第70話


「だってこんなことで妬かれても困るでしょ?葵は仕事でも男の人と関わっていかなきゃならないのに、ずっと焼きもち妬かれることになるよ?」


正論を言ったつもりなのに葵はショボくれていた。


「でも由季ならしてくれても良いし、私は困らないし、嬉しいもん…」


「んー?じゃあ、これが原因でまた喧嘩したら嫌でしょ?」


「それは……嫌だけど」


もっと沈んでしまう葵にしょうがなくフォローを入れた。


「だからしないよ。今回は喧嘩した後だったからたぶんしちゃったんだと思うけど、私は葵の気持ち分かってるから」


「……うん。分かった」


葵は渋々頷いたけど、なんだか悲しそうだった。私が普段独占とか束縛をしないから嬉しかったのは分かるけど葵が悲しそうにしていると悪いことをした気分になる。どうしようかなと考えていたら葵が先に口を開いた。


「私も……あんまり嫉妬とか……束縛……しないようにする」


「え?何で?」


「だって、……また喧嘩になったら……嫌だもん」


葵が気にしていることは分かったけど我慢をさせたらいつか爆発して大変なことになりそうな予感がする。この子は敏感で崩れやすいからあまり我慢とかはさせたくない。私はいつもより優しく話した。


「葵はそのままで良いんだよ。私達は、性格とか考え方が違うだけなんだから無理に変えようとしなくて大丈夫だよ?私はそんな葵も受け入れてるし好きだから今まで通りで平気だよ。こないだは私が悪かったし、喧嘩しても仲直りできたんだからさ」


「……うん。ありがとう由季。……でも、……まだ……気にしてる?あの日のこと」


そんなの気にしてるに決まってるけどあまり心配もかけたくないし葵に言って長引かせたくなかった。これは永遠にただ私の中でいましめるだけだ。


「……それはまぁ、ちょっとはね。でも、もう絶対しないよ、本当にあの日はごめんね。それより、体はあの後平気だった?アザとかできてない?」


「平気だよ。私は、本当に平気。……ねぇ由季?本当に平気だから、……上手く言えないけど、あの、……えっと‥」


いつまでも気にしていたら私達の関係が良くなくなる。それを感じた私は気を使う葵の話を終わらせたくて話を流した。


「もう大丈夫だから。それよりさ、明日、ファッションショーでしょ?楽しみだね」


「……う、うん。楽しみ。由季は……来てくれる?」


「もちろんだよ。チケット貰った時に約束したじゃん。絶対行くよ」


喧嘩したから来てくれないかもしれないと思っていたんだろう。内心あの写真を見てから行きたくないと思っていたけど葵が悲しむから約束は守る。心配を消してあげたら葵はまた嬉しそうにしていた。


「うん。頑張るから、よく見といてね?……他の人ばっかり見ちゃダメだからね?私のこと、ちゃんと見てくれないと嫌だよ?」


「分かってるよ。ちゃんと見てるから頑張ってね?」


「うん。……なんか由季に見られるって思うといつもそれなりには緊張するけど、すごく緊張しちゃう」


テレビでも雑誌でも葵はいつも堂々としていて緊張をしているようには見えないのに緊張をしていたのに驚いた。それにしても私に見られるからって言うのは少し笑える。


「え、何でよ?私の前ではよく泣いたりしてるのに」


「それは……そうだけど、それとは違うの。……明日は由季にカッコいいとこ……見せたいから。由季にもっと好きになってほしいから、だから緊張しちゃうの」


可愛いことを言うなと思う。付き合ってからも私は葵への好きな気持ちが増しているのに葵は今でも必死だ。それが本当に愛しくて、愛されてるのを感じる。


「これ以上好きになったら葵から離れられないよ」


ちょっと笑って言ったのに葵は珍しく強目な口調で言ってきた。


「じゃ、じゃあ、もっと頑張る!由季が私から離れられないように頑張るから!」


「はいはい。今も離れられないからそんなに変わらないと思うけど…」


「変わるもん!由季がずっと私から離れないようになったら、私すっごく嬉しいもん!」


可愛らしい葵がこんなにやる気を出して頑張るなら私も何かしてあげたくなった。心の中で考えながら今はまだ秘密にしておく。言ってしまったら楽しくない。


「分かったよ。まぁ、無理のないように明日は頑張ってね?」


「うん!」


「じゃあ、そろそろ寝よっか?明日は大事な日だから」


もう夜も遅いし葵が頑張るなら明日に響かせたくない。だけど葵はそれに寂しそうな声を漏らした。


「……うん。もっと話したかったけど明日だね。……切りたくない」


私が弱くなることを葵は今も理解しないで素でやってくる。ずっと私はこれに弱くて参ってしまう。


「明日見に行くから」


「うん。……絶対来てね?」


「絶対行くよ」


それから少し黙ってしまった葵はいつもみたいに愛を口にした。


「……由季大好きだよ」


「うん。私も好きだよ」


「ふふ、私の方が好きだよ。世界で一番、何よりも、誰よりも、由季が好き。由季を愛しても愛しても、足りないくらい好きだよ」


葵はいつも電話の最後に私にこうやって気持ちを伝えてくる。付き合ってからは毎回やることに私も気持ちを伝えた。


「うん、ありがとう。私も葵が大好きだよ。本当に」


「ふふ、一緒だね由季」


「そうだね。それよりもう切るよ?私も話したいけど、明日も葵は仕事なんだから」


「え、……待って?もう少しだけ話そう?」


たまに我儘を言う葵は本当に寂しそうにするから私は否定できなくなる。明日は大切な日だけど仕方ないか。


「…後少しだけだよ?」


「うん。ありがとう由季」


「…そういえば話すの忘れてたんだけど、前話してた葵のお願いのデートいつ行く?仕事がある程度落ち着いたらで良いけど行けそう?」


前から話そうと思っていたけど今が丁度良いと思った。それなりのプランはネットで探しながら考えていたけど日付を決めた方が私もやる気が出る。


「ああ、えっと、今は落ち着いてきてるからたぶん大丈夫だと思う。由季の休みに合わせるから少し待ってて?由季はいつがだめってある?」


「私は前日とかその日に決まること多いから早めに言ってくれればいつでも平気だよ」


「分かった。じゃあ、確認して調整しておくから待ってて?デート楽しみだなぁ…」


「そうだね。葵が喜んでくれるようにちゃんと考えてるから楽しみにしといて」


予定がほぼ決まって良かった。葵の好きな物は把握しているし、あのデート内容ならたぶん喜んでくれるはず。でももう少し練ろうか、心の中で色々考えていたら葵は本当に嬉しそうに言った。


「由季、私のためにいつもありがとう。由季が私のためにいつも色々考えてやってくれるの嬉しくて、もっと好きになっちゃう。前から本当に好きなのに前よりも好きで好きで、好き過ぎて、いつも由季でいっぱいなの。私の由季が私のために何かしてくれるって考えただけで凄く幸せだよ。私を見てくれて、愛してくれる。由季がそうしてくれるのは私だけ。私だけ由季は特別にしてくれる。それが嬉しい。本当に、……本当に好き。好きだよ由季」


「私もだよ。好きなんだから葵を特別にするに決まってるよ。本当に大好きだよ。可愛くて優しくて、いつも一緒にいたくなるよ」


葵に対する気持ちは本当だ。葵の大きな気持ちに応えると葵は恥ずかしそうに言った。


「そんなこと言われると…由季が好き過ぎて……由季がほしくなっちゃうよ」


葵に求められると嬉しくなってしまう。意識はしてないだろうが煽るようなことをよく言ってくれる可愛い葵に応えてあげようと思った。


「じゃあ明日頑張ったらエッチしよっか?」


葵は性欲が強いと言うか寂しがり屋で不安になりやすいからエッチが好きなんだろう。相手を身近で肌で感じられて、エッチの時はお互いしか見れないからそれが葵を本当に満たすのかもしれない。だって葵は最中に私の顔を見たがるし私から目を離さないようにしてくる。それと気持ち良さがプラスされて葵は愛情を本当に深く感じるから好きなんだろう。


まぁ、私も葵と付き合ってからエッチが好きになったのは本人には恥ずかしいから言うつもりはないが葵と肌を合わせるのは本当に好きだ。

一方的ではないしお互いを気遣って気持ち良くなれるのは正直男よりも良かった。

でも、性別云々よりも一番は大好きな葵が相手だからなんだろう。私は葵以外は考えられない。

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