その後の彼女たち11



握手会が終わって今日の仕事はその後の雑事をこなしたら早めに終わったので楽しみにしていたヨガに向かった。遥ちゃんはもう着いてるから急がないと。急いで会員制のヨガスタジオに向かうと着替えてから遥ちゃんと合流した。

ここはホットヨガがメインだがジムもあって人が少ないから遥ちゃんとよく行っている。SNSをやってないから分かんないけど私は一回もバレていないし、遥ちゃんはいつも金髪で目立つから私は影が薄くなっていると思う。


私達はヨガスタジオにマットを敷いて始まるまで柔軟を始めた。私は改めて遥ちゃんにお礼を言っておいた。


「遥ちゃん、今日来てくれてありがとうね?びっくりした」


「全然だよ。抽選落ちて胸抉れるくらいへこんでたから嬉しかったよ行けて!葵ちゃん今日めっちゃ可愛かったね?私、雑誌いっぱい買ったから皆に配るね!皆信者にしてやるから任せて!」


「え?そうなの?……なんか、恥ずかしいよ」


遥ちゃんはいつも明るいんだけど声が大きくて恥ずかしい。あれ際どいのもあったから照れるな。遥ちゃんは笑っていた。


「えー?全部可愛かったよ?私付属でついてきたポスター部屋に貼る予定だし。由季も貼るって言ってたよ?」


「えっ?!!由季も?!」


そんな話知らない。思わず私の方が大きな声が出ちゃったけど由季は部屋に何か飾ったりしてないはずなのに。ていうか本人の私がいるのにどうして?遥ちゃんはこうやって私が知りえない情報をどんどん投下してくれるからありがたい情報源だった。


「え、うん。葵ちゃん来たら恥ずかしいから外そうかなって言ってたけど。それより、あの海で可愛く振り向いてる写真可愛いって由季が言ってたんだけど、私はベッドで横になってるやつの方が…」


「えっ?!ちょっと待って!あの、どれ?!振り向いてるやつ何枚かあったけど…」


由季はいつも可愛いって言ってくれるけどこういう好みは教えてくれない。前に私が好みって言ってくれて本当に本当に嬉しかったけど、もっと細かく知りたい私には貴重だった。由季の好みには最大限近付きたかった。


「えっと、どれだっけなぁ…。確かワンピース着て髪が靡いてて、手伸ばして笑ってるやつ……だったかな?」


「あ!分かったあれか!ど、どこら辺がいいって言ってた?」


「なんか自然に笑ってる感じがいいって言ってたよ?普段の葵ちゃんみたいだって。でも、そんなこと言うとか由季のくせに生意気だよね?なんかムカつくから私も葵ちゃん大好きだし負けないし!ってどや顔しといた」


「え?遥ちゃん由季と喧嘩しちゃったの?」


遥ちゃんは由季になぜか対抗意識?みたいなのがある。二人はとても仲良しなのに遥ちゃんは由季にバカとかムカつくとか平気で言っていて喧嘩しないか心配だった。由季は温厚だし二人は長い友達だけど遥ちゃんはよく由季に機嫌を損ねる。


「喧嘩なんかしないよ。ていうかそこでムカつくのがね、私の方が葵ちゃんのこと知ってるしとか言ってきたの!マジムカつくよね?うるせーバカ!って、首絞めちゃった」


「えぇ?それ本当に大丈夫だったの?」


何してるの遥ちゃんと驚くも遥ちゃんは明るく笑っている。


「平気平気。由季が死ぬ時は酒飲み過ぎた時だから。あ!そういえばさ、葵ちゃんまた翔太の店に飲み行こうよ?透が誕生日だからさ、奢らせて潰そうって話してるの」


「でも、透君誕生日なのに奢らせて潰したら可哀相じゃない…?」


遥ちゃんは仲良しなはずなのに容赦ない発言をする。私の相談を聞いてくれるし優しくていい子なんだけど特に透君の扱いは酷い。


「大丈夫、大丈夫。透はお酒が好きだからお酒に飲まれてた方が幸せなの。あいつ友達いないし。それより由季とも話してるんだけどね……」


それから遥ちゃんは透君の誕生日をどうするか話してくれたけど大丈夫なのか心配になるだけだった。

透君もお酒強いけど大変な日になりそうだよ。由季も聞いている限り巻き添えくらいそうだし、絶対私もその日は行こうと決意した。透君は無理かもだけど由季は助けてあげないと可哀想だもん。遥ちゃんには悪いけど私にはちょっとした使命感が芽生えた。


そのことを考えていたらお目当てのヨガはなんだか集中できなかった。いい汗をかいたからいいけど、ヨガが終わった後も遥ちゃんと雑談して家に帰った。

帰ったら由季がいいって言ってくれた写真を見直さないと。今日はちょっと研究してから寝よう。もう帰って寝る頃の由季に連絡を入れて私は浮かれながら玄関のドアを開けた。


「ただい……」


そしたらまたしても驚いた。今日は泊まりに来ない日なのに由季の靴があった。私は急いで部屋に入ると由季は私の写真集を見ていた。


「あ、お帰り葵」


「ゆ、由季?!どうしたの?ていうか、山下さんから聞いたけど今日は来てくれてありがとう。あと写真集見ないで恥ずかしいから…!私がいない時に見て!」


「え?見たかったのに…」


とりあえず由季から私の写真集を奪い取っておく。水着とか恥ずかしいのがあるから目の前で見られると恥ずかしいし、今日は一人で見ようと思ったのに由季がいたんじゃ見れないよ。由季は残念そうにしていたがすぐに私を手招いてきた。


「ねぇ、葵?ちょっと隣座って?」


「え?う、うん……なに?」


いきなりなんだろう。いつもと変わらない由季の隣に座ると由季は身体をこちらに向けたから私も身体を向けた。


「実はお願い聞いてほしいから来たんだけどいい?」


「え?!……う、うん!いいよ?」


急すぎて心の準備ができてなくて頭がパニックになってきた。え、どうしよう。なんだろう?ちゃんとできるかな?今日ずっとドキドキしてたからまたこんなにドキドキしてたから死んじゃうかもしれない。

私はドキドキしながら由季の言葉を待った。


「葵はさ、私がずっと葵のそばにいて幸せにするって言ったの覚えてる?」


「うん。全部覚えてるよ?」


それは忘れもしない由季が私を止めてくれた時に言ってくれた言葉だ。忘れるはずがなくて何度か頷くと由季は笑みを深める。


「よかった。じゃあ、あれはどういう意味か分かってる?」


「え?……えっと、……えと、そのまま……じゃないの?あの、私と……ずっと一緒にいてくれて、幸せに……してくれるって…」


恥ずかしいけど由季はこんな私を好きでいてくれる。まだ付き合って短いけど由季は私を本当に大切にしてくれる。なんだか恥ずかしくて目を逸らしそうになったら由季は私の手を握ってしっかりと目を見てきた。


「それなのに不安はあるんでしょ?」


「え?…それは……」


「別に怒ってないよ。ちゃんと不安を消せなかった私のせいだし。葵にはちゃんと言わないとって思ってたから。私ね、葵との将来真面目に考えてるんだよ?」


「そう……なの?」


優しい顔をしてるけど真面目に言われてドキッとする。由季と詳しくこういう話をしたことはない。

由季は頷いた。


「うん。あの時言ったのは本当だもん。それに、今まで言ったことも全部本当。葵が大好きで、ずっとそばにいるっていうのはね、長く生きてお婆ちゃんになって死ぬまでって意味なんだよ?まぁ、女同士だから結婚とかはできないし、理解してくれる人も少ないだろうけど私は葵と人生を一緒に生きていきたいって思ってるよ?正式な形にできなくたって今までいろいろあったけど幸せにやってきたし」


「わ、私も…!私も…由季と、一緒に生きていきたい……。私も結婚とか…いいから、一緒にいてくれるなら一緒にいたい」


由季が先を考えてくれているなら私もそれに応えたい。私は最初から由季がいるなら何もいらなかった。結婚なんか端からどうでもよくて、私の幸せは由季がいてくれればそれで良かった。これは前から変わらなくて、それ以外は欲しいとも思わないし言葉にできないくらいの喜びを感じられない。


「うん。ありがとう。でも、葵はこう言っても不安になりやすいし、寂しがり屋だからもっと行動に移して私の気持ちを分かってもらおうと思ってちょっと準備してたんだ」


「準備?」


「うん。私は葵の不安を消してあげるって約束してるし、もっと私の気持ちを葵が感じられて安心できるようにしたいなって。で、まずは始めに同棲を始めたいなって思ってるんだけど葵はそこら辺どうかな?」


「え……?」


由季が言ってくれる言葉が嬉しくて堪らなかったのに驚きすぎて固まってしまった。同棲って、え?あの一緒に住むやつだよね?え……、本当に今同棲って言った?聞き間違えてないよね私。私は理解ができなくなっていたら由季は詳しく説明してくれた。


「一応私と葵の住んでる駅の中間がいいかなって思って部屋もそれなりに見といたんだ。勿論葵の仕事の都合もあるから住みたい所があれば言ってくれれば良いけど、一緒に住んでお互いのプライベートも失くならないように部屋も大きめがいいなって…」


「ゆ、由季!」


「ん?なに?」


なんか間違いじゃなさそうなので慌てて声をかけた。由季は本当に真面目に考えてくれている。でも、あり得ないくらい嬉しい状況に今一度確認した。


「えっと…由季、本当に同棲してくれるの?」


「え?うん。ずっと考えてたし、葵はやだ?」


「ううん!私もしたいよ。でも、私…一緒にずっといたらウザいかもよ…?」


「葵?それ前からよく言ってるけどウザいと思ったことないからね本当に。葵寂しがり屋だからそばにいてあげたいし」


「…う、うん。ありがとう由季……。私も由季と一緒に住みたいと思ってたから…嬉しい……」


「ちょっと葵?どうしたの?」


当たり前みたいに私を受け入れて考えてくれる由季に嬉しくなり過ぎて涙が出てしまった。前も泣いちゃったけど本当に嬉しくて涙が止まらない。由季は頭を優しく撫でてくれた。


「葵……?私もこないだ泣いちゃったけどさ、そんなに泣かないでよ?」


「ごめんね由季。すごい嬉しいから……涙出ちゃって。私も言おうと思ってたのに由季が言ってくれるから…」


「あぁ……じゃあ、もう泣き止んで?あのお願いここで使うから。お願いだから泣き止んで?泣き過ぎだよ葵」


「う、うん……」


由季は頭を撫でながら背中を優しく擦ってくれてあのお願いを言われてしまったから頑張って泣き止んだ。泣いちゃダメ、泣いちゃダメ。必死に言い聞かせて涙を抑えて由季を見ると由季は笑ってキスをしてきた。


「もう大丈夫?」


「うん。…もう泣かないよ」


「そっ。じゃあ、手かして?」


「え?うん…」


由季に左手を握られていきなりなんだろうと思ったら薬指に指輪をはめられた。ダイヤがついた主張しすぎない可愛らしい指輪だった。突然のそれに驚いていたら由季は優しげに私を見つめた。



「これ受け取ってくれる?今日言ったのもそうだけど、私があの時言ったことってプロポーズの意味もあったから。だから、葵が良かったらずっと一緒にいる意味を込めてこの指輪受け取ってほしいんだけど」


「……でも、でも、……私でいいの?」


いつもみたいに笑う由季に信じられなくて泣きながら聞いていた。そこまで深読みできていなかったから驚いたけど嬉しさのあまり信じられない。由季が私に告白してくれた時を思い出して夢みたいだった。


「うん。勿論。私は葵がそばにいてくれて笑っててくれないと幸せになれないもん。葵が一番大好きだし、もう幸せにするって約束してるからいてくれないと困っちゃうし」


「…由季、ありがとう……」


「葵泣かないでよ?さっき泣き止んだのになんでそんなに泣き虫なの?」


「だっ……だって、……だって………ゆきぃ…」


「もう……。ほら泣き止んで?」


さっきよりも涙が出てきてどうしようもなかった。嬉しくて嬉しくて堪らない。由季が慰めるように抱き締めてくれたから強く抱き付いた。

不安はいつも由季が消してくれて由季が私を一番愛してくれる。幸せな今にあの不安と恐怖は現れなかった。やっぱり私には由季しかいなくて、由季が私を望んでくれてもうよく分からないくらい幸せで嬉しかった。


嬉しさのあまりしばらく泣いていた私の顔を覗き込んできた由季は優しく聞いてきた。


「葵?それで葵は私でもいい?私お酒飲んで道端で寝ようとしてた女だけど」


由季が笑いながら言ったことは問題でもなんでもなかった。あの時由季がいてくれて、私の勇気が出なかったらこの幸せはなかった。本当にあの出会いには感謝しかない。


「いいよ?そんな由季も好きだもん。それにまた寝ようとしたら私が起こして助けてあげるし」


「本当?酔い過ぎると喋れなくなっちゃうけど助けてくれる?」


「うん。喋れなくても大好きだから私が絶対助けてあげるよ」


「うん、分かった。ありがとう葵」


大好きな由季が頷いてくれたけど指輪までくれた由季に私も気持ちを伝えたい。私も由季と同じなのだから。


「由季?私、すぐ泣いちゃって寂しがりだし頼りないかもだけど、由季のこと一番好きだし一生懸命頑張って由季のこと幸せにするからこれからもずっとよろしくね?」


「うん。もっと一緒に幸せになれるように一緒に頑張ろうね葵。私も頑張っていっぱい葵を幸せにするから」


「うん!ありがとう由季」


「ううん。大好きだよ葵」


笑う由季はキスをしてくれた。

沢山の由季の愛情が伝わってきて嬉しくて本当に幸せだった。いつも嬉しくしてくれる由季のおかげで私にはまた忘れられない思い出ができた。



由季がずっと一緒ならこの幸せの未來は幸せでしかない。だってこの幸せはずっと続くんだから。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きをこじらせて 风-フェン- @heihati

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ