それ行け潤実初バトル!

私は身を清めた後様子がおかしいことに一目で気がついた。


「サキュラちゃん?」


そう、サキュラがいないのだ。

そして私が着ていた服もどこかに消えていた。


その時、私の背後に大きな影が現れ、それは私に抱きつきだし、息を吹きかけてきたのだ。


「ひゃあっ!」


私は突然の事で飛び退いてしまう。

私を触りだした主を確認すると厚着をした、怪しげな男が荒息を立てながら私を一点に睨んでいた。


ニット帽、サングラス、マスクで顔を覆い隠し、ジャンパー、厚手のズボン、手袋で身体のラインを隠している感じか。


「な、なんですか貴方は!?」


私にジリジリと詰め寄り、荒息を立てている男にたじろぐ私。


「グフフ、俺は隠者チカーン、美少女二人がここにいるのを見て気配を消してついてきていたのよ!」


チカーンは今にも襲ってやるぞと言う風に手を構えて詰め寄ってくる。


私は反射的に後ずさる。


「サキュラちゃんをどうしたの!?」


「安心しな、お前をいただいた後たっぷりと可愛がってやる♪」


この人…危ない!

レキさん…助けて!


「逃げても無駄だぞおっ♪」


「ハァハァ、誰かー!!」


チカーンが追ってくるのに私は必死に逃げながら助けを呼ぶが私の叫ぶ声が虚しく木霊こだまするだけだった。


チカーンは笑いながらしつこく追ってくる。

私じゃ対処できそうにない!


その時何処かから女の子の声が響いてきた。


『潤実さん!』


その声はサキュラのものだった。

でもサキュラは一体何処に?


「サキュラちゃん!?何処にいるの??」


声は聞こえるが肝心のサキュラの姿は見当たらず、ただチカーンから逃げ惑う。


『私は今捕らえられている、私のテレパシーは通じているようね』


緊迫のシーンだがサキュラは一安心したような声を漏らした。


「それより男に襲われてる!どうしたら良いの!?」


私はサキュラに助けを求める。


『チカーンと言う男と戦いなさい!』


サキュラはこんな事を言ってきた。


私はちょうど良いくらい大きい柱を見つけたのでそこに入り、身を隠す。


「隠れても無駄だぞお♪」


チカーンも私を追ってその柱に入り込む。

私はチカーンを撒いてある場所で不意打ちをかけようと待ち伏せていた。


チカーンが私の元にやって来ている…!


そうよ、このまま近づいて来なさい…!


私はすうーっと深呼吸する。

チカーンが現れた所で蹴りを放ち、ノックアウトさせる…。


よしっ、これだ!

私は身を隠しチカーンが私の前に現れるのを待った。


そしてチカーンがその場に来た!

今だ!


「ええぇい!!」


私はイメージトレーニングした通りにチカーンに蹴りを放つ。

しかしチカーンは屈み、見上げた。



「見えた♪」


チカーンは嬉しそうに言う。

!!!


私は屈辱と恥ずかしさで戦意を喪失してしまった。

ドンッ!

私は仰向けに転がされ、その上にチカーンがのしかかってきた。


「グフフッ!」


「!!!」


チカーンは口を覆っている大きなマスクを口から剥がす。


その口は大きく裂けていて、緑色の大きな舌がうねうねと蠢いていた。


マスクを取ったチカーンの口元は大きく裂け、歯は小さくギザギザで、皮膚は緑色…人間ではなく…トカゲ!?


しかし口から出す舌は巨大で、臭い臭いを放ち、私の顔を舐め回してきた。


男は理性が効いていないようで、訴えかけれたとしても聞いてくれるような思考を持ち合わせてはいないように感じられた。


私は抵抗するも圧倒的に体も力もチカーンが大きく強く、抵抗しても私の体力が消耗するばかりだった。


舌は当然液がまとわり、ベタベタした液が私にまとわりつく。


気持ち悪い…何とかしないと私もサキュラちゃんも危ない!


ああ私がWNIのように強かったらチカーンなんて追い払えるのに!


さっきからサキュラちゃんの声が聞こえて来ない!

何となく訳はわかっていた。


私自身気が動転しているからだ。

男に襲われているのだから平常でいろというのがおかしな話。


私はサキュラちゃんの助言を聞くため思考を落ち着かせた。


その間もチカーンに襲われるがこのままでは私の全てが奪われてしまう。


『…なさい!』


良かった!サキュラちゃんは必死に訴えかけてくれているんだ!え?なになに?


『チカーンの舌を噛みちぎりなさい!』


舌を噛みちぎる!?

チカーンは私を舐め回してきている。

チカーンの大きな舌がどうやらデスポイント(弱点)のようだ。



ジュルジュル…こんなに私の体をベタベタにして…覚悟していなさい!

そしてチカーンの舌がちょうど私の口元辺りを走ってきた。


今だ!

私はチカーンの舌を思い切り噛みちぎる。


「ギャアアアァ!!」


私がチカーンの舌を思い切り噛み、チカーンは雄叫びを上げて私から飛び退いた。


「お…おのれ!」


チカーンは恨みをぶつけるように唸り声を上げる。

私は立ち上がろうとするが足元はフラつく。


「うくっ…」


「俺の唾液で体力が消耗して立ち上がれまい、俺を怒らせたお礼にとっておきの必殺技をお前にお見舞いしてやる!」


私がやっと立ち上がったところでチカーンは今度は素顔を隠すようにかけている大きなサングラスを取り出した。


「ひうっ!」


ビリビリ…ッ!

チカーンのサングラスを取った瞳を見た途端私は金縛りに遭い動けなくなってしまう。


チカーンの目は血のように赤く、蛇のようだった。


「グフフ俺の目はメドウーサの目、俺に睨まれた奴は皆動けなくなる!」


(そんな!)


動けなくなった私は逃げる事も戦う事も敵わず、この男の餌食になるを待つだけになってしまった。


「貴様は襲う前に俺の新たな必殺技のモルモットにしてやる!」


今の私…実験体!?


何をしているかと思えばチカーンは両手を自身の手に持っていき、口からは茶色い息を吐き、その息は両手全体を覆っているのが見えた。


チカーンの息は臭く、漏れたのが私の鼻に漂ったのだが吐きそうな程の臭さだった。

ひょっとしてそれを…食らうの!??

私は金縛りを解こうと必死に動こうとするが体は全く動いてくれようとしない。


やがてチカーンの両手に覆った茶色い「息」は大きな球体となって私に向けられていた。


臭息弾しゅういきだん!!!」


そして…その脅威の弾は放たれた!


チカーンのボーリングボール並の大きさの「弾」は普通にピッチャーが投げる野球ボール並の速さで私めがけて飛んできた。


そのボールはその瞬間に防衛本能が現れたのか、スローに見えるが、生憎私は金縛りに遭っているので避けようが無い。


そして…私の全身に衝撃が走り、そして強烈なアンモニア臭が鼻だけでなく脳を襲い、私は吹き飛ばされ、その瞬間意識を失った!


ーーーサキュラSIDE


「…!潤実さん?潤実さん!!」


私はテレパシーを使い、潤実さんを呼びかけるが反応が無い、そして、先程まで存在していた潤実さんの気配が消えてしまった!


私はサーッと血の気が引くのを感じた。


そもそも私は何故あの子を選んでしまったのだろう?

私の判断は間違えていた、あの時壮年の女(喧華)と共に男と戦っていた潤実さんが果敢に戦っていたからとパートナーに選んでしまった私のミスだ。


いや、あの子に何かシンパシーのようなものを感じ、あの子なら現状を変えられるかもと思ったのもある…だがそれは勘違いだったようだ…。


しかし今、こうなっては後の祭り。


いやいや!まだ終わりでは無いはず!私は思念を飛ばして潤実さんの実体を探す。


幽体離脱して魂となった私は空中を泳ぎながら潤実さんの存在を探る。


いた!


潤実さんは上目を向き、口から泡を吹き、痙攣けいれんを起こしている。


その向かい側にはそんな潤実さんのだらしない姿を見て喜んでいるトカゲの風貌をした男が。


その男がチカーン…チカーンは潤実さんとの距離を詰めていく。


潤実さんは生気を失い意識もどこかに飛んでいるが生きているのは確実だった。


痙攣して息もあり、尚且つ意識は飛ばされている…魂が入り込むには好条件だ!


そして潤実さんは身を清め、力を得ている筈…私は乗り移った者のスキル、能力を知り、それを使う事が出来る。


私なら潤実さんの代わりにこの薄気味悪い男を粛正して貴女を救ってやれる!


という事で私は潤実さんの体に乗り移った。


潤実さんに乗り移った私は潤実さんの今の使えるはずのスキルを調べる。


『アクアブロウ』

『ウォーターバリア』

『オーシャンバレー』

『メイルストローム』


!!

私は潤実さんのスキルを覗いて驚愕した。

何故なら潤実さんの能力は全て魔王ガラモスと戦い、命を散らした私の兄、ガニメルの使っていた能力だったからだ。


そうか、どうりで私はあの子しかいないと思ったわけだ…。


そう言えば潤実さんは何となくオーラが…ガニメル兄さんと似ている。


いやガニメル兄さんは潤実さんのようにオドオドしてなどいなく、寧ろ堂々としてカッコよかったのだが…なんとなく匂いと言うか、深みのある感じが似ているように思われた。


いや今は感傷に浸っている場合では無い!

チカーンは潤実さんを食べようとしている!

あの子が犠牲になる前に私が潤実さんに乗り移ってでも戦わねばならない!


「ウォーターバリア!」


チカーンが私に至近距離に距離を詰めたところで私はスキルを放った。


バチンッ!

「ギョッ!?」チカーンはバリアに巻き込まれ、立ち退く。


「な、なんだこれは!?」


チカーンは潤実を覆った彼女を包めるだけの大きさの巨大な水の玉に驚く。


チカーンが戸惑っている内に私は間髪入れずスキルを放った。


「メイルストローム!!」


「ギョオォ!!」潮の波を噴出させチカーンを弾く。


私の狙い通りチカーンは弾き飛ばされ、宙を舞って地に叩きつけられた。


「こ、このアマ…!」


先程まで舐めてかかってたのか、私が潤実のスキルを放つ事で翻弄しているとついにチカーンは怒りを露わにした。


「もう一度貴様に俺の技をお見舞いしてやる!!」


この技は…そう、あれね?


臭息弾しゅういきだん!!」


この技はさっき潤実さんへのトドメに放っていた技だ。しかし潤実さんには通じてもこの私には通じない!!


私は武器に持つトライデントでチカーンの臭息弾を弾き返した。


「ギョオォッ!!」


私は臭息弾をチカーンに返し、チカーンは見事に弾き飛ばされ、挙句に悶絶した。


「自分の息の臭いに苦しむ気分はどうかしら!??」


潤実さんに乗り移った私はザマアみろという風に勝ち誇って潤実さんに代わってチカーンを笑ってやった。


「このクソガキが大人しくしてると図に乗りやがって!!」


チカーンは武器のスタンガンを取り出す。


「スタンガンか…痴漢らしい武器ね!」


「やかましい!」


チカーンはスタンガンを用い、凄みを効かせて潤実さんに襲いかかる。


あのメンタルの弱い潤実さんなら今のチカーンを見た所で一瞬で怯み、チカーンの思い通りにされていただろう、しかし私は潤実さんとは違う。


しかし潤実さんの武器はトライデント、私はトライデントは得意武器では無いが戦えるのかしら…。


ガニメル兄さんがトライデントを操って魔物を次々と薙ぎ払っていた様子はよく見ていたのでガニメル兄さんの戦い方を思い出し、私はチカーンと戦った。


「隙だらけだぜっ!」

「あうっ!」


バチン!!


案の定、トライデントを操る事に関しては素人の私にスタンガンを扱う事については手練れのチカーンには敵わず、トライデントは私の手から離され、私はスタンガンを食らって痺れて動けなくなってしまった。


ビリビリ…長時間電撃が私を襲い、動けない…!


「グフフどうだスタンガンの味は♪」


チカーンはスタンガンのスイッチを入れたり切ったりして私にスタンガンの威力を見せつける。


今の私はチカーンを置いて蛇に睨まれた蛙状態!

この危機を乗り切るのはそう、アレしかない。


チカーンのような痴漢の特徴を私は大体知っている。


弱い者には強く強い者には弱い、まあそれは大体の日本人の特徴とも言えるものだが痴漢は大体大人しそうな女の子しか狙わない、そう、海溝潤実さんのような。


それに対抗する術を私は得ている。

今、それを放つ時だ!



「威圧!!」


そう私は威圧を放った。

威圧とは自分より精神レベルの低い者を怯ませ、恐怖を与えるというもの。

恐怖を与えられた者は戦いにおいて大きなハンデを負う事になる。


潤実さんのような威圧とは程遠いおとなしそうな容姿の女の子でも鬼神が乗り移ればそれ相応の威圧を放つ事が出来る。


潤実さんの身体から闘気が自分でもわかるほど放たれる。

その闘気は炎のようにメラメラと舞い、チカーンに、近寄るなと威圧が放たれる。


その時、私や潤実さんでは無く別の男性の低い声が私やチカーンの耳に入る。


『俺の妹やか弱い女の子に近寄ったら俺が承知しないぞ!!』


ガニメル兄さん!?


そう、それはガニメル兄さんの声だった。


「はわわ…」


潤実さんを舐めてかかっていたチカーンは潤実さんではなく私、そして今も見守っているだろうガニメル兄さんから放たれた「威圧」によって戦意を大きく削がれた。


スタンガンでの電撃の効果からようやく解放された私は威圧を放ったままチカーンにトライデントで刺しに向かう。


「グキャアアアァ!!!」


トライデントで一思いに刺されたチカーンは悶絶した後ピタリと動かなくなった。

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75ページ

海溝潤実SIDEーーー


「あれ…私…?」


ふと私は目を覚ました。

私に非常に臭い何かが飛んできてその後何か強い衝撃を受けて…。


「ひっ!!」


私は赤黒い何かを見てショックに襲われる。

そんな時の事だった。


「これしきでこんなにショックを受けてると戦いでついてこれなくなるわよ!」


そんな時サキュラが私の前に現れたのだった。


「ほら服よ!」


サキュラはそう言って乱暴に奪われた服を投げつける。


「な、何怒ってるの?」


「貴女がしっかりしないからよ!」


ーーーサキュラSIDE


これからの戦士には強くなってもらわないとならない。


とは言え潤実さんにはキツかったかしら?

潤実さんは涙目で頼りなく服を着替える。


「ごめんね」


私は潤実さんの手を握る。


「これから貴女には強くなって欲しい、これから私は戦闘の仕方とか教えるからちゃんと私についてきなさい!」


私は潤実さんを労い、その後激励を与えた。


「うん、こんな私だけど…よろしくお願いします!」


良かった元気になって…でもあまり甘やかしても駄目よね、ガニメル兄さんが私に指導していた時のように、厳しさと優しさの区別は付けて指導していかないと。

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