その後の彼女たち10



「ゆ、由季?泣かないで?」


「うん。ありがと葵。泣き止むから大丈夫だよ」


「うん……。由季?あの、あのね?私、えっと、えっと……由季のお願いなんでも聞いてあげるから……だから、あの…泣き止んで?」


由季が泣いている非常事態にパニックが止まらない。由季みたいになんでもできる訳じゃないのになんでも聞いてあげるとかテンパりすぎて大きく出てしまった。これじゃかっこつけすぎだよね?綾香ちゃんの前みたいに自爆する可能性がある。由季の前ではかっこつけたいし、良く思われたいから頑張るけど私にできるかな?こう言ったのに自爆したらかっこ悪過ぎて泣くかもしれない。由季は抑えられないように笑いながらこちらを向いた。目は赤いけど笑ってくれる。


「葵本当に聞いてくれるの?」


「う、うん!勿論!……でも、あの、私にできる範囲の…ことだけど……」


由季のためならなんでも聞いてあげたいけど自信はない。ダメだな私と思っていたら由季はまた笑った。


「大丈夫だよ。簡単なことしか言わないから。とりあえずお願いは考えとくから葵は忘れないでよ?」


「うん。絶対忘れないよ。なんでも聞いてあげるからね」


「うん。楽しみにしてるよ」


由季のお願いはなんだろう?想像がつかなかった。私は由季にお願いしたりするけど由季は全くしてこない。してこないと言うか由季はしてほしいことがないみたいで落ち込んだ時もあったけど、これはこれで嬉しい。簡単みたいだからかっこつけられるし!由季が好きでいてくれるように良いとこ見せないとだからお願いされたら頑張ろう。


泣き止んでくれた由季は嬉しそうにブレスレットをつけてくれて私は笑ってしまった。

またお揃いだね?って笑う由季にしっかり頷くと私は携帯を取り出して一緒に写真を撮った。

今日は喜んでくれて良かった。由季は泣いちゃったから驚いたけど、サプライズは成功だ。笑いながら由季に写真を送っていたら由季はまた携帯でメモを取っていた。


横からチラッと見えたそれは由季がよくやっている癖みたいなものだった。

由季は忘れやすいと自分で言っていたけどあれは本当みたいでよく今みたいに携帯に何があったか箇条書きでメモしている。たぶん本当に些細な日課のようにやっているみたいだから私には何も言わないけど私は知っている。


以前なにか考えながら携帯をいじっている由季を見て気になってこっそり覗いたら私と何を話したか書いていたのだ。由季に対して忘れっぽいとは思わなかったのはこれなんだと察した私は事実にちょっと悲しくもなったけど嬉しかった。


由季はいつもこうやって何気ない顔をしてメモしていて、私のことをよく書いてくれている。話した内容や私の反応を書いているから好きでいてくれるんだなって思ってこれを見ると嬉しくて顔がにやけてしまう。


「なに笑ってんの?」


由季が携帯を置いて笑いながら聞いてきたから私は抱き付いて答えた。


「由季が大好きだから笑っちゃった」


「え?ん~、とりあえず嬉しいってこと?」


「うん!それに由季可愛いんだもん。可愛いから顔が笑っちゃうの」


「葵前もそうやって笑ってなかった?まぁ、葵が嬉しいなら私も嬉しいからいいけどさ」


笑って抱き締めてくれる由季に私は嬉しくなって更にぎゅっとくっついた。

由季のおかげで休みはとても充実した。

ずっとくっついてられたし、由季にプレゼント大成功で悩みも聞いてもらった。

あとは握手会を乗りきって次の由季が来てくれる日まで頑張るのみ!




由季のおかげで仕事にやる気を出して目まぐるしく仕事をしていざ握手会当日になると裏で緊張し過ぎてもう怖かった。


「葵……?大丈夫?」


そんな私に山下さんは本当に心配そうに聞いてきた。由季が気持ちの持ちようだよって言ってたから由季みたいに考えてるのにこれから何人も相手に握手するんだよね?と思うと自分が大丈夫か心配になる。

もう失敗してもしょうがないって気にはなってるけど女の人多いだろうから緊張しちゃう。可愛い人に握手を求められるって……なんか怖いよもう。私でいいのかな?


私はとりあえず山下さんに返事をした。


「あ、はい。……大丈夫です」


「あぁー、葵?落ち着いて?もうすぐだし……そんな顔してると来てくれたファンの方も心配するよ?」


「はい…。すいません…」


山下さん困ってるからとりあえず笑わないと。笑顔でいないとダメだもん。私は鏡を身ながらにこにこ笑ってみると山下さんは両肩をぽんぽん叩いてきた。


「大丈夫。葵なら大丈夫だから。頑張ってね?」


「はい…」


そうだよね。大丈夫だよね?由季だって応援してくれたし昔とは気持ちの持ちようが違うもん。山下さんに応援されて気合いを入れたのにいざ表に出たら歓声が沸いて思った以上に女の人が多くて焦ってしまった。

怖いし緊張するけど頑張らないと。

一応挨拶をして握手会が始まるも皆可愛い人で緊張した。


「アオイさんすっごく大好きです!!雑誌もテレビも全部見てます!!いつも応援してます!!」


「あ、ありがとうございます…」


「これからも頑張ってください!ずっと応援してます!!本当に本当に大好きです!」


「あ、…はい。今日はありがとうございました…」


圧倒されるくらい最初から泣いていた女の人は握手したらもっと泣いてたけど大丈夫かな?あれ私のせいだよね?何かもっと言ってあげた方が良かったかな……。考えてもすぐに次の人と握手をする。次の人はテンションが異様に高い男の人だった。


「アオイちゃん大好きです!!今日会えるの本当に楽しみにしてました!!前からずっとファンで応援してました!!」


「はい。応援してくれてありがとうございます」


「あ!アオイちゃん好きな食べ物教えてください!」


「え?……えっと、……えっと……煮込みハンバーグです。今日はありがとうございました」


一回思考停止してしまったけど由季を思い出して由季の好きな食べ物を答えてしまった。これは一応由季が好きだから私も好きだし……間違ってない。よし!良かった。いつもよりまともに答えられて安心したのに次の人はとても綺麗な女の人で緊張して怖かった。


「アオイちゃんいつも応援してます。今日会えるの楽しみにしてました」


「あ、はい。いつも応援ありがとうございます…」


握手をして緊張して変に汗が出る。綺麗なのになんで私のファンでいてくれるんだろう?緊張のあまりドキドキしていたら質問をされて頭が真っ白になってしまった。


「アオイちゃんはいつも家で何してるんですか?」


「え?…えっと…………………思い出せません…。ごめんなさい、今日はありがとうございました…」


答えながら恥ずかしくて熱くなってきてしまった。思い出せませんとか変すぎるよ。バカじゃん。さっきの人は驚いたような顔をしていたけど絶対引かれた。もうやだ…。それでも次の人の握手になって私はたまに墓穴を掘りながら頑張った。


でも、今回の握手会は普段よりガチガチな緊張はしなかった。

いつもは何を言ったか忘れちゃうくらい緊張してやらかして恥ずかしくて死にそうになっていたのに由季のおかげでどこか冷静でいられる。

それに質問は好きなこととかだから由季を思い出せば自ずと出てきて何とか凌げていた。


大丈夫、大丈夫。ちゃんとできてると緊張しながらも思っていたら次に握手する人に頭が真っ白になった。


「葵ちゃーん!!今日も可愛いくて大好き!ずっと応援してます!!」


私の手をぎゅっと握ってきたのは派手な見かけが出会ってからずっと変わらない遥ちゃんだった。遥ちゃんは優しくて可愛くていい子で私の好きな友達の一人だ。最初は由季ととても仲が良くて由季に一番近い存在だったから嫉妬していた時もあったけど、今じゃ由季と私の良き理解者である。それにヨガとかにもよく行く仲で、今日の夜に一緒にヨガに行こうと話していた時は何も言ってなかったのに来てくれたみたいだ。


「え?……あ、ありがとうございます」


「頑張ってね葵ちゃん!!」


「あ、はい……」


遥ちゃんわざわざ応募してくれたのかな?遥ちゃんはいつも雑誌とかテレビとかの感想を言ってくれるし、ビックリし過ぎて驚いて何も言えなかったけど来てくれて嬉しい。私は遥ちゃんを見送ってから次の人にも驚いてしまった。だって次は由季だった。


「アオイさんいつも応援してます」


「あ、…ありがとうございます…」


いつも手を握ってるのに他人行儀だけど変わらない由季に緊張する。抽選落ちたって残念がってたのに由季はサプライズが上手すぎる。今日は仕事だって言ってたのに。由季はにっこり笑った。


「アオイさんは好きな食べ物なんですか?」


そんなの知っているくせに聞いてきた由季にずっと由季の好きな物を答えていた私は恥ずかしく思いながら言った。


「ミネストローネです…」


「そうですか。一緒で嬉しいです。頑張ってください」


「はい…」


笑って行ってしまった由季に急激に恥ずかしさが込み上げる。由季は私の彼女なのにこんなに人がいる所で話して握手までしちゃった。それに、好きな物が一緒で嬉しいって、こっちの方がずっと嬉しかったから照れるよ。

由季のせいで急激に熱くなってしまった私はどうにかそれを隠しながらその後の握手会に望んだ。




その後、難なく握手会を終えた私は由季と遥ちゃんから来ていた連絡に返事を返していた。

遥ちゃんはサプライズに驚いた?ってわくわくした感じだったけど由季は頑張って偉いねって言ってくれてすっごく嬉しくて笑ってたら山下さんに話しかけられた。


「葵、今日は上手くいった?」


「はい。前よりも上手くいきました」


ちょっと墓穴を掘ったけど、由季が来てくれたし一番上手くいって思い出に残る握手会だった。山下さんは笑っていた。


「よかった。葵すごい握手会緊張してたから心配で羽山さんに来てくれないか頼んどいたんだけど羽山さん呼んどいて正解だったね」


「え?そうだったんですか?」


由季も山下さんも何も言ってくれないから分からなかった。まさか山下さんが絡んでいたなんて。山下さんは頷いて答えた。


「うん。よく綾香ちゃんと羽山さんの話してるし、葵は羽山さんと仲良しだから来てくれたら緊張解れるかなって思って。羽山さんもう一人友達も連れてきてくれたし良かったね葵」


「はい。山下さんありがとうございます。でも、教えてくれたら良かったのに…」


最初は緊張し過ぎて怖かったくらいだ。以前よりはマシだったけど教えてくれても良かったのに。いや、どうせ私のことだから教えてもらった所で何も変わらないけど。


「羽山さんが驚かせたいから秘密にしてくださいって言ってきたからごめんね?」


「そうだったんですか……。じゃあ、嬉しかったからいいです…」


「ふふふ。ちゃんとお礼言っときなよ?」


「はい…」


発端は私と山下さんだけど根回しをしてくた由季に私はまた嬉しくなっていた。


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