる!」
イカン、遺憾と何故カタカナ?
まあそれはそれとして何となく設定としては納得…しかし噛ませ犬…この人の立場って…。
「両者前へ!」
司会が声を上げ、私とイカーンは前に出て礼をする。
「Ready Fight(レディーファイト)!!」
そして私達は構える。
武器はクトゥルフ戦士の基調となる武器を使用する事になっている。
私はトライデント、イカーンは日本刀だ。
あのチカーンは確かスタンガンだったよね?
しかしチカーンに弟がいたとは…と考える暇はない!
イカーンという男はチカーンの仇を取る為にやってきた。
やられる訳に行かないよね!
「きえええぇ!!!」
「やーーーー!!!」
ガキイン!!
槍と刀のぶつかり合う音が轟く。
ギシギシ…私とイカーンは負けじと鍔迫り合い。
「拙者としてもそなたのような乙女に本気を出すのはイカンでござる!しかし手加減するわけにもイカンでござる!」
イカーンはやはりこう言う時でもイカン、ござるを乱用するのか。
「私もとっておきのを見せてやるわ!
水竜槍、それは空高く飛び上がり、水竜のように敵をつん裂き、避けられても作り上げた「海」に潜る事が出来、敵に照準を定める事が出来る。
バシャン!バシャン!
イカーンは気を集中しているのか水竜槍を避けて命中は中々しない。
私とイカーンの戦いを見ていたサキュラは睨む。
(イカーンはあのチカーンと実力は同じ…今の貴女なら勝てるはずよ、潤実!)
「そこだ!!」
イカーンは刀で弧を描いた。
弧は私の腹わたをザクッと斬り裂く。
「潤実ちゃん!!!」
トラテツは叫ぶ。
しかし心配いらないよ、それは幻だから♪
「なっ、幻!??」
イカーンは驚く。
その時海と称した地面に潜っていた私はいよいよ地面を突き破り、イカーンに槍を放った。
「覇ーーー!!!」
「 イカンでござるーー!!!」
イカーンはイカンな事に私にKO負けを喫した。
ハァハァ、勝てたわ、私は自分の実力が上がっていると言う実感が湧いてきた。
私、確実に強くなってる!
その時、向こうから黄色い歓喜の声が湧き上がった。
観ると美人な人が醜い人を懲らしめている様子が。
美人が大きくて醜い人をコテンパンにしてる様子は見てて気持ちが良い。
「モンスターなんかやっつけろ!!」
「良いぞ!そこだ!!」
観客と一緒に私も美女がモンスターをやっつけているのに快感を覚え美女にエールを送っていた。
しかし試合後、驚愕の事実を目にする。
美人がやっつけてたと思ってたらその人は醜悪な人に、倒れて顔を踏みつけられてた醜悪な人は美人になっていた。
え?あの人が私の次の対戦相手の武斉葛子?
それとあれは…あれがミラーチェンジ!?
しかしミラーチェンジした所でどう言った効果が出るのだろうか?
私はその時はまだ知る由もなかった。
サキュラSIDEーーー
「キューティーBUSUって凄いよな!」
「そうそう、普段ブスなのに戦っている間は凄い美人になってるから不思議だよな!」
騒ぎ合うキューティーBUSUのファン達。
愚かな事、彼女はただ美人をわざわざ選んで異能を使って敵の姿と自分の姿と入れ替えてるように見せてるだけなのに…。
それにしても…ファンの応援とかが無いとまともに戦えないなんてなんて人間は単純で弱いのかしら。
見た目で判断して応援する相手を判断する人達もそうね。
しかし、応援が無くても信念で健闘出来るのが本当の戦士なのよ。
海溝潤実、貴女もそう言った状況でやってきた筈…貴女なら出来るわよね…?
トラテツSIDEーーー
他の奴は目で見て応援する相手見間違うとったけどわいは匂いで大体わかるんじょ。
あの美人さん見て痛々しかったなあ、ファンにも罵倒されて心理的に応えたんちゃうで?
キューティーBUSUエゲツない事するなあ…。
潤実ちゃん、例えファンとかが惑わされてもお前はそいつらやBUSUに惑わされんようにしいよ…!
武斉葛子SIDEーーー
ふふふ可愛い子が私に潰されていくのを見るのはいつ見ても気持ち良いわね♪
さてさて…次の対戦相手は海溝潤実という子ね、中々可愛い顔してるじゃないの♪
しかも奴は私の事を嗅ぎつけて捕まえる事を目論んでいるようね。
そうは行くものか!
私のミラーチェンジがあればファンは皆私に味方してくれるのよ!
せいぜいこの私の容姿となって皆んなから冷たい視線を浴びる気分でも味わいなさい!
ーーー海溝潤実SIDE
1、2試合と終わり私と武斉葛子の戦いがいよいよ始まる。
因みに武斉葛子のリングネーム(リングに上がっているときの名前)はキューティーBUSU、ミラーチェンジと言う特技を使い普段は醜いが戦っている時は美しい女性になると言う。
しかし美しい女性と言うのは敵の相手の事だ。
私はそんな美しいとは思わないけどな…。
でもやってる事は卑怯なのでそれは正さないといけない、攻略法を知ってたら勝ったも同じだよ!
そう思っていた私は明らかに愚かだった。
「レディーファイト!!」
試合のゴングが鳴る。
クトゥルフ闘技会ではクトゥルフ戦士としての特技を使って相手を打ち負かすもの。
「やあああああ!!!」
私はクトゥルフ戦士に変身しトライデントで百烈突きに転じる。
(予測通り攻撃してきやがったわ…ミラーチェンジ!!)
葛子のミラーチェンジが放たれた途端私はギャラリー達の冷たい視線を感じた。
な、何?この視線…。
何かいけない事でもしたのかと言う風な焦操感に駆られる。
(ふふふ、この化け物としての視線を浴びせられたら戦闘能力は削がれて嫌でも動きも鈍くなる!)
私の槍攻撃が鈍ったのを見計らい葛子は槍を奪い、逆に私を槍で叩きつけてきた。
「ぐはっ!」
私は衝撃でドサリと地べたにつく。
「いいぞBUSU!こんな奴やっつけてしまえ!!」
ギャラリーは逆に声援をBUSUにかける。
葛子、BUSUは更にボディプレスを私に浴びせる。
葛子はプロレス系の格闘を得意としているらしい。
「まだ終わりじゃないよ!」
葛子は私の髪を引っ張りあげて更に放り投げる。
なんて馬鹿力だ。
私はガリガリなので投げられやすいと言えば投げられやすいけど。
ちなみに他の観客は「あの細身であの巨体を軽々と!」と感心の声をあげる。
「ふざけないで!水竜槍!!」
私はやられっぱなしではいられないと水竜槍を葛子に浴びせる。
そんな時観客からは「少女虐待やめろ!!」「引っ込め化け物!!」と罵声を浴びせられ、同時に戦意が喪失してしまった。
誰も味方がおらず、やられる度に喜ばれ、逆に攻撃しようとしたら罵声や蔑むような視線を浴びてやられずを得ない状況に陥られる。
私は戦意を喪失し葛子からは防戦一方となる。
「BUSUラリアット!!」
「BUSUパイルドライバー!!」
「BUSUローリングソバット!!」
葛子は私が戦えなくなっているのをいいことに次々と攻撃を浴びせてくる。
投げられ蹴られ殴られ…私は玩具のように葛子に好き放題にされている状況。
痛い…苦しい…悔しい…KEIさん助けて…!
トラテツSIDEーーー
はじめは潤実ちゃんの勢いの良い攻撃が見れたけど途中で潤実ちゃんの動きがスローになり、逆に葛子に好き放題にされとる。
ミラーチェンジで観客からの視線、見方が逆転してしまい潤実ちゃんは観客から敵視され上手く戦えない状況が作られ、逆に葛子は観客から熱い応援を受けてパワーにブーストがかかっとる状態になっとる。
でもわいは匂いでわかる。
ほなけんわいが助けに行くんじょ!!
「潤実ちゃん!しっかり…!」
わいは潤実ちゃんに応援を送ろうとするがサキュラにそれを制止される。
声を上げた途端口元にサキュラの手が至近距離で止められ、思わずわいは押し黙ってしまう。
「黙ってなさい、これは試合以前に試練なのよ!」
「でもあのままじゃ潤実ちゃんが…!」
「やり過ぎたら審査員が止めてくれるからアンタは黙ってみてなさい!!」
そう言う問題か?でもサキュラに逆らえないわいは葛子に好き放題やられてる潤実ちゃんを傍観するしか出来なかった。
海溝潤実SIDEーーー
痛い…体が動かない…なのに葛子ったら情け容赦なく私をあらぬ角度で捻じ曲げて私はひたすら拷問を味わう。
「うがああああぁ!!!」
私は葛子から体を捻じ曲げられたまま固められ脱却する術も見つからずそのあまりの痛さにひたすらもがく。
「いいぞーもっとやれ!!」
「BUSU最高!!」
散々固めるのに飽きた後私は葛子から天上に体を持ち上げられ、そして勢いをつけるように地面に叩きつけられる。
そして葛子はジャンプして全体重で私にのしかかる。
間違いなく骨は数カ所折れてる…。
ただ私には切り札もある。
それは奈照さんの治療の特技だ。
治療の特技があれば私の傷、折れられた骨も回復出来て逆転もあり得るかもしれない。
しかし今はミラーチェンジによって精神を削られ、正に身も心もズタズタになった私に反撃の余地は許されていなかった。
思えば私…昔からこうだった。
皆から冷たい視線を浴びてきたから嫌われるのは慣れたつもりでいたけど実際はそうではなくて…どこかに認めて欲しいと言う気持ちもあって…。、
認めて欲しい…そうだ!
私は奈照さんに救いを求める。
(潤実ちゃん!皆んなが貴女を馬鹿にしてても私は貴女の味方だからね!)
ああ、奈照さんが励ましてくれてる…。
奈照さんが光で私の傷を癒してくれる。
そうなんだ、私には奈照さんがいるじゃないか!
私はまた立ち上がる。
葛子SIDEーーー
戦意を取り戻した?
思ったより意思の強い子なのかしら?
あれだけ苦しめて観客も貴女をデブスのように見て孤立無援、四面楚歌の状態なのに?
しかし私と貴女の力の差がミラーチェンジによるものとは勘違いしないで欲しいわね!
「オーシャンバレーからの!メイルサイクロン!!」
潤実はトリッキーなダンス攻撃と渦の竜巻を同時に起こし、私に向かってくる。
あれだけ怪我を負わせたのに何故このような元気が!?
しかししゃらくさい!
こんな攻撃など私のBUSU風速拳で破ってやるわ!
私の得意技がプロレス技だけだと思わない事ね!!
私はプロレス技とは別の拳法、BUSU風速拳を放った。
「キャアァ!!!」
潤実が弾き飛ばされる。
拳法に潤実のクトゥルフ技が弾かれ潤実は地に手をついて悔しそうに私を睨んでいる。
ふふふ、その悔しそうな顔、そそるわ♪
貴女の泣き顔、苦痛に歪んだ顔をもっと見せてちょうだい…それにしてもこの子やけに綺麗な体してるわね…。
あれだけボコボコにやられたらアザが出来てて当然だし流血もあるはず…?
それにあの子の体が所々光ってるのは?
まああの子は全身脂汗でびっしょりで光の反射もあって光ってるのは光ってるんだけど光り方が不自然なのよね…?
ん…?
あの子何かを念じてる…そして観察するとあの子の傷が塞がっていくのが見えた。
成る程、読めたわ、あの子の秘密が!
海溝潤実SIDEーーー
(さあ傷は回復したわ!頑張ってきてね潤実ちゃん!)
ありがとう!頑張ってくるよ奈照さん!
奈照さんに見送られ私はまた戦地に向かう。
私は槍をジャキっと構える。
貴女が私をボロボロにしてきても私には奈照さんがいるんだから!
武斉葛子SIDEーーー
「水竜槍アーンド槍百烈突き!!!」
華麗なクトゥルフ技をまた私に浴びせてくる海溝潤実。
「BUSU崩城波!!!」
私は両手を構えて海溝潤実の技と共に海溝潤実を気功拳に巻き込んで吹き飛ばす。
因みに気功拳とは全身の精神エネルギーを物質に変えて光の閃光を放って相手を攻撃する技だ。
ブスブスゥ…
海溝潤実は私の気功拳による火傷を負う。
しかしその直後火傷付近に淡い緑の光が集まり海溝潤実の火傷を癒してしまう。
それに海溝潤実がその度に手に持っているもの…あれは!
「取ったあ!!」
私は海溝潤実が持っているものを無理やりひったくる。
「か、返して!」
慌てて取り返そうとする潤実を蹴飛ばし、私は海溝潤実が持っていた石っぽいものを取りあげる。
それを見ていたジャッジや観客は目を大きく見開く。
「まさかあれを使ってたのか!?」
「何てセコい女だ!」
囁き合い恨みの念のようなものを海溝潤実に次々とぶつけてくるギャラリー達。
それを見ていたジャッジも…。
「イエローカード!海溝潤実、その場で失格負け!!」
ジャッジの厳しい判定が下され海溝潤実は顔を青ざめその表情に全てが終わったような色を見せていた。
海溝潤実SIDEーーー
奈照さんの魔力石を奪われてしまった挙句、ジャッジから退場を言い渡された私。
ああ私の人生はもうおしまいだ!
奈照さんに励まして貰いたくてやられる度に使ってた私も私だ。
私はこのまま連行されて新聞にも載り、無事に刑務所から出られたとしても後ろ指を指され肩身の狭い思いをして過ごさなければならない…。
最悪のシナリオが簡単に想像に描かれる…というより都合の良いような救われるシナリオが想像出来ない。
素直に負けた方が良かった…こうしたら奈照さんとずっといられたのに…奈照さん…ごめんね…。
誇らしげに葛子が見せびらかすように持ってる奈照さんの魔力石から放たれる光には、奈照さんの泣く姿が私の目に映し出された。
「さあ立て!」
二人のジャッジが私の腕を掴み私を立たせる。
私は逃げられないように二人のジャッジにあの例の収容所に送られる容疑者の如く後ろに回って私の両腕を掴み、私を連れ出す。
サキュラ…トラテツ…ごめんね…私を許して…。
私は観客から罵声を浴び続ける中サキュラとトラテツには許して欲しいと心の中ですがる。
捕まった犯人の立場に今私自身がなっている。
その時、一人の赤毛の少女が私を外に連れ出す途中のジャッジ達の前に現れる。
「おい、その子を許してやれよ!」
え?可園彩華?
「しかしこの少女は反則を…」
「じゃあ私がキューティーBUSU、もとい武斉葛子と戦ってやる、それに勝ったら海溝潤実を解放しろ!」
「…本気ですか?」
「アタイだって熟練のクトゥルフの戦士だ、それとコイツはアタイが無理言って参加させたんだ!その償いも兼ねてそいつに代わってアタイがBUSUと戦ってやる!」
堂々と放つ彩華に屈強そうなジャッジも気押しされる。
「…良いでしょう…」
私の連行はとりあえず保留として、彩華が武斉葛子と戦う事になった。
しかし葛子は彩華が現れる際、いつもと顔色を変えてある種の怒りを彩華にぶつけているようだった。
あの二人…知り合い?
可園彩華SIDEーーー
懐かしいな、こうしてアタイとお前が出会うの…。
アタイは何とかやってるが…お前は上手くやれてないようだな…。
「姉御!何故神社継いでから私と関係を絶ったんですか!アンタのせいで私は…!」
「…すまねえ…」
本当に不良仲間には申し訳ないと思ってる。
アタイは奈照さんから改心させられた後神社を継ぐ事になってたのだが…徳島の巫女さんには厳しい掟があって俗界に生きた者と関係を断たねばならなかった。
俗世の穢れを祓う為に必要な儀式だった。
アタイも俗世に生きた荒くれだったが身を清める為に人より滝に沢山打たれたしあらゆる制限を設けられ修行そのものは厳しいものがあった。
徳島は神道を大切にするから特にその辺厳しい。
バイトはそうでないのだが巫女であり宮司候補であるアタイは俗世との接触は父からも断たされていたのだ。
だから不良仲間がどうなってるのか…今巫女修行から離れてみるまではわからなかったんだ。
斧使いのチクは土木作業員、風使いのシンナは天気予報士となって順調にやってると聞いてたが…葛子…お前は能力を悪い方に使い、ふしだらな生活をこうして続けてるなんてな…。
「不良をやめてからも容姿のせいで嫌われ続けた屈辱…アンタにも味あわせてやる!!!」
葛子はそう言うと構えを取り、アタイに宣戦を挑んだ。
「…良いぜ」
お前のその気持ち…今まで相手に出来なかった分まで受けてやるよ。
「ミラーチェンジ!!」
葛子が異能を放ち、アタイと葛子の観客からの見た目が逆転される。
観客から浴びせられる冷たい視線…そうか、お前はこの屈辱をずっと受け続けてきたのか。
辛いぜ、お前の気持ちはよくわかる…タダな…
大事なのは見た目じゃねえんだよ!!
「私の屈辱思い知れーーー!!!」
葛子は怒りの拳を目に沢山の涙を溜めながら放つ。
シュッ!アタイは葛子のパンチを受け流し、逆に葛子のほおに拳を撃ち添える。
「美少女になんて事を!」
「鬼!悪魔!!」
観客からの罵声がアタイに飛んでくる。
何言われようがアタイは平気だ。
「うおおおおぉ!!!」
葛子は更にアタイに向かってくる。
何度も何度も向かってきてはアタイに返り討ちにされる葛子。
観客はアタイに物を投げつけてくる。
「試合から降りろ!お前は失格だ!!」
「女の子に酷い事しやがって!!」
観客からブーイングを受け続けるアタイ。
こんなの葛子が受け続けた屈辱と比べたらなんて事ねえ…。
もっと悲しくなるのは人を外見で判断するお前らの寂しい心だ…。
ボロボロになりながら立とうとする葛子。
「ま…まだまだ…」
立とうとするも全身の傷が広がり、葛子は地に膝をついてしまう。
「もういい!もう良いんだ葛子!!!」
アタイは傷だらけになりながらも自身の屈辱を味あわせようとする葛子にいたたまれなくなり葛子の体を力一杯抱きしめた。
辛かったろう、寂しかったろう!
葛子の気持ちが痛いほどアタイに伝わり、涙線が思わず溜まってしまう。
「よく頑張った!だが異能を悪い方に使っては駄目だ!お前はまだやり直せる!だから…共にやり直そう!!」
「姉御…姉御ぉ!!」
葛子が泣き、アタイもつられて泣く。
観客は静まり返り、しくしくと貰い泣きする奴もいた。
海溝潤実SIDEーーー
二人の熱い友情に少なからず私は胸を打たれた。
それに嫌われる事を恐れない彩華さんをその時はじめてカッコいいと思えた。
私も嫌われ者だから嫌われるのは平気でいるつもりだったけど…結局はペースに嵌められてしまった。
でも彩華さんは違う…罵倒されても…冷たい視線を浴びせられても仲間に真剣に向かっていったんだから…!
私もああいう人になりたい!
私は立ち上がり、精一杯拍手をした。
そして観客達もつられて拍手をし、試合は大団円で終わった。
ーーー
試合が終わった頃、日はとうに暮れていた。
彩華さんは葛子と共に飲みに行った。
仲良さげに肩を組みあって歩く姿になんだかホッコリした。
彩華さんの良い意味で砕けた表情、元々顔立ちが整っているだけあり可愛らしかった。
「凄かったな…彩華さん…」
「そうね…貴女も彼女を見習って訓練をよりハードにしていくわよ!」
え?そこ??
一方、先が思いやられる私だった。
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