第51話


歩美と飲んでから数日、私の誕生日がついにやってきた。前日葵は仕事だったけど十二時過ぎに一番に連絡をしてくれた。本当にまめだなと嬉しく思いながら私は昼頃に葵の家に向かった。

今日は誕生日もあるけどこないだした約束を聞かないとならない。何を言われるやら考えながら、私はコンビニで適当に買い出しをしてから葵の家に急いだ。葵の家につくと葵は嬉しそうに私を迎えてくれた。


「由季、誕生日おめでとう!」


部屋に通されてから早速葵は私に祝いの言葉を言ってそのまま抱きついてきた。


「うん、ありがとう。昨日も仕事だったのにわざわざ連絡してくれてありがとうね。遅くまで仕事だったんでしょ?疲れてない?」


少し体を離して頭を撫でる。昨日も撮影を遅くまでやっていたはずなのに、葵はずっとにこにこしていて疲れなんか見せない。


「そんなの平気だよ?由季の誕生日だから張り切っちゃった!お腹空かしてきてくれた?」


「そっか、ありがと。空かしてきたよ」


「じゃあ、待ってて?すぐに用意するからね」


笑ってキッチンに向かおうとする葵を手首を掴んで引き留めた。私のために無償で尽くしてくれる葵が愛しくて不思議がって私を見る葵に少し強引にキスをした。葵はそれだけで恍惚としたように私を見つめてきて、それがまた愛しさを増す。この子の気持ちが嬉しい。


「ありがとう。本当に嬉しいよ」


「ううん、由季のためだから。由季が喜んでくれるなら頑張れるし何でもできるよ?だから今日は何でも言ってね?今日だけじゃないけど私にしてほしいこととかあったら、全部やってあげる」


「うん、ありがとう。葵」


本当に嬉しそうに笑う葵に私は愛されているのを実感してまたキスをする。そして、唇を離して至近距離で見つめ合った。唇が触れそうな距離に葵は恥ずかしがっている。


「好きだよ、葵」


「……うん。私も…好き」


「葵に会えるの楽しみにしてた」


「私も、同じだよ」


二人で笑いあってまたキスをした。でも、これ以上はご飯どころじゃなくなるのでいい加減に葵の手を離してキッチンに行くように促すと葵は素直に向かった。

今日はそのつもりでもあるけど、まずは葵のご飯だ。葵は手早くテーブルに料理を並べた。


「わぁ、美味しそうだね。葵これ全部作ったの?」


「うん。どうかな?由季が好きそうなの作ってみたんだけど」


葵は少し不安そうだけどこれだけ用意されて不満なんかない。私のリクエスト通りミネストローネはもちろんのこと、タコのカルパッチョとローストビーフ、シーザーサラダに煮込みハンバーグを作ってくれた。店の料理のようなそれは本当に美味しそうだった。


「すっごい美味しそうだよ!」


「良かった。由季が前に食べてて、反応が良かったやつを作ってみたの」


葵は安心したように言うけど、全部好きだし煮込みハンバーグに関しては本当に嬉しい。私は基本的に美味しいしか言わないけど葵は本当に私をよく分かっている。以前初めて食べて美味しくて衝撃を受けたのだ。


「全部好きだけど煮込みハンバーグは凄い嬉しい。よく分かったね?」


「うん、由季と一緒にいれば分かるよ?私、よく見てるもん。由季の食べる時の仕草とか、癖とかも分かるよ?」


「えぇ?そこまでバレてるの?恥ずかしいなぁ。でも、葵本当に私ばっかり見てるよね?二人の時も前行った旅行の時も、葵の視線よく感じるよ」


からかうように笑って言うと葵はすぐに照れていた。葵の視線はもうよく分かるようになった。二人でいる時もいない時も葵は私を視界に入れておきたいと言わんばかりに私を見ている。私を見ている時に目が合うと慌てて逸らしたり恥ずかしがったりしていて、それなら止めたら良いのに止めない葵がいじらしくて私は気づかないふりをよくしている。


「……気づいてたの?」


「え?うん、まぁね。葵あからさまにこっち見てるし、目が合うとよく逸らすじゃん」


「それは…照れるし、由季が…好きだから、目が由季に行っちゃうんだもん」


「私のこと大好きだもんね?」


葵の返答が可愛くてにやにやしながら聞くと葵は目線をついに逸らしてしまった。可愛いやつめ。それでも葵は恥ずかしがりながら言った。


「そうだよ?…私が、一番好きだもん。誰よりも私が一番好き。私以外、こんなに好きな人いないもん。絶対、絶対に、譲らない。由季は私の…だし」


葵の一生懸命な返答に胸がときめいて私は思わず頭を撫でてあげた。本当に可愛くて参ってしまう。


「ふふ、可愛いなぁ。私は幸せ者だね。ありがとう。とりあえず早くご飯食べよ?」


それから私達は葵が作ったご飯を堪能した。どれも本当に美味しくて私は本当に満足した。葵も嬉しそうにしていたから良かったし、食べ終わった後に手作りのケーキも用意してくれて私の誕生日を盛大に祝ってくれた。葵は歌まで歌ってくれて今日の記念に写真も撮った。本当に充実した誕生日だ。


しかし、ケーキを食べ終えてから葵はどこからか綺麗にラッピングされたプレゼントを持ってきた。それは明らかに私の好きなブランドの物で私は少し呆れたように顔を歪めてしまう。葵はそんな私に言い訳するように様子を伺いながら話しだした。


「あの、これ、誕生日…プレゼントなんだけど……あんまり思い浮かばなかったから買っちゃった、というか。そんなに、凄く高いやつじゃないから…あの、良いかなって思ったんだけど……お、怒ってる?」


葵はおどおどしながら不安そうに言った。それもそうだ、私は誕生日前に散々葵からプレゼントは何が良いか聞かれたが結局何でも良いと言っていたが高い物は買わないように言っておいた。葵ならやりかねないからあらかじめ注意しといたのに買ってしまったらしい。喜んでほしい一心なのは分かるが、葵らしいといえば葵らしいのか。


「……結構したんじゃないの?」


「そんなに、してないよ?」


「本当に?嬉しいけどあんまり高いのはだめだよって言ったでしょ?」


私の好きなブランドはそれなりの値段がする。これは、奮発しただろうに。いつもの口調で言ったけど葵は悲しそうな顔をした。


「由季に、喜んでほしくて……ごめんなさい」


葵がシュンとして申し訳なさそうにするからそれ以上何も言えなくなってしまった。この子のこれは胸が痛む。とりあえずプレゼントを受け取って頭を撫でてあげた。


「そんな顔しないで?ありがとう。嬉しいよ。でも次からはちゃんと言うこと聞かないとだめだよ?」


「うん。ごめんね?」


「いいよ。それより何かな?開けていい?」


「うん、開けてみて?」


葵に促されて私はラッピングを解いていく。中にはブランドのロゴの形が付いたネックレスが入っていた。可愛らしいシルバーのそれは結構高かったんじゃないのかなと思うけど葵は私の反応を不安げに見つめてくる。


「どうかな?……由季が前に好きだって言ってたし……シルバーのアクセサリーよくしてるから…好きかなって思ったんだけど……あんまり、気に入らない?」


「ううん、色々考えてくれてありがとう。嬉しいよ」


私は素直にお礼を言った。葵の気持ちが純粋に嬉しかった。私をよく見て話を覚えて一生懸命選んでくれたのが分かるしここまでされて喜ばないなんてそんなのあり得ない。


「良かった。喜んでくれなかったらどうしようかと思ったけど、本当に良かった」


とても安心したように笑う葵に逆に驚いた。


「そんなに心配しなくても、私はいつも嫌がったりとかしないでしょ?」


嫌がられると思ってたのだろうか。どんな物でも嬉しいけど、葵は私の問いに少し言いづらそうに答えた。


「そうだけど。……私、初めて……こういうことするから、不安だったの。……でも、喜んでくれて良かった」


「なんだ、そういうこと。私は葵がしてくれるなら何でも嬉しいからね」


安心させるように頭を撫でると嬉しそうに頷いてくれた。しかしまた、葵は言いづらそうにもじもじし始める。


「あの、あとね?えっと、こういうの由季は嫌かもしれないけど…やりたかっていうか…」


「ん?なにが?」


「あの、…………その……」


中々言わない葵。なんか恥ずかしがってるし何だろう。優しく手を握って促してあげた。


「なあに?嫌がらないから大丈夫だよ?」


葵は私の手を握ってやっと恥ずかしそうに呟いた。


「うん……あのね?…実は、お揃いで買ってて……私はゴールドなんだけど…。なにか、一緒の……欲しくて」


「え、そうだったの?」


葵は驚いた私に頷くと首元に手をやって服の下に隠していたであろう私と同じ形のゴールドのネックレスを見せてきた。私が言わなかったから随分お金を使わせてしまったみたいで、私がそのことに苦笑いしていると葵は勘違いしたのか不安そうに顔を下げてしまった。


「やっぱり…こういうの、いや?由季がやだったら……外すから…嫌なら…」


「あ、あぁ、ちょっと待って。嫌じゃないよ?嫌じゃないから外さなくていいよ?」


葵は本当に悲しそうに言うから慌てて遮って否定した。お揃いなんかで嫌がらないのに葵はすぐに不安がってしまう。私はすぐに貰ったネックレスを付けて見せた。


「これでお揃い。初めてだね?二人でお揃いなの。すっごく嬉しいよ」


お金に関してはこの際もう言わない。この子が喜ぶなら私は負けてあげるだけだ。葵は私のネックレスを見て嬉しそうに言った。


「うん、私も嬉しい。……由季とお揃い。嬉しくて外せない。由季の誕生日なのに、私の方が嬉しくなっちゃった」


「ふふふ、葵が喜ぶと私も嬉しいよ」


私達はこうして初めてお揃いの物を身に付けた。

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