第2話「お姉さんと呼んで」とおっしゃった
学年上がりと同時に入った学園は、元々女子だけの学園だったらしく、教師のほとんどは女性ばかりだ。学園都市だけで一通りの教育機関が充実し、卒業後のバックアップは完備されていることから、そのまま学園の先生になる人が多いらしい。
「……ということなので、晴馬くんは私のことをお姉さん先生と呼んでね」
どういう理屈なのだろうか。この理屈で行くと、卒業上がりの先生のことはみんなお姉さん呼びをすることになる。俺も含めた男子は、素直にそんな呼び方をしそうではなさそうなのに、何故か指名をされていた。
同じ教室には押しかけ同居のさやめがいて、常に見張られているだけに、そういう火種を作るのは勘弁して欲しかった。
「(こっち見ないでくれる?)」
思わず目が合ったさやめの口は、突き放す言葉を放っていた。どうして彼女はあんなになってしまったのか。不安そうな表情が顔に出ていたのか、席が近い彼らが声をかけてきた。
見渡す限りの女子連中。救いなのは、男子だけが隔離されているかのようにした席順になっていたことだった。女子に対して男は数人に満たず、圧倒的にアウェイなことはすぐに理解出来た。
「転校生か。そりゃ災難! ハーレム状態って思えるかもだけど、ちょっとでもデカい態度とか、威圧しようもんなら……って、脅すつもりは無いから安心してくれ。俺は
「俺は
「み、明空晴馬です……」
「緊張してんの? 数少ない味方なんだからビクビクしなくていいぜ。ってことでたくみと一緒によろしくな、晴馬!」
「よ、よろしく、カイ。たくみも」
元が女子な学園という説明を受けたのはここに来てからという、何とも逃げようのない状況を作られてからだっただけに、男子の立場は弱いということを即座に理解した。それだけに話しかけてくれたのは、強力な味方を得られたようで救われた気がする。
「こらっ! そこの男子くん。何をこそこそと内緒話をしているのかな? お姉ちゃん、そんなの許さないんだからね?」
「ご、ごめんなさい、先生」
「違うでしょ! 私のことはお姉ちゃん! ううん、
「は、はい。美織お姉さん先生」
これは何のお仕置きだろうか? 普通の高校から学園に転校した時点で、弱々しい自分を変えようと心に決めていたはずなのに、先生にすら子ども扱い……いや、弟扱いされているなんてこんな学園生活は想定外だ。
「だっさ……」
さやめは聞こえるようにしてわざと声を大きくしながら、挑発をして来ている。たとえハトコ……いや、妹でもある立場でも、あの態度は本当に許せない。
ここは彼女に厳しく言う必要がある……そう思い立ち、休み時間になると同時に、女子たちで固まっている席に近づこうとした。すると、長身でモデルのような女子が自分の元に立ちはだかった。
「な、何です? えと、俺……あの子に用があるんですよ。だから出来たら通せんぼをしないでくれると……」
「あの子とは、レイケのことか?」
「レ、レイ? そうじゃなくて、さや――」
「やはりアナタも彼女狙いなのか? どうして学園の男は媚びようとする?」
「へ? こ、媚を売るとかじゃなくて、説教を……」
もしやこの子はさやめを敵対視でもしているのかな。そうだとすれば、話をきちんとすれば味方になってくれるかもしれない。そうと決まれば、何かを言われる前に廊下に連れ出して話をしてみなければ。
「えと、話を聞きたいから、こっちに来てくれないかな?」
「……? な、何? どこに――」
こういう時こそ、意気地なしから脱却した強い自分をあいつに見せつけるチャンスだ。不意打ちでも何でも構わない。そう意気込みながら、目の前に立ちはだかっている長身女子の手を掴み、教室を出た。
「よし、廊下でなら邪魔されることなく話が……あっ、いきなりごめんね。キミと話がしたくて、というよりも、教室では話しづらそうに見えたから廊下に連れて来たんだけど、驚かせてしまったよね? 本当にご—―」
「ぶ、ぶ……無礼者! な、何だ、何でいきなりワタシの手を掴む!? 求婚か? そうなのか?」
「えっ? きゅ、求婚って……え? そ、そんなつもりは全然……」
「ワタシが男子に不慣れなことを知っていてそういうことをしたのか! 貴様、名を名乗れ!」
「え、えと、晴馬です……決してキミのことを知っていたわけじゃなくて」
何でこんな大事になっているんだろう。俺はたださやめのことを聞きたかっただけなのに。このままじゃあらぬ誤解と疑いを彼女に抱かせてしまう。
「お困りかな? 晴馬君」
「あっ、先生!? そ、そうです。あの……」
「違うよ? 先生じゃなくて私のことは美織お姉さんって呼んで欲しいなぁ」
「美織お姉さん……先生」
この学園の先生は何なんだろう。先生は実はみんな姉という立場で、女子は妹だけとかじゃないよね? でも今は目の前の女子を何とかしてもらわないと、教室にすら戻れそうになさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます